近年、異常気象の影響により、職場での熱中症による労働災害が増加しています。
2025年6月1日から「改正労働安全衛生規則」(労働安全衛生規則の一部を改正する省令※厚生労働省令第57号)が施行となり、これまでは努力義務となっていた職場の熱中症対策が法令で義務化されました。一定の条件下で働く労働者を抱える事業者へ、熱中症対策の実施と体制整備が厳格に求められ、違反時には罰則が科されます。
さらに、厚生労働省は2026年3月に「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を新たに策定しました。これにより企業に求められる対応の範囲や具体的な対応が追加され、職場の環境や状況に応じたより細かな対策を推奨しています。
本記事では、職場の熱中症対策が必要になった背景や省令改正で義務となった内容、特に注意が必要な業界・職場や罰則規定にほか、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」に基づいた対策の概要ついて解説。実践的な対策や活用できる情報サイト等を紹介いたします。
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1. 熱中症の労働災害発生状況と死傷者数増加
職場の熱中症対策、義務化により死亡災害防止に一定の効果あり
業種別では製造業・建設業が4割を占める。死亡者数は建設業・警備業で約4~7割に
年齢が上がるほどリスクが高い傾向も。2025年は50歳代以上が8割超を占める
2. 熱中症対策における「事業者の義務」
事業者の義務
義務の内容
対象となる現場環境
熱中症対策が特に必要な業界・職場は?
罰則規定と違反時のリスク
罰則の内容
違反行為の具体例
3. 事業者が取るべき3つの具体的な熱中症対策
①体制整備・必要な設備の整備
②熱中症リスクの把握・評価
③熱中症リスクに応じた措置
熱中症の労働災害発生状況と死傷者数増加

厚生労働省:職場における熱中症の災害発生状況(平成28年度~令和7年度)
「令和7年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」より
2025年は全国で1,803人が職場での熱中症による労働災害で死傷(死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者)し、その数は2024年に比べて約43%増加。統計を取り始めた2005年以降最多となりました。
その理由の一つとして、2025年の夏(6月~8月)の平均気温偏差(基準値:1991~ 2020 年の30年平均値からの偏差)が+2.36℃と統計開始以来最高を記録したことが死傷者数の増加につながったと推測されています。
職場の熱中症対策、義務化により死亡災害防止に一定の効果あり
一方で、そのうち死亡者数は19人と2024年の31人に比べて約39%減少したことから、厚生労働省は「2025年の労働安全衛生規則の改正による職場の熱中症対策の義務化により重篤化防止対策が進み、死亡災害の防止が一定程度図られた」との見解を発表しています。
特に、「初期症状の放置や対応の遅れ」が死亡事故の主な要因とされていたことから、義務化による体制整備が当初目的としていた「熱中症の重篤化による死亡災害の防止に寄与」し、対策による効果が出ているようです。

職場における熱中症による死傷者数の推移(2016年~2025年)
「令和7年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」より
業種別では製造業・建設業が4割を占める。
死亡者数は建設業・警備業で約4~7割に
業種別でみると、2025年の熱中症による労働災害は製造業(365人)、建設業(292人)の順で多くなっており、死亡者数19人のうち建設業は5人、警備業が3人となっています。
※職種別の具体的な数字・表は 厚生労働省の特設ページ に掲載あり
2021年以降の5年間に発生した熱中症の死傷者数(合計5,554人)についても同様です。 製造業(1,063人)、建設業(1,038人)の順で多くなっており、いずれの年もこの2業種で約4割を占めています。
死亡者数(合計131人)も同じく、建設業(52人)、警備業(18人)の順で多く発生している傾向にあり、年度により割合にばらつきはあるものの、この2業種で約4割から7割程度を占めています。


年齢が上がるほどリスクが高い傾向も。
2025年は50歳代以上が8割超を占める
また、2021年以降の5年間に発生した熱中症の死傷者数を年齢別でみると、50歳代以上で全体の約52%を占めていると報告されています。2025年に関しては50歳代以上が全体の約84%にのぼり、死亡者数も全体の約65%が50歳代以上という結果になっています。
一般に高齢者は、暑さや水分不足に対する感覚機能や暑さに対する調節機能など、加齢による身体機能の低下等の影響により熱中症を発症するリスクが高いことも考慮した対策が必要と指摘されています。
さらに厚生労働省は、実際に熱中症による労働災害が発災している事業場においては、改正後も省令に基づく措置が十分でない傾向があるため、引き続き措置の徹底を図る必要があるとして、今回のガイドライン策定を通して、各職場でさらなる対策の普及と熱中症予防に努めることを求めています。
熱中症対策における「事業者の義務」
ここからは職場の熱中症対策義務化(2025年~)の具体的な内容を見ていきましょう。
事業者の義務
・体制整備
・手順作成
・関係者への周知
義務の内容:
- 熱中症の自覚症状のある作業者や、熱中症のおそれがある作業者を見つけた者がその旨を報告するための体制整備及び関係作業者への周知。
- 熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断が可能となるよう、
①事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地
②作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送等熱中症の重篤化を防止するために必要な措置の実施手順の作成及び関係作業者への周知
対象となる現場環境:
・作業環境:WBGT(暑さ指数)※28度以上または気温31度以上の環境下で
・作業時間:連続1時間以上または1日4時間を超えて実施見込まれる作業
・作業場所:屋外・屋内を問わない
このように、建設現場、工場、倉庫、警備、運送、農業、外回り営業など業種を問わず多種多様な現場が対象です。
熱中症対策が特に必要な業界・職場は?
