組織として活動する・向上するうえで、組織を構成するメンバーの【熱意・行動・向上心】による影響は欠かせません。
今回はその中でも従業員の【やる気】の指標となる「モチベーション」と「エンゲージメント」の違いと注目すべきポイントをまとめました。
適切な「労働管理」とは?
20世紀から進歩し続ける労働管理の歴史
従業員の「やる気」を引き出すための研究は、古くは20世紀初頭までさかのぼることができます。
この時代はまだ経験や習慣にもとづく経営が主流で一貫した管理ができず、生産量が増えると賃金を切り下げられる・非生産的な手法をずっと続けている・組織的な従業員の怠業……といったその場しのぎな対応が当たり前に行われていました。
この状況を切り開くために「 科学的管理法 」が広まります。
「人は合理的で、基本的に働きたくない」という考えに基づき、業務内容・作業時間・作業効率の管理やマニュアル化など現在の近代企業では常識とされている手法がこの時開発されました。
「 管理についての客観的な基準 」としてこの管理手法は広まり、大量生産や生産工程の工場化が進むこととなりました。
この客観化・合理化によって労使が共栄できる……はずでしたが、効率化を重視するために従業員は「単純作業」であったり「スピード重視で人間性を求められない働き方」を強要される場面が多くなります。
そのような生産現場の状況を見て、合理性を重視する管理方法に異議を唱えたのがジョージ・エルトン・メイヨーです。
彼は250%という圧倒的な離職率の高さに困った紡績工場社長から依頼され調査を行い、「1日4回10分間の休憩をいれる」対策を提案することで離職率の低下に成功しました。
この調査を応用したホーソン実験により「人は合理的でなく感情によって左右される・経済的対価よりも社会的欲求を重視する」といった「人間関係論」が樹立され、従業員の心理状態をはかる指標の確立が前進しました。
現代では、「職場の資源」(就業環境や業務内容、職場の人間関係)だけでなく「個人の資源」(環境や業務から受ける心理的な状態)が従業員の心身の健康や作業効率・品質に関わるとしてマネジメント・職場改善の必要性が様々な理論によって裏付けられています。
動機と関係性があって初めて行動に!
モチベーションとエンゲージメントの違い
従業員の状態をはかる指標には、元となった理論があります。
・1960年 アブラハム・マズロー(A. Maslow) の自己実現理論(欲求5段階説)
・1960年 フレデリック・ハーズバーグ(F. Herzberg) の二要因理論(動機づけ-衛生理論)
この2つが大きな影響を与えているといわれています。
★ マズローの自己実現理論(欲求5段階説)は、人間の欲求を5段階ピラミッド型の上下階層で表現し「欲求は低次なものから順に満たされ、高次の欲求に向かう」と理論化したものです。
「生理的欲求」「安全の欲求」といった基本的な欲求がまず求められること、「社会的欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」といった高次の欲求へ向かって「人間は絶えず成長する」と仮定されています。
★ ハーズバーグの二要因理論(動機づけ-衛生理論)は、「仕事に対する精神性は2つの要因からなると考える理論です。
職場や環境の影響を満足に関わる「動機づけ要因」と不満をもたらす「衛生要因」とに分け「動機づけ要因を満たさなければ、満足度は上がらない」、「衛生要因が不足すれば、不満が生じる」という2方向の影響を仮定しています。
「動機づけ要因」は主に「達成・承認」「仕事内容・責任・評価」など高次欲求と結びつくことが多く、「衛生要因」は職場環境に関わる「組織の管理・監督について」「給与」「対人関係」「作業条件や就業環境」といった身体・生活に関わるものが見られます。
この二つの理論から、「従業員の心理状態( 活性化状態)」を評価する指標として
現在知られている「従業員満足度」「モチベーション」「エンゲージメント」という3つの語が誕生しました。
特に仕事に対するやる気がどのように発生するのかについては様々な研究が進んでおり、「モチベーション」「エンゲージメント」は各要素ごとに統計的な調査ができるものとして扱われています。
この「モチベーション」「エンゲージメント」が示す「従業員のやる気」の要因を見てみましょう。
モチベーションとは?
モチベーションは、個人が行動や計画・決意を実行する際の意欲や意思の源泉になる動機・きっかけ・目的を意味します。このモチベーションの有無によって、やる気や意欲が引き出されます。
動機は、行動を引き起こす “動因” と、外部から誘発される “誘因” の二つが揃うことで行動に移されるとされます。期待・欲求・目標といった内発的な動機と、刺激や条件といった外部が調整できる刺激が結びついて行動を形作っていることから転職や労働条件とのマッチングなどでもこの理論は注目されています。
モチベーションをうまく保つことで、自発的な行動や物事に取り組むための態度・エネルギー、集中力や関心の源になると考えられています。
エンゲージメントとは?
エンゲージメントとは、「本来二つの立場にある者の関係性」を意味する言葉で、近年では「企業(業務)と従業員個人との関係性がどのようなものであるか」を表すことにも用いられています。
従業員と企業の関係性を表す指標としての【エンゲージメント】は統計的に調査ができます。改善・向上すると、離職防止や生産性やプレゼンティズムの向上など多くの効果があるという報告がされています。
現在、エンゲージメントを計る指標には主に「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」の2種類が用いられています。
★従業員エンゲージメント
欧米を中心に重要指標として取り上げられているエンゲージメントの考えです。「従業員下記個人どれくらい組織に愛着・信頼・参加や貢献の意欲を持ち、お互いに影響し合う関係にあるか」に注目します。
★ワークエンゲージメント
「仕事に関連するポジティブで充実した「働きたい!」という心理状態」に着目し、その状態を構成する「活力、熱意、没頭」の三要素について分析・調査します。
これらの指標はストレスチェックや従業員アンケートなどの設問を通して、間接的にその傾向を計り、要素がどこにあるかを見極めるための「考え方」です。
現在これらの指標を用いて組織・従業員が置かれている心理状態を見る手段としては、今のところ「従業員サーベイ」(アンケート・ストレスチェックなどの回答を分析する)が主流となっています。
直接的な改善に役立つデータのためには、ひとつひとつのデータの意味や、その要因をいろんな視点で検証するバックボーンとなる知識の他に、
・外語翻訳などの新しいテクノロジーやより答えやすい環境
・回答の制度を挙げるための心理的な安全性の確保
といった点が必要でしょう。
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ワークエンゲージメントとは?
〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について
- 山内弘継、橋本宰監修、岡市廣成、鈴木直人編『心理学概論』(ナカニシヤ出版、2006年)
- 『テキスト経営学(増補版)』 井原久光・著 (ミネルヴァ書房)
- 「ワーカホリックと心身の健康 (特集 職場のゆううつ : 心の健康をめぐって)」『日本労働研究雑誌』第55巻第6号、2013年6月
- 島津 明人「シンポジウム ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化」『日本職業・災害医学会会誌』第63巻第4号
初出:2020年11月26日 / 初出:2024年08月27日 |