【教育,学習支援業】「働きがい」など全業界中トップも、総合健康リスク・高ストレス者割合ともに年々悪化。働き方改革や給特法改正など今後の動向にも要注目:ストレスチェック業界平均値レポート2025

株式会社情報基盤開発は、2024年中に「ソシキスイッチ ストレスチェック(旧:AltPaperストレスチェック)」をご利用いただいたお客様からデータをご提供いただき※1、「高ストレス者※2の割合・「総合健康リスク※3・「各種ストレス尺度」について業種別に平均値を算出した「ストレスチェック業界平均値レポート2025」を公開いたしました。
調査方法 については、記事の末尾に記載しています)

 

本コラムでは、弊社既報の「ストレスチェック業界平均値レポート2025」から、「教育, 学習支援業」の集団分析結果について考察・解説いたします。
 

【 目次 】
※各タイトルからページ内の該当箇所にスクロールします
「教育, 学習支援業」のストレスチェック実施結果の特徴は?
 「教育, 学習支援業」 の高ストレス者割合は15.9%
「教育, 学習支援業」のストレス要因を各尺度から分析
 仕事の質量ともに負担が高い一方で、技能の活用・適性・働きがい・満足度は全業界中No.1
「教育,学習支援業」の背景について
 文科省の調査で分かった、「精神疾患による病気休職者数」は過去最多に
 教職員のストレスチェック、7年分のデータを公表
 対策に乗り出すも、実態の把握と適切な職場環境改善なしには負担増大も懸念
 約50年ぶりとなる給特法等の改正(教職員の処遇改善)も課題あり
調査方法

 

「教育, 学習支援業」のストレスチェック実施結果の特徴は?

※赤い囲み部分 …
総合健康リスク:110以上を赤色、100以上を黄色に色分け
高ストレス者(A判定)割合:15%以上を赤色、10%以上を黄色に色分け

A判定割合高ストレス者割合
当社のデータでは、厚生労働省公表のストレスチェック結果の分布で最も高い評価「A」判定を示した受検者の割合を用いています

 

 

 

「総合健康リスク」は、職場に対して感じているストレスを「仕事の量-コントロール」と「職場の支援(上司や同僚からの支援)」の2軸に分け、職場の環境が従業員の健康にどの程度影響を与えるかを総合的に評価したものです。

「教育, 学習支援業」 の総合健康リスクは、97.4(前年比+2.0)となり、前回よりやや悪化しました。基準値の100を下回っているためリスクはさほど高くないと数値からは読み取れますが、全体の傾向として、以前はリスクが高かった業界も平均に近くなりリスクが改善している傾向にある中で、「教育, 学習支援業」に関してはここ数年リスクが高まっている様子が見受けられますので、数値だけを見て楽観視はできないと考えます。(詳しくは後述)
 
「高ストレス者」は、回答項目の中でも心身のストレス反応に関する項目を中心に評価しており、実際にストレス反応が現れている場合に高くなり、一定の基準を超えると高ストレス者と判定されます。各事業場の中で高ストレス者がどの程度いるかを示したものが、高ストレス者割合です。
「教育, 学習支援業」 の高ストレス者割合は、15.9%(前年比+2.3)という結果でした。

また、「教育, 学習支援業」の高ストレス者割合は今回、全14業界中(「T.分類不能の産業」を除く)ワースト5となりました。
 

 

例年、高ストレス者割合のワースト5に挙がってくる業界を見てみると、今回は比較的どの業界も変化の幅が小さかったのに対し、「教育, 学習支援業」の高ストレス者割合は前回と比べて2ポイント以上悪化していることから、今回初めてワーストランキング入りしました

 

「教育, 学習支援業」 の高ストレス者割合は15.9%

 

この数値だけについていえば、全体の結果・概略をご紹介した記事ですでにお伝えしているように、
 
・高ストレス者割合は、業界関係なくここ数年平均的に高くなっていること
・さらに、弊社のソシキスイッチストレスチェック受検者全体の高ストレス者割合を算出した結果、約15%の労働者が高ストレス者と判定を受けていると判明したこと
 
