【ストレスチェック分析レポート2018】
教員
近年、教員のストレス過多が問題となっています。
平成28年度時点で国公私立学校教員の病気離職者のうち約50.2%が離職の理由を精神疾患としていました。
さらに、公立学校教職員についても病気休職者のうち約63.0%が精神疾患を休職理由としています(「公立学校教職員の人事行政状況調査」)。公立学校の精神疾患による休職者の割合は平成11年度から急激に増加しており、平成28年度時点で0.53%(参考:平成22年度全業種平均0.45%)にまで及んでいます。
児童・生徒・学生の成長には、教員の存在が大きな役割を果たします。したがって、教員が自分の心身の健康を維持することは非常に重要であり、ストレス対策が喫緊の課題となっています。
当社は、「AltPaperストレスチェックキット」をご契約いただいたお客様に個人情報を除いた集計データをご提供いただき、業種別・職種別・男女別に高ストレス者の割合・総合健康リスクを算出しました。今回はそのなかから、「教員」のストレス状況とメンタルヘルス対策をご紹介します。
教員のストレスに関する調査結果
教員にとっての大きなストレス要因は、仕事量の多さと身体への負担
教員の高ストレス者の割合と総合健康リスクは、その他の職種と比較して低めの数値が算出されました。ストレスチェックの尺度別にみても、ほとんどの尺度で全国平均並みもしくは全国平均を上回る数値が出ているため、教員全体としての高ストレス者の割合と総合健康リスクは低めの数値となりました。なかでも、「職場環境によるストレス」「技能の活用度」「自覚的な仕事の適性度」「働きがい」「仕事や生活の満足度」は男女共にとても高い数値になっており、教員が仕事に対し前向きに取り組んでいることがわかります。
しかし、「心理的な仕事の負担(量)」「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担度」については、全国平均を大きく下回る数値になっていることから、長時間の残業や細やかな対応を必要とする業務内容が教員の心身のストレスを引き起こす要因となりやすいことが読み取れます。
〔 調査の詳細 〕
1.調査方法
男性と女性のデータを分けて、各尺度の平均値・高ストレス者の割合(※[1])、総合健康リスク(※[2])を算出しました。その後、職種別の平均値を算出しました。
※回答時に部署欄に記入された職種を、「日本標準職種分類」の大分類(一部中分類)に変換して、職種別で比較しました。
※[1] 本分析における「高ストレス者」は、厚生労働省(2015)が公表したストレスチェック実施マニュアルに基づいており、以下①及び②に該当する者を指します。①及び②に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とします。
①「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
②「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」および「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※ [2] 本分析における「健康リスク」は、基準値として設定された全国平均100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の2つをさらに男女別に分けたもので構成され、この2つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
◆仕事のストレス判定図
①量-コントロール判定図…仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
②職場の支援判定図…上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
2.調査結果
前述した通り、教員の高ストレス者の割合と総合健康リスクは、その他の職種と比較して低めの数値が算出されています。しかし、ストレスチェックの尺度別にみると、ストレス要因となりうるものがいくつか浮かび上がってきました。
職業性ストレス簡易調査票における各尺度の平均値が全国データからどれ程乖離しているかを計るために、全国平均を0とし、1から-1の間に全国データの7割が入るように、正規化数値(※[3])を算出しました。
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※[3] { (各尺度の値) – (全国平均) }/(全国データの標準偏差)×100を正規化数値と仮定しました。
総合健康リスクの算出に使われる4つの尺度(グラフ赤枠)のなかでは、男女共に「心理的な仕事の負担(量)」の数値が全国平均を下回っており、特に女性教員の数値の低さが目立ちます。一方、「心理的な仕事の負担(量)」以外の3つの尺度「仕事の裁量度」「上司からの支援度」「同僚からの支援度」については、男女共に全国平均並みもしくはそれを大きく上回る数値が出ています。このため、教員全体の総合健康リスクは比較的低く算出されたのだと推測されます。
また、4つの尺度以外については、「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担度」(グラフ黄枠)の数値が男女共に全国平均を大きく下回っています。前述した「心理的な仕事の負担(量)」と合わせて、この3つの要素が教員のストレス度合いに影響を及ぼしていると考えられます。
一方、上記の尺度以外については、男女共に全国平均値を大きく上回っています。なかでも「職場環境によるストレス」「技能の活用度」「自覚的な仕事の適性度」「働きがい」「仕事や生活の満足度」は男女共にとても高い数値が出ています。教員個人にある程度の裁量権があり、若者の育成に携わる職業柄、仕事そのものに対するやりがいや充実を感じている人が多いのだと思われます。このため、高ストレス者の割合も比較的低く算出されたのだと考えられます。
文部科学省の調査によると、平成18年度時点の教職員の残業時間数は、昭和41年度(約8時間)と比較して約5倍(約42時間)になっており、授業の準備や成績の処理などの通常業務が規定時間外に行われていることが明らかになっています。
さらに、生徒に対する教育業務の他に、保護者との関わりや報告書類の作成などの付随する業務も増加しています。また、生徒の生活指導や保護者対応、地域コミュニティとの関係づくりについては、モラルある細やかな気遣いが必要とされ、業務の質的にもストレス要因となりやすいのではないかと思われます。
教員のメンタルヘルス対策
教員のメンタルヘルス不調を防ぐために、教員個人のセルフケアおよび学校内の職場づくりとしては、どのような取り組みをしていけばよいのでしょうか?
