事業場の従業員数が50人以上になると、会社として行わなければならない「義務」や「報告」が新たに発生します。従業員の安全と健康を守るために「労働安全衛生法」などに定められています。労務に関わることなので、人事・労務担当者はきちんと把握しておく必要があります。
実は、事前準備が必要なことがたくさんあるのをご存じでしょうか?
「50人以上になってから取り組めばいいか」などと思っていると、いざとなったときにすぐに対応できず、場合によっては違反や罰則の対象になってしまうことも……。しかし、今のうちから準備しておけば焦ることはありません。
本記事では、従業員が50人に達することを見据えた事業場がやらなければならない「義務」と、「押さえるべきポイント」についてまとめました。
50人になったら義務になることー労基署に怒られる前に……
50人以上の従業員を抱える事業場は、以下の5つのことが義務づけられます。
<従業員数50人以上で義務になること>
①産業医の選任
②衛生委員会の設置
③衛生管理者の選任
④定期健康診断結果報告書の提出
⑤ストレスチェックの実施、結果報告
従業員が50人未満の場合と大きく異なるのは、「労働基準監督署へ届け出なければならないこと」と、産業医や衛生管理者など「専門家や資格を持った担当者の選任」が求められる点です。
主に従業員の心や身体の健康に関わる業務のため、「産業保健」の視点や「情報の取り扱い」 に関する知識を社内全体に周知する必要があります。これらは別々の法律で定められている部分があり、正社員だけでなくアルバイトや派遣労働者は含めるのかなど、対象が異なる場合があることにも注意が必要です。
従業員数「50人」はどのようにカウントする?
ここでいう「従業員」とは、労働安全衛生法 や 労働基準法 など法律に出てくる「常時使用する労働者が50名以上」のことを指します。
常時使用する労働者の数は、日雇労働者、パートタイマー等の臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数をいいます。
厚生労働省:安全衛生に関するQ&A
派遣中の労働者については、事業場規模の算定に当たっては、派遣先の事業場及び派遣元の事業場の双方について、派遣中の労働者の数を含めて、常時使用する労働者の数を算出するものとされています。ただし、安全管理者と安全委員会については選任・設置義務が派遣先事業場のみに課せられていますので、派遣先の事業場について、派遣中の労働者の数を含めて算出します。
つまり、基本的には「正社員だけでなく、パートタイマー、アルバイト、契約従業員、日雇労働者などの臨時的労働者(雇用契約の形態や期間の定めの有無は問わず)を含め、50人以上いる事業場は義務の対象となります。
それでは、上記の5つの「義務」をひとつずつ確認していきましょう。
50人になったら、まずは「産業医」
従業員数が50人以上になった企業のご担当からご相談をいただくことが多いのが「産業医の選任」です。
①産業医の選任
従業員数が50人を超えた事業場は、「産業医の選任」が必要となります。
「14日以内に選任し、労働基準監督署へ報告」しなければなりません。50人以上500人未満の事業所の場合、義務として必要となるのは嘱託産業医1名です。
嘱託とは業務委託のような契約形態で、常に事業所にいることは少なく複数の企業を担当している場合が多くみられます。職場を訪問をして巡回や社員との面談行う、委員会に出席する、専門家の観点から意見を提出するなど、産業医の基本的な業務を行ってもらうこととなります。
産業医の役割は、労働基準監督署への報告や、定期的な健康診断・ストレスチェックにも重要となりますので、なるべく早く選任を行いましょう。
毎月の「衛生委員会」と職場の「衛生管理者」
労働者が50人以上いる事業所は、「衛生委員会の設置」と「衛生管理者の選任」が必要です。
②衛生委員会の設置
衛生委員会とは、労働災害防止の取り組みを労使が一体となって行うために設ける場です。 労働安全衛生法では「健康・安全などに関する労働者の意見を、企業の措置に反映させるための制度」とされています。
衛生委員会で、健康被害の防止や保持増進などの重要事項について話し合います。具体的には、職場の安全衛生に関わる活動や対策の計画・規定の作成、実施した取り組みの結果検討、衛生に関する社員教育の調査と共有・審議や意見交換などです。 なるべく月に1回以上開催し、 議事録は3年間保存することと定められています。
