人事・労務ご担当者の皆さまも、在宅勤務や時差出勤の推奨、人事異動や事業縮小による給付金の手続きなど従来にはなかった業務が増え、お疲れ気味の方も少なくないのではないでしょうか。
新型コロナウイルス感染拡大防止にあたって、2021年1月8日に1都3県(東京・神奈川・千葉・埼玉)発令された昨年以来2回目の緊急事態宣言。1月14日からは7府県(大阪・兵庫・京都・愛知・岐阜・福岡)にも発令されました。
2月2日に栃木県を除く10都府県(東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪・兵庫・京都・愛知・岐阜・福岡)の緊急事態宣言延長が発表され、2月28日に1都3県(東京・神奈川・千葉・埼玉)を除く6府県は宣言解除となるも、1都3県は3月21日まで再延長…と厳しい状況が続いています。
延長に次ぐ延長で長引く要請に応え続けながらの事業経営。特に緊急事態宣言対象地域で感染防止対策に奮闘してこられ、加えて売上が落ち込む中での従業員の雇用継続判断などによる苦しみは想像を絶するものだと思います。
昨年末から年始、さらに3月に入ってから、政府・関係省庁から助成制度の追加・新設支援策などが発表されているのはご存じの方も多いと思われます。
その中で今回ご案内するのは、厚生労働省が「企業は雇用調整助成金を積極的に活用して働く人の生活を守ってほしい」と周知・活用促進を推し進めている「雇用調整助成金」と「特例措置」です。
そもそも「雇用調整助成金」とは?
その名の通り、雇用調整に取り組む事業者への助成を目的とし、景気の変動、産業構造の変化など、経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主を支える制度です。
従業員の失業を防ぐなどの目的から会社側が有給で従業員を休業させた場合に、所定の要件を満たせば支払った手当を最大8割助成してくれる制度です。
※休業だけでなく、教育訓練や他社へ出向勤務させた場合も対象
なお、休業中に支払う給与を「休業手当」といい、労働基準法で従業員の日額手当の6割以上を支払う義務が定められています。
「雇用調整助成金」 の「特例措置」とは?
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で従業員の雇用継続が難しくなった際に、解雇ではなく「休業手当を支払って従業員の雇用を維持」した場合、申請に応じて通常の「雇用調整助成金」よりも助成内容が手厚い「特例措置」が適用されます。
「特例措置」の主な内容は以下の通りです。
支給要件が通常の「雇用調整助成金」に比べて緩和されるなど企業負担が軽減されるものの、期間限定の措置となっている点に注意が必要です。
1. 助成額が引き上げ! |
支払った休業手当の8割から最大10割を国が費用負担します。 「支給日額上限額」が15,000円(通常8,370円)、「教育訓練加算額」は中小企業が2,400円・大企業が1,800円と、通常時よりも助成額が引き上げられました。 |
2. 雇用保険に加入させていない従業員も対象に! |
学生アルバイトなど雇用保険被保険者以外の方に対する休業手当等も助成の対象になりました。 申請する場合は「緊急雇用安定助成金」の様式を用いることになりますが、助成内容や申請先等は雇用安定助成金と同様です。 |
3. 支給要件の緩和で助成金を利用するハードルが下がった! |
「新型コロナウイルス感染症の影響で経営環境が悪化している」という支給要件判断の基準が、売上高など事業活動を示す指標が1年前の同じ月と比べて5%以上減少している場合に限り緩和されます。 ※通常は対昨年比が「3カ月間で10%以上減少」が要件 その他、支給限度日数や申請回数も緩和され、制度利用後1年経過した後でなければ再度制度利用できなかった「クーリング期間」を撤廃。短時間の休業をさせる場合に通常は「一斉短時間休業」の実施が要件となるところを、「特例措置」では部署ごとや仕事の種類やシフトによる短時間休業も支給対象としています。 |
4. 手続きが緩和! |
事前提出が必要だった「計画届」が提出不要となりました。 手続きの煩雑さや提出書類の多さに加え、当助成制度活用に二の足を踏ませていた理由にしばしば挙げられていた「計画届」の準備が、「特例措置」では提出自体が不要となりました。 ただし、届出が不要な期間は令和2年5月19日以降の休業申請になりますのでご注意ください。 |
5. オンライン推奨で申請がスムーズに! |
メールアドレスと、別途ショートメッセージサービスが受け取れる携帯電話の用意や、書類をPDF化(あるいはjpgなど画像化)して送付するなどの事前準備を行った上でオンライン申請を行うことができます。 ※窓口への持参か郵送のみでしか受付していなかったのを、2020年5月20日~オンライン申請受付開始 |
※「特例措置」対象期間は令和2年4月1日~
この助成制度がスタートした昨年2020年2月時点で、事業主が感染症拡大防止のために行う休業、症状や体調不良・ 濃厚接触者となった従業員に対して休業を命じた場合についても「対象」として取り扱うことが明確に示されています。
また、緊急事態宣言が発令された地域の自治体側から営業活動の自粛や時短営業を要請した場合、「業績に関わらず、生産指標が低下したもの」とみなし、正規・非正規雇用のくくりなく支給計算の対象としています。
気になる受給額は?
