“職場の常識”は非常識?ハラスメントにつながる「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」とは?:ハラスメント対策

“職場の常識”は非常識?! ハラスメントにもつながる「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」とは?

自分自身では気づいていない認識や見方のゆがみ、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」を知っていますか?

「えっ!?これもアンコンシャス・バイアスに入るの?」
「こんなの『常識』でしょう?」
と思ってしまっていることこそが、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)です。

働き方の多様化やダイバーシティー(多様性)の理解、ジェンダーの問題などへの取り組みが企業に求められる時代、このアンコンシャス・バイアスへの気づきと対処法が個人にとっても組織にとってもポジティブな効果をもたらすと注目を集めています。

今回は「アンコンシャスバイアス」がもたらす影響と、その気づき方についてまとめました。
 

誰もがもつ「アンコンシャス・バイアス」とは?

アンコンシャス・バイアスとは、無意識の偏見や思い込みのことです。

私たちの脳は、育った環境や過去の経験、価値観などの影響を受けて、知らず知らずのうちに偏ったものの見方・捉え方をしています。

普段の生活の中で、次のように感じたことがある方はいませんか?
 

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)

 
ある一定のことがらや社会集団に対して抱く「共通と思うイメージ」を、社会心理学では「ステレオタイプ( 類型化 )」といいます。この無意識のうちにあるステレオタイプが言動・判断・感情に現れてしまい、現実とネガティブなズレを生じる状態が「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」です。

ステレオタイプ自体はすべてが悪いものとは限りません。 どこにでも・誰でもが持っている「当たり前・常識」ともいえます。

ステレオタイプやバイアス(先入観・思い込み)が生まれるのは、「柄が違っていても、猫だ」「カラスと鳩が見わけられる」など、対象の要素をカテゴリー分けして素早く認知・判断するために発達した脳の機能によるものです。たくさんの情報を素早く処理してコミュニケーションを取りながら生きていく、人間の環境適応能力のひとつとして、社会通念・価値観・文化とも大きく関係しています。

ですが社会で見られる多くのバイアスの場合、
「男性は論理的で、女性は感情的」「看護師は優しい女性が多い」などのように 職業・性別・人種など その人の目に見える要素と個人の性質や行動とを根拠なく結びつけてしまい、無意識のうちに「同じ特徴をもつ人には共通にあてはまる」と考えてしまう原因になりがちです。
 
そして、厄介なのは「その社会・環境では、当たり前」とされているために、自分では気づきにくいこと。

特に「当たり前」として多くの人に共有されているバイアスは、その社会で「そう考えるのが良いこと」とされる場合もあり、 無意識の振る舞いや言葉がまわりに影響を与えていたり、「嫌だ」と感じていても言葉にしにくいこともあるのです。そこからさらに、「〇〇すべきだ」「●●でないのはおかしい」などと自動的に判断して、怒りの感情を感じたり無意識に行動を決定してしまう…

これがアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)にハラスメントやトラブルの危険が潜んでいる理由です。

本当は一人ひとり性格も考え方も異なるにもかかわらず、自分の中にある固定観念やイメージがもととなって「〇〇なはずだ」と思い込んでしまうクセを私たち人間が共通して持っていること。

昨年のパワハラ防止法施行に続いて、男性の育児休業の周知が義務化することもあり、思わぬ言動でハラスメントを生まないためにも、今後「人間の間違ってしまいがちなクセ」を知ることはますます大切になってくるのではないかと思います。
 
ちょっとした気づきと工夫で、日ごろのコミュニケーションや職場の人間関係に変化がみられるかもしれません。
  

無意識の偏見が、気づかぬうちに差別やパワハラに!?

アンコンシャス・バイアスにはさまざまなものがありますが、ここでは職場で起こりがちな例をあげてみました。

次のようなことに、思い当たりはありませんか?
 

職場でありがちなアンコンシャス・バイアスの例


このように、アンコンシャス・バイアスは、わたしたちの本人の意図や思考とはまた別のところで、過去の経験やまわりの人びとに共有されてきた考えなどに「無意識」のうちに受けた影響が「偏見」を作り出し、その人の「当たり前の常識」となって、言動に現れてしまうものなのです。
 
そのため、「自分は人種で差別しない」「男女平等に取り扱えている」と日頃から思っている人であっても、実際のケースになると疑問に感じることもなく、偏った見方をしてしまう・受け入れてしまう可能性があります。

さらにバイアスは国籍や人種、出身地、性別に限らず、年齢・学歴・役職や経済状況……、私たちが何かを「区別する」ときのさまざまな見方・考え方と深く関わっています。

「最近の若者は…」「シニア世代は…」「派遣社員は正社員より〇〇だ」など、年代や働き方の違いによるイメージも、実は偏見を含んでいることに気づく必要があります。
 

「アンコンシャス・バイアス」が生まれやすい状況

では、どのようなときに特に偏見が生じやすいのでしょうか?

