【ストレスチェック分析レポート2018】
卸売業・小売業
企業におけるストレスチェック制度の導入は、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐこと(一次予防)を目的としています。
2017年に当社が実施したアンケート調査「ストレスチェック制度の実態調査を実施」によれば、「飲食業、小売業などの店舗」におけるストレスチェックの実施率は25.0%、従業員の受検率は12.5%という結果が出ています。
卸売業・小売業の事業場は、ストレスチェックが努力義務となる「常時使用する労働者が50人未満」の場合が多く、ストレスチェックの実施を含む職場のメンタルヘルス対策が十分に行われていないことが推測されます。
当社は、「AltPaperストレスチェックサービス」をご契約いただいたお客様に個人情報を除いた集計データをご提供いただき、業種別・職種別・男女別に高ストレス者の割合・総合健康リスクを算出しました。
今回はその中から、「卸売業,小売業」従事者のストレス度合い・ストレス要因をご紹介します。
卸売業・小売業のストレスに関する調査結果
~卸売業・小売業の男性従業員は、健康総合リスクが全国平均を上回り、製造業に次いで高ストレス者の割合も高い~
卸売業・小売業の高ストレス者の割合・総合健康リスクを算出しました。
男性については、高ストレス者の割合が17%以上と製造業に次いで2番目に高く、総合健康リスクも110(全国平均より10%以上リスクが高い)を上回っています。また、女性については、総合健康リスクは全国平均を下回っているものの、高ストレス者の割合は10%を超えています。
卸売業・小売業は、事業場の従業員数が50人未満(ストレスチェックの実施は「努力義務」)であるケースが多いと思われます。しかし、今回の調査結果からも見て取れるように、高ストレス者の割合が比較的高い業種であり、ストレスチェックの実施と共にメンタルヘルスに対する事業者側の意識を高める必要があると思われます。
1.調査方法
男性と女性のデータを分けて、各尺度の平均値・高ストレス者(※[1])の割合・総合健康リスク(※[2])を算出しました。その後、業種別・職種別の平均値を算出しました。
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※[1] 本分析における「高ストレス者」は、厚生労働省(2015)が公表したマニュアルに基づいており、以下①および②に該当する者を指します。①および②に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とします。
①「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
②「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」および「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※[2] 本分析における「健康リスク」は、基準値として設定された全国平均100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の2つをさらに男女別に分けたもので構成され、この2つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
◆仕事のストレス判定図
①量-コントロール判定図:仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
②職場の支援判定図:上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
2. 調査結果
1)職種別/高ストレス者の割合・総合健康リスク
本分析では、回答時に部署欄に記入された職種を「日本標準職種分類」の大分類(一部中分類)に変換し、それぞれの業種をさらに職種別に細分化して比較しました。
男女別・職種別に見ると、女性の生産工程従事者を除く全ての職種で、高ストレス者の割合は全国平均の10%を超えています。特に女性の管理的職業従事者と男性の営業職業従事者については、高ストレス者の割合が20%以上であることに加えて、総合健康リスクも120以上(全国平均より20%以上リスクが高い)であり、その他の職種と比較しても圧倒的に高い数値が出ています。
さらに、上述した女性の管理的職業従事者と男性の営業職業従事者以外についても見ていきます。
女性の生産工程従事者については、高ストレス者の割合は7.5%程度と低い数値が出ているものの、総合健康リスクは全国平均100を上回っています。また、男性の専門的・技術的職業従事者、事務従事者、生産工程従事者については、高ストレス者の割合・総合健康リスク共に全国平均を上回る高めの数値が出ています。
