高齢従業員の安全衛生対策と健康確保のためのガイドライン。

高齢従業員の安全衛生対策、できていますか?”年齢を重ねてもイキイキと働ける、エイジフレンドリーな職場環境づくり”を考える

日ごろより職場の安全衛生管理に取り組んでいるご担当者の皆さまは、定年の延長や再雇用などにより継続して働いている高年齢労働者の健康・安全について、どのような対策をされていますでしょうか。
 
改正高年齢者雇用安定法令和3年4月1日より施行されています。
この法律により、現在、70歳までの就業機会の確保が努力義務となりました。少子高齢化による労働者不足に対応するだけでなく、昔と比べて健康寿命が延びている中で、年齢を重ねてもイキイキと働ける職場環境づくりが求められています。

「何をどう対策してよいかわからない」「事業者に求められていることは具体的に何?」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
 
そこで今回は、厚生労働省が安全と健康確保のために事業者と労働者が取り組むべき事項をまとめた、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」をもとに、対策と活用できる国の補助金・相談制度についてご紹介します。
 

高年齢者の健康と労働災害

近年、高年齢者(60歳以上)の就業が増えている一方で、労働災害(就業中の事故)に占める高年齢者の割合も増えている現状があります。労働災害による休業4日以上の死傷者数のうち、60歳以上の高年齢者の割合は26.1%(2018年)とおよそ4分の1を占めており、労働者千人当たりの労働災害件数では、男女ともに若年層に比べ高年齢層が相対的に高く(25~29歳と比較した場合、65~69歳では男性2.0倍、女性4.9倍)、休業も長期化しやすくなっています。
 

年齢別・男女別の労働崔学発生率(2018年)
年齢別・男女別の労働崔学発生率(2018年)

 

60歳を過ぎれば、体力、筋力、俊敏性などの運動能力や、視力、聴力などの生理機能に変化があらわれてくるのは自然なことです。基礎疾患を抱える人、治療が必要な病気に罹る割合も増えます。体力面や生理的機能についても加齢による影響が目立つようになります。例えば、労働災害の発生率の高い建設業のデータから見ると、年齢が上がるにつれて発生率も上昇し、その中でも墜落・転落災害が多い傾向となっています。
 

<年齢別発生状況の推移>
<事故の型別発生状況の推移>
 
出典:中災防 労働災害分析データ(令和2年分)

 

労働災害も含めケガなどをしてしまうと、若年労働者と比べて重症化しやすく、その回復にも時間を要する傾向があります。実際に傷病による休職件数も、50歳以上では若年層と比べ増加しており、特に60歳から64歳までは大幅に高くなっています。(協会けんぽ 現金給付受給者状況調査(令和元年度)第一部:傷病手当金より)
 
熟練した技能と経験をもつ高年齢労働者の方は、業務全体を把握し判断力や統率力を備えていることが多く職場の大きな戦力です。その反面、体力や健康上の不安もあることから、企業にとっては深刻な課題の一つとなるでしょう。その能力を十分に発揮し、長くやりがいをもって働いてもらうために、高年齢労働者の体力や健康課題に配慮した対応を取ることが大切になってきます。
 
雇用を拡大させることは、単に労働者の受入口を増やすだけでなく、さまざまな年齢層や身体機能を考慮し、すべての労働者が安心して働ける労働環境づくりが重要となります。
 

高年齢労働者の体力や健康課題に応じた対応

以上の点を踏まえて、企業・高年齢労働者双方が健康や体力の状況を客観的に把握し、企業はその体力にあった作業に従事させ、高年齢労働者は自らの身体機能の維持・向上に取り組むことが求められています。
 
厚生労働省がまとめた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」の中では、次のように記載されています。
※エイジフレンドリーとは「高年齢者の特性を考慮した」を意味する言葉で、WHO や欧米の労働衛生機関で使用されています。
 

■事業者に求められる取り組み

事業者には、高年齢労働者の就労状況や業務の内容等の実情に応じて、国や関係団体等による支援も活用して、法令で義務付けられているものに必ず取り組むことに加えて、実施可能な高齢者労働災害防止対策に積極的に取り組むよう努めることが求められています。

具体的な取り組みとしては、主に次の5つ。
 

【具体的な取り組み】

(1)安全衛生管理体制の確立等
 経営トップ自らが安全衛生方針を表明し、担当する組織や担当者を指定するとともに、高年齢労働者の身体機能の低下等による労働災害についてリスクアセスメントを実施

(2)職場環境の改善
 照度の確保、段差の解消、補助機器の導入等、身体機能の低下を補う設備・装置の導入などのハード面の対策とともに、勤務形態等の工夫、ゆとりのある作業スピード等、高年齢労働者の特性を考慮した作業管理などのソフト面の対策も実施

