35℃を超える猛暑日が続いています。職場や家庭の熱中症対策、どうしていますか?
「頭がボーッとしてやる気が起きない」「気分が沈みがち。夏バテなのかな…」
熱中症と聞くと身体の不調をイメージしがちですが、猛暑はメンタルヘルスにも大きな影響を与えることがわかってきました。
2022年にアメリカで発表された研究では、猛暑になるとメンタルヘルスの治療で救急外来を訪れる人が増加すると伝えられています。(米国医師会が発行する月刊医学雑誌「JAMA Psychiatry」2022年)
また、月の平均気温が1℃上がるにつれて自殺率が0.7~2%(アメリカ/メキシコ)高くなるとの報告もあります。(気候変動に関する最先端の研究論文を掲載する月刊誌『Nature Climate Change』2018年)
このように、猛暑とメンタルヘルスは私たちが想像している以上に複雑で密接な関係があるようなのです。
一体なぜなのでしょうか?

猛暑でメンタルヘルス疾患の症状が悪化するのはなぜ?
私たちの脳の複雑な認知機能は、安静時の体温が37℃を超えると低下しはじめます。
外の気温が高いと寝不足や水分・栄養不足が原因で体温調節がうまくいかなくなり、体外に熱を放出できず体内にこもってしまうため体温が上昇します。また炎天下で汗をたくさんかくと体内の水分・塩分が失われ体液の濃度を保てなくなり、血流や筋肉などさまざまな部分に支障が出ます。これが熱中症のメカニズムです。
さらに、どうやらメンタルヘルスと深く関わりのあるドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどという神経伝達物質は、体温調節の一翼も担っているようなのです。本当のところはまだまだ謎が多いようですが、このバランスが崩れることが猛暑とメンタルヘルスの変化に大いに関係ありそうです。
例えば、よく加齢により暑さを感じにくくなったり、認知症などで認知機能が低下している方は特に、夏なのにセーターを着込んだりストーブをつけたりすることがある、熱中症が心配…という話を聞いたことはありませんか?うつ病などメンタルヘルスに不調が起こると、微熱が続いたり、身体がほてったり、体温調節が上手くいかなくなるというのもよくあることです。自律神経や不安・情動のコントロールと体温調節は複雑に関係しあっています。

また、気分や感情をコントロールし心の安定を保つホルモンであるセロトニンを脳内でつくるためには、トリプトファンという必須アミノ酸が必要なのですが、これは体内では生成できず食べ物から摂取しなければなりません。なので、暑くて食欲が出ず、口当たりのよいものばかりの食事が続くとトリプトファンが不足してしまいます。
さらにこのトリプトファン、日中は脳内でセロトニンに、夜になると睡眠を促すメラトニンに変化する重要な役割があり、不足すると不眠や睡眠の質の低下の原因にもなってしまうのです。
熱中症対策・夏のメンタルヘルス対策には、体温調節・必須アミノ酸摂取にカギあり?
そこで熱中症対策とメンタルヘルス対策と併せてお勧めなのが、食事と水分補給にトリプトファンの多い食べ物を意識して取り入れることです。
トリプトファンはおもに豆類などの植物性たんぱく質に多く含まれます。大豆製品(豆腐・納豆・味噌・しょうゆなど)、乳製品(チーズ・牛乳・ヨーグルトなど)、米・穀類などの他、ごま・ピーナッツ・卵・バナナにも含まれています。肉や魚など動物性たんぱく質は「炭水化物(穀類、いも類、果物など)」と「ビタミンB6※」を一緒に摂るとよい※そうです。つまりバランスよく摂取することが必要です。

※ビタミンB6は、鮭・さば・さんまなどの魚類、鶏胸肉・ささみなどの脂身の少ない肉類、酒粕や抹茶、ごまなどに豊富に含まれる。
※動物性たんぱく質のみの摂取だと、たんぱく質に含まれるアミノ酸BCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)の作用によりトリプトファンが脳へ取り込みにくくなるため。
そうはいっても、
やはり暑さで食欲がない…。麺類などのど越しのよいものしか食べる気がしない…。
そういった場合は、せめておかずやおつまみにチーズや枝豆、豆腐などを積極的に摂ることや、鶏胸肉やささみなどをさっぱり系の味付けで調理するとよいでしょう。
水分補給が必要なのはご承知のことと思いますが、ここでも注意が必要な点があります。
脳の80%は水分でできているといわれ、0.5リットルの水を飲んだ人と飲まなかった人の間には作業効率に大きな違いがあったという実験もあり、脳内のホルモンバランスを整えるのに水分補給は必須です。
ただ、水分だけだとかえって熱中症の悪化を招くこともあり、塩分・エネルギー補給も大事です。1リットルの水に対して1~2グラムを目安に食塩を、エネルギー補給のために砂糖などを加えると水分・塩分の吸収がよくなり疲労回復にもつながるためより効果的。手早く塩分・糖分を一緒に補給できるスポーツドリンクや経口補水液はお勧めです。
また夏は冷たいビールが美味しい季節ですが、アルコールには利尿作用があり、体内の水分を奪ってしまうため摂取はほどほどに。カフェインにも同じく利尿作用があるので、アイスコーヒーの飲みすぎには注意しましょう。メンタルヘルス対策と併せて、トリプトファンを多く含む牛乳や豆乳などを入れてカフェラテ、カフェオレにしてみてはいかがでしょうか。

メンタルヘルスと深く関わっている自律神経は、ストレスの影響を多く受けます。
気圧や寒暖差などの変化、強い日差しも大きなストレスの一つです。猛暑で35℃を超える屋外の気温と冷房が効きすぎている室内の差からも当然、身体はストレスを受けてしまいます。職業や生活によっては自分ではどうにもできないこともありますが、自分でコントロールできるところはコントロールし、身体や心にとって快適に過ごせるよう心がけましょう。
どうかいつもより自分に優しくしてあげて、暑い夏を乗り切りましょう!
〔参考文献・関連リンク〕
- 「Association Between Ambient Heat and Risk of Emergency Department Visits for Mental Health Among US Adults, 2010 to 2019」, 『JAMA Psychiatry』, 2022年
- 「Higher temperatures increase suicide rates in the United States and Mexico」,『Nature Climate Change』, 2018年
- 「Subjective thirst moderates changes in speed of responding associated with water consumption」, 『Frontiers in Human Neuroscience』, 2013
初出:2024年07月31日 |