新型コロナ禍で「自殺者」が増えた?背景にある「つらさ」と企業ができる自殺予防策とは:人事・労務担当者のためのメンタルヘルスケアコラム

コロナで増えた「自殺者」……背景にある「つらさ」と企業ができる自殺予防策とは

3月は【 自殺対策強化月間 】
「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の実現に向け、各地方・各団体が連携して相談事業の周知や啓発活動を実施しています。

では、なぜ3月が「自殺対策強化月間」に定められたかはご存じですか?
実は例年行われる厚生労働省の調査において、「最も自殺者の多い月」が3月なのです。

感染症やそれに伴う経済・社会の変化は私たちの心にも大きく影響します。
今回はコロナ禍によって大きな変化のあった昨年度のデータを振り返るとともに、私たちを最悪の判断へ追い込んでしまう”原因”と大切な人をそこから救うため・辛さによりそい立ち向かうための「役目」をご紹介します。
 

2020年は【10年で初めての増加】
データから見る「つらさ」

警察庁の速報値によると、2021年2月の自殺者数は全国で1626人、昨年度同時期に比べて11.1%の増加となりました。

去年1年間での自殺者は2万人を超え、過去最少だったおととしより750人、率にして3.7%、10年連続で減少していた自殺者数が「増加した」という報告になりました。

自殺者数が前年より増加したのはリーマンショック直後の2009年以来のこと、いかに「社会の変動」がストレスとして個人に伸し掛かっていたが考えられます。

厚労省の調査によれば、男性が1万3,943人(135人減)/女性が6,976人(前年比885人増)、年代別では40代が3,225人(同71人増)と最も多く、中高年層の割合が高かったと報告されています。

特に女性は過去5年間で最も多く、昨年6月連続で前年の自殺者数を上回りました。
また、増減率でみると20代(2287人)が17%増(同329人増)と最も増加の幅が大きいと計算されています。

特徴的であったのは月別の自殺者数の変動です。
「緊急事態宣言」期間を含む上半期(1~6月)は前年同時期を下回っていましたが、下半期(7~12月)では全ての月で前年以上の自殺者が報告されていました。
2020年10月は年間で最も多く、通常自殺者数が増加する3月・9月を超えて2199人(前年比660人増)もの人間が自らの命を絶つという悲しい選択をしてしまったことになります。

国は、新型コロナウイルスの感染拡大が影響している可能性があるとして分析を進めるとともに、民間の機関とも連携したさまざまな対策を強化していくとしています。
  

厚生労働省自殺対策推進室:警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等
 

増えた自殺者……背景にあるのは「経済的不安」と「孤立」

昨年度の自殺者数について、特徴的だったのは以下2点です。
・下半期の自殺率が急増
・女性の自殺者が9カ月連続増加

この2点に共通する「2020年増加の理由」は何でしょうか?

まず考えられるのは「コロナ禍による“ 経済的な問題 ”」です。

中高年は企業や組織を担う「判断」「責任」を引き受けなければならない立場にあることも多く、従業員やその家族の生活に対する重圧や経営を保つために過労状態に陥ってしまいがちな年代と言えます。

コロナ禍による経済縮小や不況のあおりを受けたのは派遣やアルバイトといった「有期労働者」であるのは想像に難くありません。

特に現在40代にあたる方々は「就職氷河期」(1990年代後半から2000年代前半にあたる深刻な不況期)と呼ばれる就職難に直面した世代。
「就職氷河期世代」と呼ばれる35~44歳で派遣社員やアルバイトなど非正規で働く人は約371万人、世代全体の約22%にもあたります。

このような背景にある方にのしかかった「経済的なストレス」は相当なものだと容易に推測されます。

次に「孤立する状況が揃っている」ことです。
感染症対策として、休業やリモートワークが推奨されソーシャルディスタンスとして直接会っての交流が1年以上制限されています。
それによって日々一番長くいる場所が「職場」から「家庭」に移行しつつあります。

これはただ単純に今まで職場や外出先で保っていた「交流」が失われたという以上に、「家庭以外の居場所」が減少し、相談できる第三者に簡単にアクセスできなくなったということも意味します。
外出自体が制限されてしまうと、一人暮らしなどでは人との関わり合い自体が減少し、引きこもりがちになってしまうといったケースも考えられます。

他に「家での時間」が増加・長期化することは、育児や介護による疲弊、家庭内暴力(DV)・虐待リスクが増加する可能性も。
「家族がずっと家に居る」状況はしかるべき外部機関に助けを求めるタイミングも減少させてしまった他、「家」以外に居場所を持ちにくい女性や子供たちがより追い詰められてしまう状況の一端にもなっています。

経済的な不安・悩み、過労から来る心身の疲労などの要因に関わりの減少・気晴らしの少なさと「社会的孤立」が重なることで、【助けてと言えない、一人で抱え込むしかない】状況に追い込まれてしまった……という背景は、このコロナ禍に特有の「自殺になりやすい因子」として注意しなければなりません。
  

自宅療養者は特に「精神的な負担」が大きい

また、自殺の動機として大部分を占める「健康状態に対する不安」に対しても新たな問題が見つかっています。

2021年1月、東京都で新型コロナウイルスに感染し自宅療養していた東京都内の30代の女性が自殺していたという痛ましい報道がありました。
コロナハラスメントなど感染者に対する風当たりや扱いの悪化、「感染させてしまったもしれない」という自省の念は感染したことに対する恐怖や不安の中にある感染者をさらに孤立させ、精神的な負荷を追わせてしまいます。

新型コロナウイルスの感染拡大による精神面への影響などについて研究されている早稲田大学・上田路子准教授は、
「新型コロナウイルスに感染すると健康面への不安だけでなく、『自分が家族にうつしてしまうかもしれない』といった不安や『社会からバッシングを受けるのではないか』というさまざまな精神的な負担を感じるという人が多い」
と現状を分析します。

特に自宅療養では、自分の健康だけでなく家族への感染を心配をしながら家事・育児・介護をしなければならない場面も考えられます。
その上で一定期間、または感染の不安が解消されるまで交流・外出も制限されるなら精神的・体力的にかなり追い詰められてしまうことも指摘できます。

上田路子准教授は「体調面のチェックだけではなく精神状態についてももっときめ細かく把握し必要に応じて対応をとるなど十分なケアが必要だ」とコメントしメンタルヘルスケアの必要性を訴えました。
 

誰かが傷つく前に、私たちにできることは?