1.セルフケア
まず、教員自身が自分のストレスやメンタルヘルス不調に気づくことが大切です。このためには、ストレスチェックの結果通知や下記のストレス・セルフチェック表などが役立つでしょう。
文部科学省の調査では、教員の約18%が「ストレスが解消できていない」と回答しており、「自分は大丈夫」と過信して健康診断等を受けない人がいることもわかっています。
また、精神疾患により休職した教員の約67%が病気休暇に入る直前まで精神科を受診していないという調査結果も出ています。
少しでも自分の心身に不調が生じていることに気づいたら勇気を出して医師に相談することが大切です。また、ストレスを溜め込まないようにするために、日頃からセルフケアに取り組むことも効果的です。セルフケアとしては、帰宅後や休日にストレッチや軽い運動を行ったり、音楽鑑賞をするなど、仕事から離れた趣味を持つようにするとよいでしょう。
〔 ストレス・セルフチェック表 〕
以下に挙げる項目のうち、最近1ヵ月間の自分に当てはまる項目をチェックしてください。
▢ 食欲が低下したり、過食気味になった
▢ タバコやコーヒーの量が増えた
▢ 酔って愚痴をこぼすようになった
▢ 夜中に目が覚めやすくなった
▢ めまいや動悸を感じやすくなった
▢ 朝から頭や体が重い
▢ 通勤途中にイライラしやすくなった
▢ 児童・生徒とすれちがっても話したくない
▢ 職員室での会話が減った
▢ 学級全体を掌握し難くなった
▢ 児童・生徒を叱りやすくなった
▢ 保護者に連絡するのが面倒になってきた
▢ 校長や教師の考え方により批判的になった
▢ 学校行事の準備が面倒になった
▢ テストの採点ミスが増えた
▢ 職員室の自分の机がちらかってきた
▢ 教育雑誌を読まなくなってきた
評価:当てはまる項目の数
0~5 ……ストレスコントロール良好です
6~10 …ストレスコントロール不良予備軍です
11~15…ストレスコントロール不良です
16~20…ストレスによる不適応状態です
※中島一憲:『 こころの休み時間―教師自身のメンタルヘルス 』(学事出版・1979)より引用・改変
2.職場環境の改善
また、学校・教育委員会側が教職員のメンタルヘルスを考慮した職場環境づくりに取り組むことも必要です。教職員の残業時間や業務内容を把握し、改善に向けて新たな体制を構築する、業務を効率化するための機器を導入するなど、教員の心身の負担を軽減するために根本的な改革に取り組むことが望ましいでしょう。
さらに、教員は個々でクラスを持つなど単独で業務に取り組むことが多いと思われますが、教員同士が活発にコミュニケーションを取ることも負担の軽減につながります。教員同士が互いにサポートし合えるような関係性を築けるよう、職場の雰囲気づくりにも取り組みましょう。
★ポイント★
教員のメンタルヘルスの状態を正確に把握するためには、ストレスチェックが有用なツールとなります。
ストレスチェックには様々な尺度があり、受検者のストレスの総合評価だけではなく、その要因となるものを見つけ出すことにも役立ちます。また、受検者が自分のストレス状況を把握することはもちろん、集団レベルでのストレス傾向を導き出すこともでき、職場として改善すべき点の発見にもつながります。
近年、教員の高ストレスが問題視されていますが、メンタルヘルスの不調を予防・早期改善するためにも、まずは現状を正確に把握することが大切です。
〔 参考文献・関連リンク 〕
- 文部科学省:教職員のメンタルヘルス対策について(最終まとめ)(2013)
- 文部科学省:平成28年度学校教員統計調査(2017)
- 文部科学省:平成28年度公立学校教職員の人事行政状況調査(2017)
- 中島一憲「こころの休み時間―教師自身のメンタルヘルス」(学事出版・1997)
- 文部科学省:平成28年度公立学校教職員の人事行政状況調査(2017)
- 労務行政研究所:企業におけるメンタルヘルスの実態と対策(2010)
初出:2018年04月26日 / 編集:2019年07月30日 |