2025年5月14日、改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)が公布されました。
これにより、すべての事業者に対し、60歳以上の高年齢労働者に対する労働災害防止措置が「努力義務」として課せられます。施行は2026年4月1日。あと1年足らずで対応を本格化させる必要があります。
「法改正は知っているけど、具体的な内容が分からない」
「安全対策に時間や予算を割く余裕がない…」
といった人事・労務担当の方々に向けて、本記事では事業場がすぐに取り組める対策や補助金制度、報告義務に至るまで、知っておくべき情報を分かりやすく解説します。
【 目次 】
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高年齢労働者の労災リスク増と法改正の背景
エイジフレンドリーガイドラインとは?安全な職場づくりの5つの柱
「エイジフレンドリー補助金」で費用軽減、早期の対応を
高年齢者雇用安定法改正・ロクイチ報告との関連
高年齢者雇用安定法
ロクイチ報告(高年齢者・障害者雇用状況報告書)
法改正を「チャンス」に。生き生きと働ける職場づくりを始めましょう
厚生労働省サイトの情報ページで最新情報をチェック
高年齢労働者の労災リスク増と法改正の背景
データによると、高年齢労働者の労災による死傷者数(休業4日以上)は年々増え続けており、60歳以上が占める割合は約3割にも及びます。

労働災害による死傷者数(全年齢に占める60歳以上の割合)
厚生労働省:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要

年齢層別_労働災害発生率(休業4日以上死傷度数率)
厚生労働省:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要
厚生労働省が今年5月に公表した「令和6年度 労働災害発生状況について」を見ると、事故の傾向としては、特に「転倒」「墜落・転落」といった災害が目立ち、
- 男性高年齢労働者(60歳以上)の「墜落・転落」は20代の約3.5倍
- 女性高年齢労働者(60歳以上)の「転倒による骨折等」は20代の19倍
という数値が出ています。
加齢に伴い筋力・バランス感覚の低下や骨の脆弱化が進むと、単に災害が起こりやすいだけでなく、重症化・長期休業にもつながりやすくなります。
今回の法改正は、まさにこの現状を背景に、「高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理など、必要な措置を講じること」を事業者の努力義務として明記したものです。厚生労働省は第14次労働災害防止計画で「2027年までに高年齢従業員への対策事業者を50%以上にする」という目標を掲げており、今回の制度強化を見ても、この問題への強い危機感が伺えます。
エイジフレンドリーガイドラインとは?
安全な職場づくりの5つの柱
高年齢労働者への安全衛生対策を具体的に進める上で、厚生労働省が令和2年に策定した「エイジフレンドリーガイドライン」は非常に有用な指標となるでしょう。以下の5項目を柱とし、各事業場の実情に応じた労働災害防止対策を求めています。
・安全衛生管理体制の確立
・職場環境の改善
・高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
・高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
・安全衛生教育
厚生労働省が今年8月7日に公表した令和6年度「労働安全衛生調査(実態調査)」調査によると、「エイジフレンドリーガイドライン」の認知度(知っている事業所の割合)は21.6パーセント(前年度23.1パーセントからマイナス1.5パーセント)。そのうち高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいるのは18.1パーセント(前年度19.3パーセントからマイナス1.2パーセント)といずれも前年と比べて下落し、厚生労働省が第14次労働災害防止計画で高年齢労働者の安全衛生確保の取り組み実施割合を「2027年までに50パーセント以上」とした目標達成が危ぶまれている現状です。
「エイジフレンドリー補助金」で費用軽減、早期の対応を
【申請期間10月末まで】
高年齢者向けの必要な措置としては「手すりの設置」「段差の解消」などが一般的で、そうした基本的な対策で防げる事故は多いでしょう。ただ、「対策の必要性は分かるけれど、予算が…」という現実的な課題に直面する事業場も少なくありません。
そんな声に応えるのが「エイジフレンドリー補助金」です。高年齢労働者の労災防止・環境整備・安全衛生教育にかかる費用を国が支援する制度で、最大100万円の補助金が受けられます。
コース名 | 補助率 | 上限額 | 対象事業例 |
---|---|---|---|
総合対策コース | 4/5 | 100万円 | リスクアセスメント+計画的改善の一体取組 |
職場環境改善コース | 1/2 | 100万円 | 手すりの増設、滑り止め床材、転倒防止システム導入など |
転倒・腰痛予防運動指導コース | 3/4 | 100万円 | 理学療法士等による運動指導・体操会、身体測定 |
コラボヘルスコース | 3/4 | 30万円 | 健康保険組合との連携による社員教育・健康チェック |
例えば総合対策コースで100万円の交付が決定した場合、5分の4の補助にあたる80万円を国がまかなうため、企業の実質的な負担は5分の1の20万円で済みます。そのほかコースに応じて、設備の導入や、理学療法士による運動指導など、現実的で幅広い取り組みが対象となっています。業種業態を問わず活用する意義があるでしょう。
この補助金は2025年5月15日から10月31日までの受付が予定されています。このチャンスを活かし、2025年中に職場を見直し、対策を講じることが、2026年以降の企業リスクを低減する最も現実的かつ効果的な方法と言えるでしょう。
高年齢者雇用安定法改正・ロクイチ報告との関連
●高年齢者雇用安定法
2025年4月1日に改正法が施行され、従業員が希望する場合の「65歳までの雇用確保」が完全義務化となりました。事業者は「定年制の廃止」「65歳までの定年の引き上げ」「希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれかで対応する必要があります。
●ロクイチ報告(高年齢者・障害者雇用状況報告書)
人事労務担当者にはおなじみのロクイチ(6月1日)報告。2026年は労働安全衛生法改正の施行直後(4~6月)の状況を反映した報告資料となるため、その内容はよりいっそう重要視されます。報告書の提出は企業の義務であり、今後は指導・改善勧告が行われる可能性もあるため、各事業場は危機意識をもって対策に臨む必要があるでしょう。
法改正を「チャンス」に。
生き生きと働ける職場づくりを始めましょう
少子高齢化が進む日本において、高齢社員が健康で安全に働き続けられる環境を整えることは、もはや企業の責務です。今回の法改正は、企業がこの問題に真剣に向き合い、「安全と雇用」という両輪を回すための重要な契機となります。
従業員の誰もが働きやすく、いきいきと活躍できる強靭な組織づくりの第一歩へ。
ストレスチェックや高ストレス者への面接指導の実施を含む「職場のメンタルヘルス対策の推進」と共に、「高年齢労働者の労働災害防止の推進」是非に向けた取り組みも進められてはいかがでしょうか。
厚生労働省サイトの情報ページで最新情報をチェック
法改正についてはまだ不確定な点も多く、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」ページなどでの続報が待たれます。
より詳しい内容を知りたい方は、下記〔参考文献・関連リンク〕に記載した厚生労働省の該当ページをご参照ください。本記事でも追加情報などがあれば更新していきます。
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〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)
├ 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要
└ 労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて
令和6年度 労働災害発生状況について ※2025年5月30日公表
パンフレット「エイジフレンドリーガイドライン」※4ページ版、令和7年5月
令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況 ※2025年8月7日公表
「令和7年度エイジフレンドリー補助金」のご案内(令和7年度版)
- 一般社団法人 日本労働安全衛生コンサルタント会:
令和7年度エイジフレンドリー補助金
初出:2025年08月12日 |