ストレスチェック制度の実施にあたっては、衛生委員会での審議を始め、実施者や実施事務従事者の設定や高ストレス者の面接指導の対応等、多くの手間と費用を要します。ストレスチェック制度に関する業務について、外部機関へ委託することを考えられたこともあるのではないでしょうか。
また、既に外部機関へ委託されている場合にも、自社組織の体制等に見合ったストレスチェックサービスへの乗り換えを検討されているケースがあるかもしれません。
ストレスチェックの外部機関への委託について
ストレスチェック制度に関する関係法令をみると、外部機関へ業務を委託することは禁止されてはいません。
ストレスチェック指針には下記の通り、外部機関へ委託する際の留意事項が記載されています。ストレスチェックを外部機関へ委託することを検討する際には必ず目を通しておきましょう。
【外部機関にストレスチェック等を委託する場合の体制の確認に関する留意事項】
厚生労働省:心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づ き事業者が講ずべき措置に関する指針(2018年8月22日改正)
ストレスチェック又は面接指導は、事業場の状況を日頃から把握している当該事業場の産業医等が実施することが望ましいが、事業者は、必要に応じてストレスチェック又は面接指導の全部又は一部を外部機関に委託することも可能である。この場合には、当該委託先において、ストレスチェック又は面接指導を適切に実施できる体制及び情報管理が適切に行われる体制が整備されているか等について、事前に確認することが望ましい。
ストレスチェックは当該事業場の産業医が実施することが望ましいとしながらも、実施体制と管理体制がしっかりしていれば外部機関に全面的に委託しても問題ないのです。
外部機関にストレスチェックの実施を依頼すると、以下のようなメリットがあります。効率的な制度の運営のために、外部業者への委託についても検討してみてはいかがでしょうか。
① 低コストで実施できる可能性がある
ストレスチェック制度を実施するにあたっては、制度担当者や実施者、実施事務従事者等の設定が必要です。これらをすべて社内スタッフが担当すると、多額の追加的人件費が発生するでしょう。また、ストレスチェックの担当者となっても通常業務を行わなければならないので、仕事の負担が大きくなってしまいます。
初めてストレスチェック制度を実施する場合は、社内にノウハウがないため特に時間がかかってしまうことが予想されますが、ストレスチェックサービスを行っている業者は制度実施に関するプロフェッショナルで知識が豊富なので、効率的かつ円滑に制度を運用する方法を心得ています。
また、事業場の産業医がいない場合や産業医がいても必要最低限のスポット契約である場合など、ストレスチェックの実施や結果の検討、面接指導を行うことについて追加費用が発生する場合があります。このような場合に外部機関にストレスチェック業務を委託すれば、結果的に費用を抑えることができる可能性があります。
② 従業員の受検率が上がる可能性がある
ストレスチェック制度においては、個々の労働者の受検結果については担当者に守秘義務が課されています。事業者への結果の提供については、必ず本人の同意が必要です。本制度においては労働者の心の健康というデリケートな情報を取り扱うため、このような慎重な配慮がなされているのです。
ストレスチェックの実施事務従事者には総務部や人事部の社員がなるケースが多いと思われますが、守秘義務があるとはいえ、自分のメンタルヘルスに関する調査結果が社内の人に見られてしまうことに抵抗がある人も少なからずいます。
ある会社の従業員に対するアンケートでは、外部機関へ業務委託した方が受検しやすいと答えた労働者の割合が6割を超えるという結果が出ました。
しがたって、外部機関へストレスチェック制度に関する業務を委託することによって従業員が受検しやすくなるという効果も期待できます。
ストレスチェックサービスを検討する際のポイント
現在、多数の会社がストレスチェック制度に関するサービスを提供しています。インターネット上で検索すると、いくつものサービス会社がヒットします。これらの会社の中から自社に合った会社を選んで業務委託をすることになりますが、委託先を検討する際は、主に以下の4項目を検討し、納得できる委託先を選ぶようにしましょう。
1.1人あたりの調査費用
まず気になるのがストレスチェックに関する業務を依頼する際の費用です。多くのサービス会社では、基本料金と1人あたりの調査料金で金額を設定しているようです。事業場の規模にもよりますが、50~200人程度の事業場の場合、1人あたり500~800円程度が相場のようです。
調査の方法によって料金が違うケースがほとんどです。紙媒体で行うかWEB上で行うかにより、1人あたり100円程度の違いが生じます。
また、料金について検討する際には、産業医の紹介料や派遣料を含むのかという点にも注意する必要があります。
2.調査の方式
厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルによれば、実施の方法については紙媒体である必要性はありません。紙による調査票を用いてもWEB上で回答してもらっても構いません。
ただし、ストレスチェックの結果について記録の保存義務があるので、守秘義務を守ったうえで適切な方法で記録を保存するためには電子データの方が便利かもしれません。
また、WEB上で調査を行う場合においては、端末がPCのみであるのか、各自のスマートフォン等を含むのかを確認することも重要です。
自社の労働者の状況を見て、受検率が最も高くなるような調査法を選択するようにしましょう。調査の方法によって受検率は大きく変動します。
3.職場改善の取り組みができるか
ストレスチェック制度の目的は、労働者のメンタルヘルス不調の一次予防にあります。本制度においては、ストレスチェックを実施し、高ストレス者のうち必要なものに対して面接指導を行うところまでが事業者の義務になります。
集団分析やその結果の活用等、職場環境の改善の取り組み自体は努力義務にとどまっています。しかし、制度の趣旨を考えれば、調査と面接指導を実施するだけでなく、その後の取り組みを行った方が良いことは明らかです。
職場環境が改善され、高ストレス者が発生しにくい環境を整えることができれば、長期的に見て事業者側にもメリットがあるのでないでしょうか。
この取り組みを支援してくれる体制が整っているかどうかも、検討項目の1つに加えてください。
4.職場環境改善業務の証明
職場環境改善の取り組みを行うことができた場合、その活動についてレポート等の発行が可能であるかを問い合わせてみましょう。
ストレスチェック制度や定期健康診断等、事業者には労働者の心身の健康管理を適切に行うことが義務づけられています。したがって、メンタルヘルス不調を原因として自殺者等が出た場合には、事業者として従業員の健康管理にきちんと取り組んでいたかどうかが問題となります。
委託先としては職場環境改善活動について、適切な文書を提出してくれる会社が望ましいでしょう。
★ポイント★
ストレスチェックに関する業務をすべて自社で行うと、表面には現れにくい費用や担当者の業務上の負担、従業員の心理的な負担も生じます。
ストレスチェック制度は従業員の健康管理という全体的な取り組みの一環であるという認識のもと、効率的な制度の運営をするためにも業務委託を検討してみてはいかがでしょうか。
初出: 2017年11月14日 / 編集: 2019年8月22日 |