衛生委員会を構成するメンバーは、以下のように定められています。
事業場の統括管理責任者 (総括安全衛生管理者) | 1名 ※議長として選任 |
衛生管理者 | 1名以上 |
産業医 | 1名以上 |
事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者 | 1名以上 |
人数に決まりはありませんが、議長以外については、事業者が委員を指名することとされています。なお、この内の半数については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦に基づき指名しなければなりません。
※なお、安全委員会は業種により設置基準の人数が50人、または100人と異なります。詳しくは 厚生労働省のページでご確認ください。
③衛生管理者の選任
衛生管理者とは 、労働安全衛生法で定められた国家資格です。衛生委員会の構成メンバーとしても必要となります。50人以上の事業所となったタイミングで資格を持つ社員の選任が義務となります。
14日以内に選任し、選任報告書を労働基準監督署に提出する必要があります。
衛生管理者は安全衛生管理の専門スタッフとして、作業環境の安全性と労働者の健康について管理監督し、労働衛生教育や健康に関する措置の実施など、社内や就業環境の安全衛生管理に努めます。
50人以上200人未満の事業所につき必ず一人選任され、14日以内に労働基準監督署に届け出るよう定められており、選任しない場合罰則の対象となることもあるので、資格の取得や選任は計画的に行いましょう。
「健康診断」と「ストレスチェック」は定期的に!
従業員が50人以上となると、これまで行ってきた健康診断にも「報告」の義務が生じます。
2015年には「ストレスチェックの実施」も義務化され、従業員の心身の健康管理は企業の「安全配慮義務」として求められるようになりました。
④定期健康診断結果報告書の提出
企業は1年以上雇用している、またはする予定の従業員が1人でもいる場合、健康診断を実施しなければなりませんが、事業場の労働者数が50人になった時点から健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務が新たに生じます。
健康診断の対象となるのは、「1年以上雇用している、またはする予定・ 週労働時間が正社員の4分の3以上の労働者(パートやアルバイトも含む)」です。
⑤ストレスチェックの実施、結果報告
健康診断と同様に、1年に一度ストレスチェックを実施することも企業の義務として加わりました。
(従業員数が50人を超えた事業場は義務、50人未満は努力義務)
ストレスチェックの対象となるのは健康診断と同じく、1年以上雇用している、またはする予定・ 週労働時間が正社員の4分の3以上の労働者(パートやアルバイトも含む)です。ストレスチェックと高ストレス者に対する面接指導の実施、その結果を報告書として労働基準監督署へ提出することが義務づけられています。
報告書について、提出期限は明確に定められていませんが、 あまりにも長い間報告が遅れた場合には「報告を怠った」として労基署から連絡や注意を受けることがあります。 実施後はなるべく速やかな提出を心がけましょう。もし、実施や報告が遅れる場合は、所轄の労基署へ連絡して相談してください。年に1回必ず行うようになるため、実施に必要な社内体制・最新の制度情報はしっかり確認しておきましょう。
※2020年度から「産業医の記名捺印または自筆署名」が不要になりました。
「産業医の氏名の表記」は変わらず必要ですが、企業の担当者が産業医の氏名を記入・提出することが可能になりました。
これによって、 実施後のやり取りを減らしスムーズな報告が可能になります。
以上、事業場で従業員数が50人を超えたら新たに義務になることと、その対象となる労働者について、ひとつずつ確認してきました。
このように従業員が50人以上となると、会社としてやらなければならないこと、人事・労務面での義務が増えてきます。報告書の提出、専門スタッフの選任や社内の体制の整備は、今後の企業の成長のみならず労使間のトラブル・労災や事故を未然に防ぐ“よりどころ”となります。
「まだ50人にはなっていないから」「50人を超えたら考えればいいか」などと後回しにしがちな社内の安全衛生体制の整備ですが、最初の1歩が肝心。労使双方にとって、安全・安心で健康な職場環境づくりを目指していきましょう。
初出:2019年09月02日 / 編集:2022年02月10日 |