助成額は対象労働者の賃金を基準に、賃金相当額・出向元事業者負担額から計算され、「同じ職場に6カ月以上雇用されている労働者」一人に対し、支給額には上限(一人1日あたり15,000円)が設けられているものの、「雇用を維持 or 解雇等を行った」かによって助成率が異なります。
緊急事態再発令で大企業への助成率引き上げや、雇用維持要件の緩和も
令和3年1月8日以降の緊急事態宣言再発令で、昨年までは最大で4分の3となっていた大企業への助成率が、「特に業況の厳しい」大企業と発令地域で要請を受けて時短営業等に協力した大企業については最大10分の10に引き上げられました。
中小企業は緊急事態宣言発令地域に関わらず、昨年同様の助成率となっています。
※当記事では言及していませんが、昨年同様に個人事業主も「雇用調整助成金」対象
*1…特に業況の厳しい
令和3年1月8日以降の休業初日が属する月からさかのぼって3カ月間【A】と、前年同期または前々年同期【B】の生産指標(売上高等)を比較し、【A】が30%以上減少している場合
令和2年4月1日~令和3年1月7日までの期間の助成率は下記の通りとなっています。
教育訓練を実施した際の加算額や支給限度日数等の制限は、昨年4月時点で緩和されている点などもご確認ください。
*2…教育訓練を実施したときの加算(額)
「特例措置」ではさまざまな「教育訓練」も助成対象となり、休業手当・賃金の助成の他に教育訓練を実施した日数分の加算額が設定されています。通常は「教育訓練実施日は就労不可」という条件でしたが、「特例措置」で「半日訓練半日就業」が可能となり、期間中に教育訓練を行った場合の助成率も中小企業が4/5(雇用を維持した場合は9/10)、大企業が2/3(雇用を維持した場合は3/4)と引き上げられました。
*3…支給限度額
通常の「雇用調整助成金」では「1年100日、3年150日」と規定されている助成金支給の対象となる限度日数が、「特例措置」では令和2年4月1日以降の緊急対応期間も支給対象となります。
詳しくは、厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク連名提供の【緊急事態宣言等対応特例パンフレット】などの公開資料をご参照いただくか、「雇用調整助成金コールセンター」まで直接お問い合わせください。
「雇用調整助成金」を利用するメリットってあるの?
● 休業時の賃金(休業手当)負担が軽減される
繰り返しになりますが、対象の要件に当てはまる中小企業には休業手当の最大10割(上限額15,000円)が助成されます。
● 従業員の生活を守れる
解雇ではなく「休業」とすることで、従業員は自宅待機となりますが、その間通常の給与の6割を休業手当として受け取ることができます。時短休業も対象となるため、業務量に合わせて出勤日数を減らした場合や1日の労働時間を短くした場合にもこの制度を利用できます。
● 優秀な人材の流出防止
経営者や人事ご担当者の方々によって考え方はさまざまですが、「雇用調整助成金」は「まずは解雇」という選択肢以外の道を選ぶ手助けとなるのではないでしょうか?
優秀の人材であればあるほど、仮にそうではなくとも、“新型コロナ禍でも雇用を維持した”という印象は、事業が回復した際の人材登用にプラスに働く可能性があります。人材採用や教育などに投入したコストを無駄にすることなく、有事にも優秀な人材が他所へ流出させることなく現場に残すことで描けるビジョンがあるかもしれません。
● 社会的信頼も守れる、目には見えない効果に期待
大企業の場合、リストラなどニュースに取り上げられるなどして社会的信頼が下がることがあります。
解雇せずに休業で雇用を継続した場合、「売上・事業の縮小=解雇」ではないという姿勢を示すことで従業員との信頼関係が高まるかもしれません。中小企業や小さな組織体であっても同様です。
「教育雇用調整助成金」の「特例措置」を、従業員の生活を守ると共に企業の再建準備期間のチャンスと捉えて利用を検討してみるのはいかがでしょうか。
助成金利用の注意点
これまで「雇用調整助成金」と「特例措置」について説明しましたが、最後に利用について注意点をご案内します。
1)支給要件を満たす必要がある
「雇用調整助成金」の支給には審査があります。支給要件が緩和されていますが、事前に確認して休業を実施しましょう。
2)「特例措置」が受けられる支給対象期間に注意
特例措置が受けられる期間は 令和2年4月1日から緊急事態宣言が全国で解除された月の翌月末日までに実施した休業となります。
» 【参考】厚生労働省: 新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置を延長します
3)助成金を受けられる申請期日に注意
特例措置の届出の期日は、支給対象期間の最終日の翌日から起算して2か月以内です。
4)最新の申請様式を利用する必要があります
新型コロナウイルス感染拡大を受けて、「特例措置」も状況に応じて改変されていることから申請様式も都度変更される場合もありますが、現在は事業規模に応じた4つ申請様式に分けられ、休業状況等によっても様式が異なる点にご注意ください。
» 【参考】厚生労働省:雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウイルス感染症対策特例措置用)
実施した休業内容と申請内容に齟齬があった場合は再申請となってしまいます。
書類作成に着手する前に厚生労働省のホームページで確認されるか、最寄りの都道府県労働局またはハローワークへお問い合わせいただくことを強くお勧めいたします。
コールセンターも土日を含めて設置されていますので、ぜひご活用ください。
雇用調整助成金コールセンター |
フリーダイヤル:0120-60-3999 〔受付時間〕9:00~21:00 ※土日・祝日含む |
新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下の対応や感染症対策に関する「新型コロナウイルス対策」記事一覧を設置しました。
少なからず、ご参考になれば幸いです。
末筆となりましたが、 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患された方々へ謹んでお見舞い申し上げますとともに、一日も早いご快復を心よりお祈り申し上げます。
対策やご対応に苦心されているご担当者様においては、貴社と従業員の皆様が健やかにこの時節を乗り越え、影響が最小限に留まりますように。このコラムと弊社サービスが微力ながらお力になれればと思っています。
- 厚生労働省:雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)
- 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に係る雇用調整助成金の特例措置を延長します ※2021年2月22日公開
- 厚生労働省:緊急事態宣言等対応特例について ※2021年2月22日公開
- 厚生労働省:雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウイルス感染症対策特例措置用)
- 厚生労働省:雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)
初出:2020年03月04日 / 編集:2021年03月16日 |