- 建設業・製造業:
建設業は熱中症による死亡者数が最も多く、製造業は死傷者全体の数が最も多い業界です。製造業は屋内であっても高温多湿な作業環境が多いと考えられるため注意が必要です。
- 倉庫・物流・運送業:
倉庫や物流拠点では、空調が十分でない大規模空間や荷役作業が該当します。運送業も車両の荷下ろしや積み込みなど、短時間でも高温環境下での作業が発生します。
- 農業・警備・外回り営業職:
農業や警備業、外回り営業職も、夏季の屋外作業が多く、熱中症リスクが高い業種と考えられます。警備業は熱中症による死亡者数(2021~2025年合計)が建設業に続いて2番目となっています。農業法人や小規模事業者も義務化の対象となるため、規模を問わず対策が必要です。
- その他の注意業種:
厨房やクリーニング工場、イベント設営、スポーツ施設運営など、屋内外問わず高温環境が発生する業種も対象となります。
罰則規定と違反時のリスク
事業者は、上記の熱中症対策の「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」の義務を果たさなかったとき、労働安全衛生法第22条に基づき、違反した場合には同法第119条が適用されます。
具体的な罰則は次のとおりです。
罰則の内容:
・6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金
法人や事業主だけでなく、現場責任者等にも適用される場合があります。また熱中症で労働災害が発生した場合は、労災保険の給付制限や社会的信用の失墜にもつながる可能性があります。
違反行為の具体例:
- 熱中症対策の体制整備や実施手順の未整備
- 関係者への周知不足
- 報告体制の不備
- 必要な措置(作業からの離脱、冷却、医療機関への搬送等)の未実施 など
事業者が取るべき3つの具体的な熱中症対策
厚生労働省は「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を参考にして、効果的な熱中症の予防を推奨しています。
ガイドラインの内容が盛り込まれたパンフレットから、人事・労務担当者が知っておく必要がある熱中症防止対策をご紹介します。
①体制整備・必要な設備の整備
(1)体制整備
・組織として、熱中症を予防するための体制を整備
・衛生委員会等を活用し、対策を労使で話し合う
・体調が悪くなったときに誰に報告するか、どのような行動を取るかを決めて作業者に周知
※例)
担当者や連絡先を定める
緊急連絡網や搬送先医療機関の情報を整備
休憩所等に掲示
特に1人や少人数作業の場合は、報告手順を具体的に伝える
・作業手順、作業計画を策定
(2)必要な設備の整備
・WBGT指数計の準備有効な休憩所の整備
・通気性の良い服
・ファン付き作業服等の準備
・水分・塩分を摂取するための準備
②熱中症リスクの把握・評価
・熱中症が発生する要因とリスク、条件などを把握し、評価をすることが重要
・WBGT値の把握
自社の業務や作業場において、WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で連続1時間以上または1日4時間以上の作業が発生していないかを確認します。WBGT値は専用の測定器や環境省の「暑さ指数(WBGT)の実況と予測」サイトで確認できますが、現場ごとの実測が推奨されます。

③熱中症リスクに応じた措置
(1)作業環境管理
・WBGT値を下げ、暑熱環境の改善をする
例):発熱体と作業者の間に遮蔽物の設置/日光や照り返しを防ぐ屋根の設置/
作業場所に通風、冷房、ミストシャワー等を設置
・休憩場所の整備
(2)作業管理
・暑さに応じた休憩サイクルの工夫
・通気性・透湿性のよい服の選択
※例):ファン付き作業服、クールベスト等、身体を冷却する機能を持つ服の着用には一定の効果あり
・水分・塩分の定期的な摂取
・作業開始前・休憩時のプレクーリング(身体冷却)※
※体温上昇が抑えられ、作業時間を延長することが期待できます。
例):手足の浸水・送風スプレーなど→併用するとさらに効果があり/
身体の内部から冷やせる「アイススラリー」の摂取も有効