(2)男女別/ストレスチェック尺度別比較
「卸売業・小売業」従事者において高ストレスおよび高い健康リスクを引き起こす生活上・仕事上のストレス要因としては、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
職業性ストレス簡易調査票における各尺度の平均値が全国データからどれほど乖離しているかを計るために、全国平均値を0とし、1から-1の間に全国データの7割が入るように、正規化数値[3]を算出しました。
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※[3] { (各尺度の値) – (全国平均) }/(全国データの標準偏差)×100を正規化数値と仮定しています。
高ストレスおよび高い健康リスクを引き起こす仕事上・生活上のストレス要因について、ストレスチェックの尺度別に見ていくと、男性についてはほぼ全ての尺度で全国平均を下回る数値が出ています。そのため、男性全体の高ストレス者の割合が17%を超える高い数値になったのではないかと考えられます。
次に、総合健康リスクの判定に使われる4つの尺度(グラフ赤枠)に着目すると、「心理的な仕事の負担(量)」「同僚からの支援度」の数値が男女共に全国平均を下回っており、ストレス要因となりやすいことがわかります。また、「仕事の裁量度」「上司からの支援度」については、男性の数値は全国平均並みなのに対し、女性の数値は全国平均を上回っています。これにより、男性の総合健康リスクは全国平均を上回り、女性の総合健康リスクは全国平均を下回るといった乖離が生じたのだと思われます。
4つの尺度以外では、男女共に「自覚的な身体的負担度」(グラフ黄枠)の数値の低さが目立っており、大きなストレス要因となっているのではないかと考えられます。 一方、「職場環境によるストレス」「自覚的な仕事の適性度」「働きがい」の数値については、男女共に全国平均を上回っています。
(3)職種別/ストレスチェック尺度別の比較
さらに、ストレスチェックの各尺度について、職種別に平均値を算出しました。
総合健康リスクが100を超えた職種について、男女別に見ていきます。
まず、男性については、営業職業従事者の「心理的な仕事の負担(量)」「仕事の裁量度」「上司からの支援度」の数値は、全国平均並びにその他の職種の数値を下回っています。
そして、営業職業従事者に次いで総合健康リスクが高かった専門的・技術的職業従事者および生産工程従事者については、「心理的な仕事の負担(量)」「上司からの支援度」の数値は全国平均を上回る一方で、「同僚からの支援度」の数値は全国平均並びにその他の職種の数値を下回っています。また、「仕事の裁量度」については両者に違いが生じており、専門的・技術的職業従事者の数値は全国平均並みであるのに対し、生産工程従事者の数値は全国平均を下回っています。
次に、女性の管理的職業従事者については、「心理的な仕事の負担(量)」「上司からの支援度」「同僚からの支援度」について、その他の職種を大きく下回る数値が出ています。特に「心理的な仕事の負担(量)」「同僚からの支援度」については、全国平均も大きく下回っています。4つの尺度以外では、男女共に「自覚的な身体的負担度」の数値に職種間でのばらつきが見られます。男女共に、全国平均並びにその他の職種を大きく下回る数値が出ていたのは、販売従事者、生産工程従事者です。一方、管理的職業従事者の数値は全国平均並みとなっています。
しかし、管理的職業従事者を女性に絞って見ると、「心理的な仕事の負担(質)」「職場の対人関係上のストレス」の数値の低さが目立ちます。また、[心身のストレス反応]に含まれる「疲労感」「不安感」の数値は、全国平均並びにその他の職種の数値を大きく下回っており、これらも女性の管理的職業従事者の高ストレス者の割合が20%を超えた要因であると思われます。
★ポイント★
卸売業・小売業に従事する人は、身体的な負担が大きなストレス要因となっているケースが多いようです。
本分析では、「卸売業,小売業は、比較的ストレスがかかりやすい業種である」という結果が出ており、従業員が良好なメンタルヘルス状態を維持するためにも職場で管理・対策を実施することが必要だと思われます。
卸売業・小売業関連の企業では、まずストレスチェックの実施から始めて、積極的にメンタルヘルス対策に取り組んでいきましょう。
〔 参考文献・関連リンク 〕
- 厚生労働省:事業場におけるメンタルヘルス対策を促進させるリスクアセスメント手法の研究 平成25-27年度総合研究報告書(2016年)
- 厚生労働省:平成27年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況(2015年)
初出:2018年05月16日 / 編集:2018年10月23日 |