初詣などの”ご利益”とメンタルヘルスの関係を考える:ストレスに負けない働くオトナのメンタルケア

初詣など参拝・神頼みの“ご利益”と、現代人のメンタルヘルスとの関係を考える

新年、初詣には行かれましたでしょうか?

かつては企業・団体によっては社員総出で初詣に出掛けたり、商売繁盛を願う熊手を買いオフィスに飾ったりという光景を少なからず見掛けました。長引くコロナ禍で人込みへの団体行動を自粛する、あるいは昨今の会社行事を見直す動きなどから、こうした光景は今後は見られなくなっていくのかもしれません。
  

日本人は「特定の宗教に属している・育てられた」と回答した人が群を抜いて少ないという調査報告も

英国・ケント大学の調査 によると、日本、ブラジル、中国、デンマーク、英国、米国の6カ国の中で、いわゆる「超自然」を信じる人や「特定の宗教に属している・育てられた」と回答した人が群を抜いて少ないのは日本なのだとか。

一方で、初詣や七五三など節目節目で家族揃って神社に参拝し、故人の命日やお盆には墓参りに出掛ける……
という方が大半ではないでしょうか。「昔ながらの家族で慣れ親しんだ行事だから」「おごそかな神社の雰囲気が落ち着くから」、 信心深い訳ではないけれど足を運ぶようにしているといった声も聞かれます。

このような参拝や神頼み・先祖供養が心身にもたらす影響を、精神医学やメンタルヘルスケアの観点から検証していこうという動きなども近年進められているようです。
 

伊勢神宮(三重県伊勢市)

 

慣習や節目をつくること」の心理的効果

初詣・七五三などの「年中行事」を辞書で引けば、「家庭や集団で年々繰返される周期的な行事」と定義されています。周期的、つまり「生活の節目節目として区切りをつけるもの」というのが本質的な目的の一つだと考えられているようです。

周期的に繰り返し行う行動や習慣には、「ルーチンワーク」や「アンカリング」といった【気分の切り替え】に通じる効果があることは皆さまもご存じかと思います。

 
※「アンカリング」とは
過去のポジティブな記憶や感情をいつでも引き出せるようにすることで、自分が目指す状態になるためのきっかけや条件を設定すること。
モチベーションの回復や気分を高めたい場面で活用するテクニックの一つ。


新たな決意を立てる、節目節目で成長を実感するといった機会は、気持ちを「リセット」してリフレッシュする、やる気やモチベーションの向上に直結する良い影響があるといえるでしょう。

また、職場や家庭など集団で行事を行うことには、気持ちの切り替え効果を強めるねらいがあるのではないかと考えることもできます。一斉に同じ行事に参加する・同じ行動をすることで、「関わる人たちと共通の思い出ができる」「目標や認識を共有し、努力の習慣化がしやすい環境を作る」といった効果も期待できるでしょう。
 

「ご利益なんて単なる思い込み」…とは言い切れない?

では、初詣などの儀礼的な習慣にメリットはないのでしょうか。

新年に限らず、建築現場では工事の安全を祈願する地鎮祭を行い、飲食店の厨房やバックオフィスの一角に神棚や厄除けのお札を見かけることは今も少なくありません。「ゲン担ぎ」など、それを行ったことで物事が上手くいくようになった、不安が少し軽くなった、といった体験談はしばしば耳にしますよね。
 

神棚


全く脈絡のない行動であっても、その行為によって「気持ちがポジティブになる」「イメージが明確になる」効果があることは心理実験でも証明されています。気持ちが前向きになることで「落ち着いて行動できる」「思った以上のパフォーマンスが発揮できる」というメリットは、企業研修などで「ポジティブシンキング」や「プレッシャーの克服」の大事さと共に語られているかと思います。

お守りやゲン担ぎの”効果”は、「これがあるから大丈夫だ」と信じることそのものが、前向きなモチベーション=良いプラシーボ効果(プラセボ効果 / 偽薬効果)を生む点にあるともいえるのではないでしょうか。
 

「信じること」の効果は医学的にも注目されている

治療薬を服用した場合と、有効成分が入っていない偽薬(プラセボ)をそれと分からずに服用した場合とで、人によっては同等の効果が現れるケースがあることが知られています。これを「プラシーボ効果」といい、新薬開発や薬物依存を回避する目的で医療や介護の現場で用いられています。

プラシーボ効果については古くから研究されていて、擬似的に外科手術を行って患部は処置していないにも関わらず、「手術をした」という暗示的効果で症状が改善した事例もあるようです。もともと医療の現場で使われてきた言葉ですが、近年ではビジネスシーンでも心理的な現象を指して用いられるようになりました。

実は「ポジティブな思い込みをプラスの成果につなげる」この手法は、さまざまな形で私たちの生活習慣の中に取り入れられてきました。子どものころに「イタイのイタイの飛んでけ」と言われて痛みがなくなったような気がしたのも、前段で取り上げた「気持ちの切り替え」効果も、一部にはこうしたプラシーボ効果が少なからず見られる場合もあります。
 

「心を整えること」の効果ーマインドフルネスとの関係も

何かを「信じること」、自分なりの【拠りどころ】を複数持っておくことは、忙しさや精神的な負担が急速に増えたと感じる現代社会において、揺らぎがちなメンタルを整える上でとても大切な支えとなります。

メンタルを健康な状態に保つためには「心と身体のバランスを整える」ことが必要です。
 

近年ビジネスシーンでも効果が注目されている「マインドフルネス」は、「今、この瞬間に意識を向ける」ことでストレスの軽減やリラックスなどの効果を期待するセルフケア手法の一つです。不安や雑念を取り払い、本来の力を発揮しやすくなる・集中力や洞察力が高まる・自己効力感や自信が生まれるといった副次的な効果につなげます。

「自らの心の状態と向き合う」「心を整える時間を持つ」のは座禅や写経も同様で、初詣や墓参りなどで手を合わせて祈る・願う行為もまた似たような要素が含まれます。こうした風習・文化を通じて、私たちは意図せずに「セルフケア」を行っていたとも考えられます。
 
だからこそ、世代を超えて今に受け継がれているのかもしれません。
 

 


当記事では、日本の風習・文化とメンタルヘルスの関係について探ってみました。

人は誰でも困難な状況に直面すると、焦りや不安から考え方が凝り固まってしまったり、冷静な判断が難しくなったりしてしまうものです。

この機会に、メンタルを整えて心身の健康を保つ”ご利益”を得るために、節目節目の行事への向き合い方を見直し、神社やお墓参りで手を合わせる時間を大切にしてみるのも良いかもしれません。
 

 

〔参考文献・関連リンク〕

初出:2022年01月08日 / 編集:2024年01月04日

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