「職場でよくある適応障害 個人と職場でのそれぞれの対策」【3】(吉村健佑氏セミナーアーカイブ)

当記事は、弊社が過去に開催したオンラインセミナー「組織改善Week」より吉村健佑氏の『職場でよくある適応障害 個人と職場でのそれぞれの対策』を書き起こしたアーカイブレポートの再編集です。
(当アーカイブは、該当セミナーを3回に分けてお届けしています。なお、講師の先生方の肩書などについては講演当時のものです。)

吉村氏:
では、残る時間で職場全体での予防策、特に上司に対してどのようなトレーニング・教育をしていけばいいのかという話を整理していきます。

先ほどのスライドと同じですが、第一次予防メンタル対策、適応障害予防の切り口として「上司教育」を皆さんに紹介したいと思います。
 
そもそも上司は心の健康・体の健康にとても重要な役割を持っています。
これは産業保健の超基本ワードで「安全配慮義務」です。
 

 

「事業主は過度の疲労や心理的負荷をかけて社員の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」なので、上司(スライドの「事業主(管理職)」)がきちんと部下に注意を払い、安全な環境で、疲労や負荷がかかりすぎないような形で業務命令を出さなければならない。
また、出された部下・従業員側(スライドの「職員」)もただ義務で守られているだけではなくて、自分の健康は自分で守ること。例えば病院に通っている場合は、処方された薬剤をきちんと医師の指示通りに飲むとか自分の健康を整える、夜は無理して夜更かしなどはせずにきちんと寝る・規則正しい生活を整えて業務ができるようにすることも重要な「自己保健努力義務」です。
そして、事業主側は労務を提供し、会社や組織の規則を守ることが求められるわけです。なので上司はとても大事な役割を持っているわけですね。
 
ここでは「事業主」と書いていますけど、各職場・事業場では社長や病院長・理事長などはいない場合も多いので、職場の上司が安全配慮義務を負うとされています
 

 

そして安全配慮義務を含む、管理監督者には色々と知らないといけないことがあります。
それを「11の知識」として整理したのがこの資料です。
 
例えば、ストレス及びメンタルヘルスケアに関する基礎知識を知っていたり、管理監督者の役割を知っていたり、労働者からの相談対応でも「ちゃんと話を聞くからね」と言うだけではなくて、話の聴き方をきちんとトレーニングしたり、必要な場合は産業医や本人の許可を取った上で、周囲の方に情報提供することも相談対応の技術に含まれます。
そして心の健康問題により休業した者との職場復帰への支援の方法。これ太字黄色にしましたけども、実はとても大事な役割でして、「復職支援」というキーワードで説明されていますから、ぜひ厚生労働省などの資料でもご確認いただければと思います。あと、さまざまな事業場内産業保健スタッフとの連携も上司のケア・業務の一つとしてあげられています。

 

 

実際に管理職の方が面接をする場面はよくあるかと思います。
ただ管理職の多くの方で、自信を持って部下の面接をするということになかなか慣れない方もいらっしゃいます。そういった方のために、基本的なことを整理してお示ししています。
 
面接場所は話し声の漏れない部屋でするといいですね。来訪者や電話などの入らない環境に整えてあげて、きちんとその時間は面接に集中して聴けるという環境を作った方がいいと思います。
セキュリティですが、朝早く・夜遅くとかの時間外はあまりよくありませんね。日勤帯の9時から17時の間に設定する。

緊急に人を呼ぶときの手順。これは何かというと、例えば面接の中で相手が感情的になって怒ってしまったり、逆に感情を抑えきれずに泣き出してしまったりですね、そういうときに自分も面談者として、自分一人で対応できない場合に助けを呼べるような、話している内容はわからない(外には漏れない)けれども、もし「ちょっと誰か来てくれる?」と呼べば耳に入る環境がよいかと思います。

面接時間は少なくとも1人30分は確保しましょう。面談内容はそんなになくて、10分・15分で終わってもそれはそれで結構です。でも「今日30分あなたのために私は業務を止めて、これが大事だと思うので、その時間をとってますよ」と言えば、安心してお話しできることが多いと思います。そして30分あるなら、この際にお話ししようといって、普段言わないようなことが出てくることもあります。