 
の上記2点を考えると「さほど問題はないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ここで着目すべきなのは元々「教育, 学習支援業」は高ストレス者割合・総合健康リスクともに数値がよかった業界であることです。また、他業界が比較的改善・安定傾向にある総合健康リスクの数値も「教育, 学習支援業」はここ数年、年々悪化していることに注意を向けていただく必要があるかと思います。
 
弊社の業界平均値は、毎年受検者数や事業者数などの変動も関係してくることから、集団の傾向分析にすぎず、一概には評価・断言はできませんが、教育業界・教職員全体の傾向や性質を把握するうえで参考としていただければと思います。

 

 

 

「教育, 学習支援業」のストレス要因を各尺度から分析

 

上記は、「教育, 学習支援業」のストレスチェックの各尺度の数値(偏差値)を表しています。50が基準値です。

 

仕事の質量ともに負担が高い一方で、技能の活用・適性・働きがい・満足度は全業界中No.1

 

まず、【心理的な仕事の負担(量)】【心理的な仕事の負担(質)】について、男女ともに負担が大きいことが数値から読み取れます。
男性は全14業界(「T.分類不能の産業」を除く)の中で、もっとも不良な数値(それぞれ49.2/48.1)を示しています。女性に関しても【心理的な仕事の負担(量)】は「医療業」と並びワースト1(46.4)、【心理的な仕事の負担(質)】も同じく「医療業」に次いでワースト2(45.9)となっており、仕事内容の難しさ・量の多さともに大きな負担と感じている方が多いようです。
 
一方で、【技能の活用度】【自覚的な仕事の適性度】【働きがい】【仕事や生活の満足度】は男女ともに全14業界中No.1の数値です。
【技能の活用度】については、男性の数値は51.7と基準値をやや上回る程度ですが、女性は54.5と良好で、【自覚的な仕事の適性度】(男性:53.5/女性:54.3)、【働きがい】(男性:54.9/女性:56.2)、【仕事や生活の満足度】(男性:53.1/女性:54.6)もそれぞれ良好な数値を示しています。自分の適性に合った仕事にやりがいを感じて取り組むことができ、経験やスキルを生かせる仕事や現在の生活に満足している方が多いことが本結果からは読み取れます。

 

「教育,学習支援業」の背景について

 
文科省の調査で分かった、「精神疾患による病気休職者数」は過去最多に

 

長時間労働など学校現場を取り巻く環境、教職員のメンタルヘルスの問題が度々メディアに取り上げられ、大きな課題となっています。

2024年12月に文部科学省が発表した調査(令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について)によれば、前年度にうつ病などの精神疾患で休職した公立学校の教員は7119人で、統計を取り始めた1979年以来、過去最多となったことが分かりました。
 
うち小学校が3443人、中学校が1705人、高校が966人、特別支援学校が928人などで、前の年度よりも580人増えているといいます。また、年代別の内訳は20代が1276人、30代が2128人、40代が1766人、50代以上が1949人となっています。さらに上記の休職者の数に「1か月以上病気休暇を取った教員」を加えると合計1万3045人(前年度比848人増)となり、これは全教員の1.42%にあたるそうです。

休職に至った理由については、「児童生徒に対する指導に関すること」(26.5%)や「職場の対人関係」(23.6%)が多くを占め、「事務的な業務に関すること」(13.2%)が次に続いています。
特に、小学校では児童生徒の指導に関わることが理由での休職について、20代~30代の割合が40%を超え、高校や特別支援学校では職場の対人関係がすべての年代で30%前後と最も高くなっています。
 

 

教職員のストレスチェック、7年分のデータを公表

 

全国の公立小・中・高等学校の教職員が加入する「公立学校共済組合」は、教職員のストレス状況とその要因を明らかにしメンタルヘルス対策事業に役立てることを目的として「ストレスチェックデータ分析結果報告書」(2024年7月26日公表)を公開しています。