なぜ「最悪の決断」をしてしまうの?
――追い詰められた時、人は「見えなく」なります

社会の様々な仕組みが複雑化する中で、ストレスの原因・生活の問題も多様に、そしてより複合的に絡み合ってしまう事が多くなりました。

複数の問題が重なってしまう、または問題やストレスが深刻化すると、「心理的視野狭窄」状態に陥ってしまう事があります。
 

~こんなことはありませんか?~
「心理的視野狭窄」に気が付く6つの思考ポイント

・ちょっとのミスでも「何もできないんだ」と落ち込んでしまう
・「きっとそう思われている」「誰も認めてくれない」と悲嘆する
・結論を急いでしまう、大げさに捉えてしまう
・「~~すべきだ」とかたくなになってしまう
・「私には能力がない」など、根拠のないラベルをはってしまう
・トラブルの責任を自己転嫁してしまう


「心理的視野狭窄」状態に陥ってしまうと、一つの考えに固執してしまったり、悲観的な考えにとらわれて誤った情報しか目に入らない・正しく情報を捉えられなくなるなど周囲や社会が投げかけているヘルプを「見えにくく」してしまいます。

この時に「自殺」を考えてしまう、これしか方法はないと思い込んでしまう事が最後の一歩を後押ししてしまうのです。
 

複数の問題や高ストレス状態になると、本人からも周囲からも「ヘルプ」が見えにくくなります。

特に経済的な問題は、現在様々な補助金・支援金制度が設けられています。
コロナ禍に合わせ、これらの補助金は「困っている人へ、すぐに届けられるように」基準や要件が緩和されているものがほとんどです。

厚労省自殺対策推進室も、「コロナ禍による生活環境の変化に加え、著名人の自殺報道による影響など、幅広い要因が考えられる」とその影響を把握したうえで「必要な支援につなげられるよう取り組みたい」と今後の相談窓口拡充といった対策への姿勢を示しました。
 

踏みとどまる助け、「ゲートキーパー」
気づいた”あなた”が手を伸ばして

近年、自殺防止対策に必須の役割として「ゲートキーパー( 命の門番 )」の重要性が語られています。

「ゲートキーパー」は特別な資格のある方々ではありません。
自殺を示すサインに気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守ることができるのは、「支援が必要な人の、周囲にいる人々」なのです。

悩んでいる人に寄り添い、関わりを通して「孤立・孤独」を防ぎ支援する働きはほんの一言から始められます。
 

✜ゲートキーパーの役割✜

 ・気づき:家族や仲間の変化に気づいて、声をかける
 ・傾聴:本人の気持ちを尊重し、耳を傾ける
 ・つなぎ:早めに専門家に相談するように促す
 ・見守り:温かく寄り添いながら、じっくりと見守る

参考:政府広報オンライン「暮らしに役立つ情報」あなたもゲートキーパーに!大切な人の悩みに気づく、支える
 

「自殺を防ぐ」ためには、孤立を防ぎ、支援につなげることが一番重要な「ゲート」です。
ひとり一人が「大事な人から『死にたい』と言われた時、どうすればいいか?」という問いかけにきちんと向き合い、正しい対応を学び、できることから行動することが何よりの「自殺予防」になります。

「自殺総合対策大綱(平成29年7月25日閣議決定)」に掲げる12の「重点施策」の一つとしてゲートキーパーの養成が掲げられています。
 

企業が「社会の接点」に
雇用の継続や教育は「命綱」になります

コロナ禍において、経済的な不安や先行きの見えなさが「健康問題の不安」「人間関係の変化」に並ぶ、とても大きなストレスであることが立証されました。

そのような中で「雇用があること」「収入が保証されていること」は、何より心強い支援です。
政府からも「 雇用調整助成金 」や「休業支援金・給付金」など、感染予防への協力と雇用の維持を両立させようと努力する企業への支援が発表されています。

休業や時短勤務においても収入や生活のバックアップを行うこと、正しい情報や支援の窓口を「教育・周知」すること、何より「一緒に働く仲間」としてのつながりを保ち変化を見逃さないこと。
ウィズコロナ時代を乗り越えるこれからの企業・組織には、「働く・利益を出す」ということを超えた「コミュニティ」としての役割が期待されています。
 

〔相談できる窓口〕

厚生労働省は「悩みに応じて専門の支援機関につなげるなどの対策に引き続き力を入れていく」として、相談窓口の運営・受付を行っています。
メンタルヘルスケアの一環として、従業員の皆様へご周知ください。

※ 厚生労働省のコメントでは、一部の窓口では、「相談が急増してすぐに対応できないケースも出ている」とのことです。
 

日本いのちの電話連盟
 電話番号:0570-783・556(午前10時~午後10時)
・厚生労働省:「こころの健康相談統一ダイヤル」・SNS相談
 電話番号:0570-064-556(対応時間は自治体により異なります)
よりそいホットライン
 電話0120・279・338(24時間対応。岩手、宮城、福島3県は末尾3桁が226)
 

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〔参考文献・関連リンク〕

 

初出:2021年03月15日

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