あとはメンタルヘルス相談という位置づけであっても、周囲にあからさまにわからないようにする。例えば職場の方に対して、定期的に面談をしているんだということで、皆さんに声かけをしたりする配慮が必要だと思います。上司になった方は1対1の面接スキルをあげていく・伝承していくことも大事でしょう。
 
もう少し具体的に見ていきます。
部下のメンタルヘルス不調や適応障害かなと疑ったときの声かけのポイントですね。
 

 

これはあくまで、メンタルヘルス不調を疑ったときにやってはいけないというものです。
そういった場面ではなくて、例えば信頼している同僚同士・元気な方同士であればこういった声かけもあるかもしれませんが、もしかしてメンタルヘルス不調かな、適応障害かなと思った場合は、お酒に誘うこともよくないですね。睡眠覚醒リズムが問題を起こしたり、もしかしたらその方はすでにメンタルクリニックや心療内科で精神科の薬をもらっているかもしれません。そうすると精神科の薬とお酒は基本的にNGなので、組み合わせが悪いので本人を困らせてしまうかもしれない。やはりお酒を飲みながら対応するよりも、(お酒が入っていないときに)素面で時間を取って、冷静に対応するというのが誠実だと思います。これが声かけのポイント悪い例です。
 

 

では良い例はどうなのか。もしメンタル不調を疑っても、上司が「うつじゃない?」「適応障害じゃない?」というのは避けたほうがいいです。
そうではなくて、「体調はどうだ」とか、「ちゃんと眠れているか」「ちゃんと食事は取れているか」など、体調について心配しているという言い方をしましょう。やはり精神疾患ではないかと誰かから言われると本人は非常に萎縮しますし、緊張します。ですので、体調不良から様子を聞いてみる。

あと大事なのは「心配だな」ということですとか、これをアイメッセージといいますが、上司が部下のことを心配しているのではなく、人として「あなたのことが心配です」と、ご説明してあげる方が相手は受け入れやすいことがわかっています。業務ですからこれをちゃんとやってくださいというのではなくて、一緒に働いている仲間として心配しているんだ、という声かけは相手に対して行動を変化させやすく、きちんと情報を開示したり話し合いにつながりやすいことがわかっています。
 

 

上司が部下を褒めるコツですね。
上司が褒めたり叱ったりする場面があるわけですけれどもコツはどうすればいいか。結果ではなくプロセスに注目する、本人の成長に基準を当てるんですね。結果が良かったから素晴らしい、結果が悪かったら良くないではなくて、本人がどのような態度で業務に臨み、本人がどのような成長・変化をこの間にもたらしたのかというところに注目します。タイミングはできればその場でポジティブにフィードバックし、周囲とも共有してよいと思います。

ときには第三者の口から伝える。これちょっと上級テクニックですけれど、直接「素晴らしいね」「よくできているね」「とてもありがたかったよ」と言うのも良いのですが、良い部分の話であれば周囲の方にそれを伝えて間接的に、「この間上司の誰々が君のこと褒めていたよ」と伝えると、嬉しかったりするんですね。なので、感情って人から伝わってくると大きくなって増えるとわかっています。良い話も人から伝わると嬉しさが増します。

逆に悪い話は、第三者の口から伝えてはいけません。あなたはここを直したほうがいいですよという話は、直接1対1で、周りに誰もいないところで伝えるのがコツになります。

褒め方のコツとして「さ・し・す・せ・そ」とは何でしょう?