もとになったのは2016年度から2022年度までの7年間分のストレスチェックの結果データで、受検者は約172万人にのぼり、2022年時点では全国の教育委員会の約4割をカバーする大規模な調査だったようです。
 
分析結果の概要は下記のとおり公開されています。
 

 
同調査では、(高ストレス者判定に用いられる)各尺度の分析で、男女ともに次の傾向があったといいます。
 

○良い傾向:働きがい、上司/同僚からの支援、仕事や生活の満足度
○悪い傾向:心理的な仕事の負担(量/質)、自覚的な身体的負担度

 
今回弊社が発表した業界平均値とはデータ収集の時期も規模も異なり、より細かな分析がなされている調査ですが、上記の結果を見るに、おおむね同じような傾向といってよいのではないでしょうか。
なお、上司・同僚からの支援に関しては、弊社の業界平均値の分析では特出して良い項目としては挙げていないものの、数値としては基準値を上回る結果となっています。
 
また、高ストレス者割合はコロナ禍で臨時休校などもあった2020年度にいったん低下したものの、調査を開始した2016年度(8.9%)以降、全体的に上昇傾向にあることが分かったそうです。さらにこれは、上記で紹介した文部科学省の『公立学校教職員の人事行政状況調査』の項目の一つ、「教育職員の精神疾患による病気休職者等数」の割合の増減と同様の傾向がみられるとのことで、
 

〇ストレスチェックにより教職員の方に対してセルフケアを促す
〇集団分析結果を活用し職場環境改善に取り組むことにより、教職員の病気休職等を未然に防止していく

 
この2点の必要性が示されていました。

 

対策に乗り出すも、実態の把握と適切な職場環境改善なしには負担増大も懸念

これらの調査結果や現状を踏まえて、国や各地方教育委員会は具体的な対策に乗り出しているようです。

例えば東京都では、臨床心理士等の有資格者が訪問し教職員と面談を行うアウトリーチ型相談事業の実施や、同じ学校の同世代の先輩教員等が相談に乗る「メンター制度」、SNS(LINE)を活用した相談窓口を開設するなどのほか、教職員同士の円滑なコミュニケーションを促進するガイドブックを作成し、全教職員に配布するなど、主に若手の教員が安心して働ける環境整備を始めています。
 

 

約50年ぶりとなる給特法等の改正(教職員の処遇改善)も課題あり

政府は約50年ぶりとなる教員の処遇改善などを盛り込んだ給特法等の改正案(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」)を可決・成立させ、学校の働き方改革に段階的に取り組む考えを示しています。しかし一方で、残業時間の削減や給与の上乗せ(教職調整額の段階的引き上げ)など、法律を変えたり目標を設定するだけで対応できるほど甘くないと指摘する専門家も多く、逆に時短で仕事を行わなければならないプレッシャーや勤務時間を正確に申告できないなど、より数字や目には見えない負担が増す可能性も懸念されています。
 
実際に、休職に至った教職員の声(既出の『令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』)からも、これまで文科省などが主な問題としてきた「長時間勤務(時間外在校等時間の状況、年次有給休暇の取得状況)」は回答のわずか0.8%でした。すでに紹介した児童生徒に対する指導職場の対人関係、事務的な業務の負担などその他の理由と比べた場合には、もっとも直接的な理由となったというよりは(12の選択肢の中から2つまで選択・回答のため)、要因のひとつに過ぎないのかもしれません。
 

文部科学省:公立学校共済組合「ストレスチェックデータ分析結果報告書」
精神疾患による病気休養の要因について②


もちろん教職員の定数改善や業務の削減・効率化など業務の見直しを行い、全体的な残業時間の削減に向けた取り組みは重要ですが、より広い視点で、実態に即した対策を検討することが求められているのではないでしょうか。
 

 