アンコンシャス・バイアスが生まれやすい状況について、次の4つの要因があります。

<無意識の偏見に陥りやすい状態を生む4つの要因>
1.ステレオタイプとの不一致
2.少数派に対する固定観念
3.不十分な情報
4.認知資源の制約
(出典:

  • Google の Unconscious Bias @ Work
  • より)

     
    職業イメージは特にステレオタイプと結びつきやすい傾向にあります。
    「保育士や看護師は女性の方が向いている」
    「システムエンジニアは男性の方が向いている」といった言い回しは採用や配置に影響します。

    他にも、
    「女性は細やかな気遣いができる」
    「男性は家庭よりも仕事を優先するもの・すべきだ」
    などという、その人の素質・要望とイメージとのズレが生じると「生意気」「反抗的」といった負の感情を抱きやすくなります。
     
    また、少数派(マイノリティ)やあまり身近ではないもの対してはより強く固定観念を抱きやすい傾向にあります。

    例えば、保守的な社風をもつ日本人ばかりの会社に外国人が応募してきた際に、採用担当者が「外国人社員は自己主張が強い」というアンコンシャス・バイアスを持っていたらどうでしょう?採用担当者が「社風と合わない」という判断をした背景にバイアスが関係していないと言い切ることは難しいのではないでしょうか。

    自分が思っているバイアスに自覚的でないと、本人たちは差別と思っていない「差別」を生んでしまう可能性を孕んでいます。

    女性の多い職場、男性の多い職場における少数派に対しても、同じことが言えるでしょう。

    「育児休業を取りたい」と男性社員が申し出てきたとき、もし社内に今までほとんど前例がなかったら?

    「責任のある立場なのに困る」「昇進は望んではいないのだろう」
    などとマイナスの感情・イメージを抱いてしまう、配慮と思って全く見当違いな対応をしてしまうこともあるかもしれません。
     
    特にまだ詳しく相手のことを知らず十分な情報がない場合に、限られた情報や短時間で判断する必要があったり、従業員などの個人に対して興味を持ち向き合う努力がなければ、無意識の偏見で相手を判断してしまう可能性があるといわれています。
     
    アンコンシャス・バイアスは、無意識だからこそありふれていてとても厄介なのです。

    誰かに指摘されたり、意識するきっかけがなければ、自分が偏見を持っていることにも、その偏見で無意識に人やものごとを判断してしまっていることにも気づくことができません。

    もし適切に対処しなければ、気づかぬうちに差別やハラスメントにつながり、組織のパフォーマンスや従業員一人ひとりの心身の健康に大きな影響を与えてしまう場合もあるのです。
     

    まずは知ること、気づくこと!
    ハラスメント対策にも関わる「バイアス」

    もし、あなたの上司や組織のリーダー的な立場にある人が、次のような行動をしていたら、あなたはどう感じるでしょうか?
     
    眉をひそめる。腕組みをする。目を見ずに軽くあしらう発言をする……

    何気ない些細なしぐさかもしれません。悪気はまったくないかもしれません。
    それでも、おだやかな気持ちはしないですよね。
     
    では、
    「育児中の女性は仕事の負担を軽くした方がよい」
    「男なのに育児をしなきゃいけないのは大変だから責任のあるポジションから外してあげよう」
    という考えはどうでしょうか?
     
    これは「当然の」配慮ではないのか?
    「優しさ」からなのにハラスメントと思われるなんて心外だ!

    そう感じる方はいませんか?

    もしかしたらその人のなりの優しさや「常識」的な配慮であっても、不快な気持ちになったり、ここでは自分の思うような働き方を実現するのは難しい、休暇や休業を申請しづらい…など、ストレスに感じる人もいます。

    場合によっては、ハラスメントの訴えや離職などの深刻な問題につながることもあるのです。
     
    まずは自分のもつバイアスを知り、まわりにどのような影響を与えているかを自覚する。それが第一歩となります。


     
    どこにでも誰にでもある、アンコンシャス・バイアスの形について、少しだけイメージできたでしょうか。
     
    私たち一人ひとりの中にも、組織の中にもある偏見に、自分ひとりで気づくのは難しいものです。

    まずはバイアスがあると知ること、意識をすること・気づくことが大事です。
    そして、組織全体で「無意識の影響」に対し、取り組んでいく必要があります。
     
    冒頭でもお伝えしましたが、「アンコンシャス・バイアス」への気づきを促す研修は、近年、さまざまな企業や組織、自治体職員の研修にも取り入れられはじめています。
     
    「もしかしたら、これはアンコンシャス・バイアスかも?」
    「無意識の振る舞いや言葉がけが、ハラスメントにつながってはいないだろうか?」

     
    まずは一度立ち止まって、振り返ってみることからはじめてみませんか?
     

     

    〔参考文献・関連リンク〕

    初出:2021年02月26日

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