褒め言葉のマジックワードといいまして、「さ)サンキュー!さすが!」、「し)しっかりしている!知らなかったよ!信頼してるよ!」、「す)素晴らしいね!すごいね!」、「せ)センスいいね!」、「そ)その通り!尊敬するよ!
…何を言っているかというと、ポジティブなワードはどちらかというと、癖があって、口をつくのは1つだったりするんですね。毎回毎回「素晴らしいね」って言っていると、部下からも本当に素晴らしいと思っているのかな?と思われてしまうので、できるだけキーワードを変えながら相手に対してポジティブに返していこうというものです。

これは裴英洙先生という方が書かれたテキストにあったものを紹介いたしました。こういうようなキーワードを持っているといいですよね。

 

 

逆に叱り方ですね。これもかなり重要なスキルだと思います。

叱る目的って何でしょうか?
それは業務遂行上にあまり望ましくない判断・行動をした方に対して、「今回はこの点に問題があるから次回はこのようにした方がよいと思うよ」と、行動を変容させるための介入作業ですよね。相手にとって嫌な思いや惨めな思いをさせることが目的でもないわけです。望ましい方向に行動が変わるように介入するということで、それには5つ、やってはいけないことがあります。
 
1つ目は「時間差叱り」です。すごく時間が経ってから、「そういえば二か月前のあの話さ…」というふうに始めるのはちょっと違いますよね。
恥かかせ叱り」は、皆が聞いているところで思い切りダメ出しをして、その人の顔を潰してしまう。これも相手にとって受け入れがしにくい𠮟り方です。
追い討ち叱り」これはですね、良くなかったことについて指摘したあとに、もうそろそろ終わるのかなと思った頃に「やはり今回の件は納得できない、どうしてこうなってしまったんだ?」みたいな怒りが上司の中で盛り上がってしまって、再燃していく場合に起こりやすいです。こういうことを繰り返すと、受けている間はいつ終わるんだろう…と内容よりもこの場が早く終わって欲しい、この上司と関わるのはもうやめよう、という気持ちになってしまうので、健全な受け取り方にならない。
思い出し叱り」は、別のことAという事柄について叱っていたのに、「そういえば、この前BもCもあったよね、AもBもCもどうなっているんだ!」という感じにですね、一気に過去のことを持ち出して相手に対してぶつける形です。これも行動変容にはつながりにくい。一つひとつについて、「今回のこの件はこのようにした方が良かった、どう思う?」というふうにやっていくほうがいいです。
そして最後、5つ目は「比較叱り」ですね。「同期のあいつ比べてなぜこれができないんだ」「前任者はできたのに、なぜすぐにできないんだ」みたいにですね、人によって経験やスキルがまちまちですので、ここを人と比べてしまうと本人は受け入れがたくなってしまいます。
 

 

そして職場環境改善について、少し紹介しましょう。この話をしてまとめたいと思います。

職場環境改善は、メンタルヘルスの第一次予防、発生予防の1つでしたよね。
ストレスの原因を改善し、快適に働ける職場づくり。まさに適応障害を正面から解決していく方法になります。

改善ポイントをリストアップして、具体的な対策を立てる。労働時間の長さなのか、業務の質なのか、対人関係・コミュニケーションの問題なのか。アクションプランを作ってみんなで、期限・責任者を決めて職場環境改善を実行する。このリーダー役として、産業医や産業保健師はとても重要かなと思います。職場の一体感やいきいきと働ける雰囲気を向上して、前向きな気持ちで業務に取り組める人の割合を増やしていく活動ですね。

そのときに「メンタルヘルス アクションチェックリスト」というものが存在します。
 

 

そもそもこの職場環境改善は、ストレスチェックがスタートして、ストレスチェックの後、ストレス要因の高い・リスクの高い職場から順番に介入していくやり方として推奨されています。アクションチェックリストを配って、15個のリストに沿って「何かこの職場に問題があるのかどうか」をチェックリスト方式で確認し、「うちはここに問題がありそうだね」と話し合いの中で見つけていくツールも開発されています。
 

 

実際に、これは論文から引っ張ってきましたけれども、とある警察署で職場環境改善の効果を検証したものです。

警察署・県警で行った場合、若い人の意見を尊重することや、職場の清掃や会議の進め方、休憩の取り方など色々な対策を経費の安いものから取り組んでいったところ、実際にワークエンゲージメントや、いきいき働ける職場ということを示す点数が上がったという研究でした。

実際には、87%が効果を実感したと回答しています。古い書類が棚に詰まっていたり、資材置き場にホコリ被った古いものが放置されていたりなどを整えただけでも業務遂行に際して気持ちが良くなって、業務が進んだと報告されています。
 
