近年、少子高齢化に伴い労働人口が減少していく中で、「優秀な人材に長く働いてもらう」ことはどの企業にも共通の課題となっています。
「働きやすい職場づくり」に取り組む企業が増加し、そのアプローチ方法も年々多様化する中、その第一歩として挙げられるのが毎年行われる「ストレスチェック」の実施です。
労働者に自身のメンタルヘルスの現状把握・自己管理を促すと共に、事業者が職場改善に取り組む手掛かりとして、「高ストレス者」の判定や「総合健康リスク」を算出することができ、メンタルヘルスの不調を判断するための指標とすることができるストレスチェックのデータは有効です。
では、企業における高ストレス者の割合、総合健康リスクの数値を増減させる要因はどこにあるのでしょうか?
今回は、「AltPaperストレスチェックキット」をご利用のお客様からご提供いただいた個人情報を除いた集計データを分析し、高ストレス者の割合・総合健康リスクとの相関関係が比較的強い尺度をご紹介します。
仕事の忙しさだけではない?
これからの健康には「満足度」が重要
分析結果をまとめると、高ストレス者の割合や総合健康リスクの高さは「仕事の負担」に関わる項目よりも「職場の対人関係上のストレス」「仕事や生活の満足度」の低さと比較的強い相関関係がありました。
高ストレス者の割合については、特に「職場の対人関係上のストレス」「仕事や生活の満足度」に関連性が見られました。
上司と部下の関係性や外部とのやりとりなどから発生しているストレスは、高ストレス者の割合の高さに大きな影響を及ぼしていると考えられます。また、仕事内容や家庭での過ごし方などに対する満足度も、高ストレス者の割合の高さ=心身反応が出るようなストレスへの対応力と強い関係があることが分かりました。
総合健康リスクでは「職場の対人関係上のストレス」の他にも、「働きがい」「仕事や生活の満足度」に比較的高い相関係数が見つかりました。
職場の対人関係や仕事を通じて感じる働きがい及び満足度は、職場の抱える健康問題のリスクにつながることが確認されました。
また、男性は[心身のストレス反応]尺度がより総合健康リスクとの関連が高く、定期的な従業員のヘルスチェック・医療ケアへの連携が効果的なのではないかと考えられます。
関連が低かったのは「負担度」
多忙な職場・業務でも“内面” 改善で効果が
一方で、相関係数が低かったのは、「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身体的負担度」です。
すなわち、高度な技術や集中力が必要とされたり、体に大きな負担がかかる業務であっても、職場の対人関係が良好であったり、働きがいなどを感じていれば、総合健康リスクは低くなると推測できます。
逆に「自覚的な身体的負担度」や[周囲のサポート]領域の項目からは有効と考えられる程の相関関係は見つかりませんでした。
業務内容によって身体に負担を感じている場合や、日々の生活で家族や友人からのサポートを実感できていない場合でも、職場の対人関係が良好であったり、仕事や生活に対する満足度が高ければ、高ストレス者の増加を抑えることにつながるのではないかと推測できます。
ストレスチェックも、従業員満足度調査も「組織サーベイ」の一環
高ストレス者・総合健康リスクや満足度の関連性は、あくまでもストレスチェックを実施するうえで得られたデータの弊社調査から得られたものですので、各組織ごとにまたそれぞれの要素と影響、関連性があることと思います。
組織それぞれの従業員・組織構成・環境がどのように関わりあって影響をもたらしているかの本当のところは、組織の抱える問題や従業員の悩みを様々な視点から客観的・継続的・数値化して評価をしなければわかりません。
このような組織を構成する従業員の状態を知り、組織のおかれた現状や問題点を分析することを「組織サーベイ」といい、現在新しい職場環境改善の手段として注目が集まっています。
従業員の皆さまが置かれた現状をストレス状態として調査するストレスチェックも、ある意味「組織サーベイ」の一種ということになります。
組織サーベイは、調査方法やその分析方法で結果の活用しやすさ・有用度が大きく変動します。
問題点を原因まで理解するには、様々な角度から各要素の分析や現状の評価を行わなければなりません。それには評価する角度・視点に合わせた専門的なツールでなければ、関連性や影響力の正しい評価ができないでしょう。
また、効果的なサーベイを行うためには、そのサーベイを「何が知りたくて行うのか」「どんな要素があるのか」を明確にすることが重要です。
目的に沿ったツールの選定のためにも、サーベイ実施の最初の一歩として目的・対象・考えられる要素とその関連性について
・シンプルな一文で表現できるレベルまで目的を明確にする
・考えられる要素の関連性について、大まかな予想・仮説を立てておく
の2点は準備しておきましょう。
満足度など数値化が難しいメンタルやモチベーション、エンゲージメントといった指標は、調査方法・調査内容が出力される結果に大きく影響します。
特に満足度や意識調査は設問文や表現によって結果が大きく変わってしまう事があるため、実施の際には内容や実施手段(記述式か、マークシート方式か…など)の、それぞれのメリット・デメリットを把握するようにしましょう。
ツールは専門家や分析・統計に関する深い知識・経験のある方に監修された十分に信頼できるものを用いることをお勧めします。
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検査方法に関する注釈・付記
※1.データの取り扱いについて
・各事業者様にご提供いただいたデータにつきましては、業種・規模・地域をお伺いして分類することとし、個々の事業者様・受検者様を識別できないようにして取り扱っております。
・各受検者様の回答につきましては、性別・職種と57項目・80項目の回答データのみ使用することとし、個人を識別できないようにして取り扱っております。
※2.「高ストレス者」とは
厚生労働省が公表したマニュアル(2015)に基づいており、以下(i)及び(ii)に該当する者を指します。(i)及び(ii)に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とします。
(i)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
(ii)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」及び「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※3.「健康リスク」とは
基準値として設定された全国平均値100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の二つをさらに男女別に分けたもので構成されます。この二つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
◆仕事のストレス判定図
1.量-コントロール判定図…仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
2.職場の支援判定図…上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
初出:2020年12月03日 / 編集:2023年05月17日 |