・計画的な暑熱順化
※あらかじめ暑さに慣れること。暑熱作業に入る前に計画的に。
・有効な休憩所の整備
・健康管理
※糖尿病や高血圧、心疾患、腎疾患、精神・神経の疾患、広範囲の皮膚疾患などの疾病(既往症)のほか、体調不良などの健康状態は、熱中症の発症に影響を与えるおそれがあります。
・職場巡視の実施
※下記について確認しましょう。
– 体調不良者が出ていないか
– 定期的な水分・塩分の摂取ができているか
– 休憩は十分に取れているか
– WBGT値に応じた対応ができているか
・救急体制の整備・確認
そのほか、ガイドラインでは、
・熱中症に関する知識・教育研修の実施
も不可欠として、細かな時間数と研修内容を定め、立場に応じた3種類の研修の実施・受講が推奨されています。
– 熱中症予防管理者(衛生管理者、安全衛生推進者も受講推奨):計225分
– 職長:計60分
– 作業従事者向け:短時間で複数回研修を繰り返すこと
以上、人事・労務担当者が知っておきたい職場の熱中症予防対策の義務と、新たに策定された「職場における熱中症防止のためのガイドライン」に基づいたより具体的な対策をご紹介しました。
職場における熱中症予防対策を徹底し、このガイドラインに沿った対策の推進を広く呼びかけるために、厚生労働省は労働災害防止団体などと連携して5月~9月の間、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。事業場への熱中症予防に関する周知・啓発や、熱中症に関する資料やオンライン講習動画等を掲載しているポータルサイトがありますので、併せて参考にしていただき、職場の熱中症を予防しましょう。
※下記より、「職場の熱中症対策」にあたってチェックするべき参考サイト&おすすめツールをご覧いただけます。
〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:
〔令和8年度(改正版)〕
・「職場における熱中症防止のためのガイドラインを参考に熱中症を効果的に防止しましょう~職場での熱中症防止対策のポイント~」パンフレット/リーフレット(※職場内掲示向け)
※参考:〔旧パンレット:労働安全衛生規則の改正について〕
・「職場における熱中症対策の強化について」パンフレット/リーフレット
〔中小企業の事業主、安全・衛⽣管理担当者・現場作業者向け対策サイト〕
・学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報
├ 導入しやすい熱中症対策事例紹介
│ ※分類別熱中症対策事例、企業別取組事例
├ 動画で学ぶ職場における熱中症予防対策
│ ※e-learning動画(理解度確認クイズ付き講習動画)
├ 働く人の今すぐ使える熱中症ガイド
└令和7年職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)
※資料ダウンロードページ
「熱中症ガイド」PDF(個別版、全編版94ページ)、応急手当カード、セルフチェックPDF(職場掲示向け)、動画コンテンツ
※職場における熱中症予防情報サイト周知ポスター(職場内掲示向け)
・STOP!熱中症クールワークキャンペーン
└ リーフレット「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」
※4月~9月 準備期間・キャンペーン期間にすべきことPDF2ページ(職場内掲示向け)
※英語版・中国語版・韓国語版・インドネシア語版・タガログ語版・ベトナム語版 リーフレットあり - 環境省:
「熱中症警戒アラート」の全国での運用開始について
熱中症予防サイト 暑さ指数(WBGT)暑さ指数とは? - 一般財団法人 日本気象協会:
日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト発表 第 8 回「熱中症に関する意識調査」結果 - e-Gav法令検索:
労働安全衛生法(労働安全衛生法第22条、第119条)(職場の熱中症対策義務の罰則規定に関する法律)
| 初出:2026年7月31日 |




