このように結構ささいな部分から「ストレス要因になっているもの」を改善して、職場環境を整えることでストレッサーを減らしていくことができると思います。
 

 

最後にテレワークの話をしてまとめます。
このように個人向けストレスマネジメント、上司の教育、そして職場環境改善をやっていくことで適応障害の予防や改善ができるわけですが、最近やはりテレワークが増えているというのが話題になります。テレワークが増えると何が減るか。1つは、笑いや雑談が減ることがわかっています。職場でちょっと立ち話することがなくなりますから、コミュニケーションの減少、そして組織市民行動が減る。組織市民行動というのは、チームとして相手に対して色々な支援をしていったりする作業です。これも減ってくると最終的に職場のソーシャルキャピタルが減り、心理的安全性が減るということがわかっています。
 

 

ソーシャルキャピタルとは、例えば、「上司は親切心と思いやりをもって私たちに接してくれる」とか、「お互いに理解し認めあっている」とか、上司やメンバーが信頼できるとか、理解と信頼をソーシャルキャピタルに読み替えることができます。これらの質問の項目の変化があるかどうか。

あとは心理的安全性とは、このような尺度でチェックできます。

「現在所属しているチームで失敗すると、あなたが責められることがある」「チームのメンバーは問題点や困難な論点を提起することができる」について、これはですね、問題点や困難ばかり提起するのは安全性が下がるわけです。「異質な人を拒絶する」これも安全性が下がります。「チームでリスクをとっても安全だ」と、これに丸がつくと心理的安全性が高いということになります。

このような質問項目を設けて確認し、チーム全体でほど良い緊張感のもとで安心しながら働ける雰囲気が醸成されれば、適応障害にならずに業務遂行できる環境を作ることができるわけです。
 

 

今日のまとめです。
適応障害というキーワードの切り口に、職場のメンタルヘルス対策を見てきました。

適応障害はメンタル不調の入り口」だよということで、これらの兆候がみられたら産業医や産業保健師と協力しながら、定期的なフォローや面接・面談が必要だと思います。

2つ目は、職員向けの「ストレス対処力を向上」していこうということですね。そして職場全体では「早期発見」できるような上司からの声かけ、ないしは上司そのものの認識を整えることです。

そして最後に紹介しました「心理的安全性」です。心理的安全性が保たれている職場かどうかを定期的にチェックしながら職場を作っていくことが重要だと思います。有能な人材をせっかく採用したのであれば、それをきちんと伸ばしていく。そして、その方々が気持ちよく働けるような職場を作っていくことが適応障害の対策にもなりますし、改善のヒントにもなってくるかなと思います。

今日の私からの話は以上になります。このあと質疑応答の時間をとらせていただければと思います。
 

 

〔参考文献・関連リンク〕

  • 前田陽司・河下太志・渡部卓:メンタルヘルス対策の実務と法律知識(日本実業出版社、2008年)
  • 堤明純:これならできる!看護師のメンタルヘルス対策ハンドブック(慧文社、2016年)
  • 東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座・精神保健学分野 職場のメンタルヘルス専門家養成プログラム(UTokyo Occupational Mental Health Training Program) 2013年度講義資料
  • 松原六郎・五十川早苗・齊藤忍:職場のうつ ―対策実践マニュアル―(星和書店、2010年)
  • 裴英洙:医療職が部下に悩んだら読む本(日経BP、2016年)
  • 吉田留美子・高橋さやから:モデル警察署における「職場環境改善事業」の効果(産業衛生学雑誌、2014年)
  • Oksanen T, Kivimäki M, Kawachi I,Subramanian SV, Takao S, Suzuki E, Kouvonen A, Pentti J, Salo P, Virtanen M, Vahtera J. “Workplace social capital and all-cause mortality: a prospective cohort study of 28,043 public-sector employees in Finland.” Am J Public Health. 2011;101(9):1742-8.
  • Edomondson, A.C. “Psychologcal Safety and Leaning Behavior in Work Teams.” Administrative Science Ouartterly 44.2(1999): 350-383
     

 

初出:2022年03月18日 / 編集:2026年01月28日

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