(3)高年齢労働者の健康や体力の状況の把握

 健康診断や体力チェックにより、事業者、高年齢労働者双方が当該高年齢労働者の健康や体力の状況を客観的に把握

(4)高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
 健康診断や体力チェックにより把握した個々の高年齢労働者の健康や体力の状況に応じて、安全と健康の点で適合する業務をマッチングするとともに、集団及び個々の高年齢労働者を対象に身体機能の維持向上に取り組む

(5)安全衛生教育
 十分な時間をかけ、写真や図、映像等文字以外の情報も活用した教育を実施するとともに、再雇用や再就職等で経験のない業種や業務に従事する高年齢労働者には、特に丁寧な教育訓練を実施

 
以上の項目に基づいて、安全管理や衛生管理体制と職場環境の見直しを行う必要があります。

特に、高年齢労働者は転倒による災害率が高いため、段差を少なくする、手すりなどを設置するといった設備の改善、老眼などでも見やすいように照明を工夫する、腰に負担が行かないような作業台の工夫など身体能力の低下を補う設備・装置の導入など、企業全体で検討し必要な対策が必要です。他にも、労働時間の工夫や配慮を行い、短時間や交代制の勤務など、さまざまな働き方が選択可能なことでより就労意欲を保つ効果が期待できます。高年齢者だけでなく、持病や障害を持っている従業員などにとっても働きやすい環境を整備することが、職場改善につながります。
 
また、多くの職場ではさまざまな年齢層の方々がいるため、高年齢者に対しどのように配慮すべきか、どのような取り組みを行うのかを周知する必要もあります。厚生労働省の公表している「高年齢者に配慮した職場改善マニュアル」にあるチェックリストなどを活用し、定期的に確認を行うことで、職場全体で安全意識を持ってもらうことができるのではないでしょうか。
 

■労働者に求められる取り組み

労働者自身に求められる取り組みとしては、以下のように定められています。
 
事業者が実施する労働災害防止対策の取組に協力するとともに、自己の健康を守るための努力の重要性を理解し、自らの健康づくりに積極的に取り組むよう努める、とされています。
 

【具体的な取り組み】

・健康診断等による健康や体力の状況の客観的な把握と維持管理
・日常的な運動、食習慣の改善等による体力の維持と生活習慣の改善

 

健康診断の受診や結果のフォローなどは特に注視しておく必要があります。

結果によっては産業医への相談かかりつけ医への受診を促すなど、積極的に企業側がフォローを行うことも大切になってくるでしょう。それにより労働者の自覚を促し、健康状態を正しく認識することが可能となります。自身の健康状態を維持するほかに、基礎的な体力の向上や健康づくりに意識して取り組むことに努める必要もあります。

簡単でもよいので、例えば毎日ラジオ体操やストレッチを行う、1・2階程度であればエレベーターを使わず階段を使うなどといった日常に運動を取り入れることで体力の維持や生活習慣の改善が期待できます
 
また、定期的な産業医との面談を行うことで健康状態を記録し、場合によっては仕事内容の変更や労働時間の短縮や夜勤の回数制限、作業の転換等の措置を講じることが必要です。体力の衰えや生理的機能の低下などは、自身ではなかなか気づきにくい部分もありますので、企業側のサポートにより労働者に自身の健康や体力と向き合い、働き方を選択してもらうことで労働災害などのリスクを減らせる可能性が高くなります
 

■国・関係団体等による支援の活用

また、エイジフレンドリーガイドラインでは、事業者は労働災害防止対策に取り組むにあたり、国・関係団体等による支援策の効果的な活用を勧めています。
 

・個別事業場に対するコンサルティング等の活用
・エイジフレンドリー補助金等の支援策の活用

働く高年齢者を対象として職場環境を改善するための費用を補助する「エイジフレンドリー補助金」や、高年齢者の安全衛生対策について個別に相談したいときに専門職員より無料でアドバイスを受けることのできる「中小規模事業場 安全衛生サポート事業 個別支援」などが紹介されています。
詳しくは、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」のパンフレット巻末、および、⾼年齢労働者を雇⽤する中⼩企業事業者の皆様へ(令和3年度(2021年度)版)などをご参照ください。
 

高年齢労働者の労災減らし、安心安全に働ける職場環境を

今年度改正された高年齢者雇用促進法は、今現在、高年齢労働者だけを対象としているのではなく、すべての労働者に対し、体力の低下や疾病、障害があっても等しく働くことができる新しい労働制度を作るための一環でもあります。
 
パワハラ防止法や改正育児介護休業法などの施行も始まっているように、多様性を受け入れ、一人ひとりにとってよりよい労働環境づくりを行うことにより、企業評価を高め、健全な会社経営を行うことが期待できます。また、業務全般や職場環境の見直しを行うことで、効率化ができる可能性があります。
高年齢者の雇用対策だけと考えずに、組織全体として働きやすい環境の整備を考えてみてはいかがでしょうか。
 

 

〔参考文献・関連リンク〕

初出:2022年03月26日 / 更新:2022年06月27日

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