弊社の業界平均値レポートの分析では、過去に「他業種と比較して総合的に良い数値の回答項目が多く、ストレスを感じにくい環境で従事できている」(2019年)とお伝えしていたこともありました。各業界によって状況は異なり、特にやりがいの高さや自らのスキルや経験を生かしながら働くことができていると感じながらお仕事の従事されている方の多い業界です。ストレスチェックだけでは測れないことや、一般的な職場環境改善の手法とは異なる部分、一筋縄ではいかない部分も多いかと思います。

まずは本業界平均値と併せて、改めて貴校の集団分析データと向き合っていただき、 各現場の課題や教職員の負担に合わせた改善策をご検討いただけたらと思います。
本考察の視点が、職場環境改善のヒントになれば幸いです。
 
弊社・株式会社情報基盤開発は、「ストレスに悩まない職場をつくる」というミッションの実現に向けて、今後もストレスチェックをはじめ、職場のメンタルヘルスケア、健康経営、業務効率化の実現につながる各種法人向けサービスをご提供してまいります。

 

【調査方法】
この度算出いたしました業界平均値データは、弊社サービス「ソシキスイッチ ストレスチェック(旧称AltPaperストレスチェック)」を2024年中にご実施いただいた事業者を対象に、集団分析結果のご提供の承諾を個別に伺い、同意いただいた事業者のデータのみを用いて分析を行ないました。

比較の基準としている「全国(厚労省データ)」は、
厚生労働省科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業「職業性ストレス簡易調査票及び労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストの職種に応じた活用法に関する研究」、平成19年度総括・分担報告書 表4 職業性ストレス簡易調査票下位尺度の職種別平均値及び標準集団との比較、が出典です。

集計につきましては、事業者様のデータについて男性参加者データ・女性参加者データに分け、高ストレス者の出現割合、健康リスク、各尺度の平均値を業種ごとに算出しました。なお、本記事につきましては「男性」データを用いて、比較・分析を行っております。

※1 データの取り扱いについて:
・各事業者様にご提供いただいたデータにつきましては、業種・規模・地域をお伺いして分類することとし、個々の事業者様・受検者様を識別できないようにして取り扱っております。
・各受検者様の回答につきましては、性別・職種と57項目・80項目の回答データのみ使用することとし、個人を識別できないようにして取り扱っております。
・業種の分類は、総務省の日本標準産業分類(大分類、一部中分類) に従います。著しく事業者数が少なかった業種については比較的近い業種に集約しております。

※2 「高ストレス者」とは:
厚生労働省(令和元年7月)が公表したマニュアルに基づいており、以下(1)及び(2)に該当する者を指します。(1)及び(2)に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度を基準とします。
 (1)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
 (2)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」
  及び「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
 
※3「健康リスク」とは:
基準値として設定された全国平均値100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」とは、 男女別に求められた「量-コントロール判定図」と「職場の支援判定図」から構成されます。この二つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
「量-コントロール判定図」はストレスチェックから得られた「心理的な仕事の負担(量)」「仕事の裁量度」の2尺度の数値から、職場の支援判定図 は「上司からの支援度」「同僚からの支援度」の2尺度から求められます。

 

※「ストレスチェック業界平均値データ2024」は、弊社サービスをご利用いただき匿名データ提供にご協力いただいているお客様のみへのご案内となります(2025年4月にデータ一式を送付済み)。

今回、「業界平均値レポート2025」については記事のみのご案内となり、レポートのPDF資料ダウンロードはございません。
 

ストレスチェック実施のお悩みは、
情報基盤開発にお問い合わせください

おかげさまで、昨年2024年単年度の導入実績4,800社・150万人!

厚生労働省マニュアル準拠、実施者代行や医師面接代行、産業医紹介等のオプションサービスも豊富な「ソシキスイッチ ストレスチェックPRO」(旧称 AltPaperストレスチェック)のご利用を是非ご検討ください。

下記のフォームより、最新の「ソシキスイッチ ストレスチェックPRO」サービス案内資料のダウンロード、ならびにお気軽にお問い合わせください。

 

 

 

 

 

 

〔参考文献・関連リンク〕

 

初出:2025年08月27日

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