従業員10人以上の「義務」・50人未満の「努力義務」:労働法令で定められた企業の「義務」と「報告」タイトル画像

中小企業必須!10人以上の従業員がいる時の「義務」&50人未満の時の「努力義務」

従業員の数が10人ともなると、上司・部下の関係や職場の環境が気になってくる頃ですね。
会社としての「義務」が初めて発生する区切りの人数でもあります。

健康診断もしている、健康保険もきちんと加入している企業であっても、従業員との契約や安全管理についてはまた新たな課題。「今まで大丈夫だったから……」「まだ平気」と思っているうちに、法人企業・団体としての責任と義務は発生します。
 
「しまった!」を防止するためにも、労働法令に定めた法人企業に課せられた義務について、今一度確認してみましょう。
 

従業員が10人以上になる前に…(イメージ画像)

 

従業員10人以上で「義務」になること

<従業員数10人以上で義務になること>
①就業規則の作成
②衛生推進者・安全衛生推進者の専任

 

①就業規則の作成

役員を除いて常時10人以上の従業員が1つの事業所で働いている場合、就業規則を作成して労働基準監督署へ届け出なければなりません。

この時「常時10人以上」の対象となるのは、パート・アルバイトを含むすべての従業員です。曜日や時間によって勤務人数が違う場合でも、10人以上が1つの事業所に籍を置いている場合、就業規則の作成義務があるとみなされます。
就業規則は事業所単位での届け出となります。何か所か離れて作業所があって……という場合は所轄の労働基準監督署に相談してみるといいでしょう。
 

「雇用」の基礎となる【 就業規則必須項目 】を必ず入れよう

就業規則には【必ず書かなければならないこと( 絶対的必要記載事項 )】と【なるべく定めるべきこと( 相対的必要記載事項 )】があります。

絶対的必要記載事項は以下に挙げるような「仕事の仕方」や「契約条件」といった労働の基本的な部分に関する条件です。
【相対的必要記載事項】とは、退職金や安全衛生、研修や労災といった「特殊な条件の時、企業はどうするのか」に関する事項となります。企業の内情や契約によっては作成しない項目もあるでしょう。

どちらであっても労働時間や休憩・休暇、退職する場合などといった重要な部分となるので、今後のことも視野に入れて、しっかりと話し合い決めていくべき事項です。
 

就業規則(イメージ画像)

 

【絶対的必要記載事項】

  1. 始業及び終業の時刻や休憩時間、休日、休暇、交代勤務などに関する事項
  2. 基本給など月度賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締日支払日、昇給に関する事項
  3. 自己都合、解雇、定年等、退職に関する事項

【相対的必要記載事項】

  • 退職金や賞与に関する事項(計算用法や支払時期など)
  • 労働者が負担する食費や作業用品等に関する規定
  • 安全及び衛生に関する取り決め
  • 職業訓練や研修に関する取り決め
  • 災害が起きた際、労災が起こった際などの補償やそれに関わる規定
  • 表彰や制裁の定めをする場合は、その種類及び程度に関する事項
  • その他、就労に関わる全労働者に適用される規定・取り決め
     

採用、勤務中の制服、企業理念といった就労・業務に直接的な関係のないものは 【任意的記載事項】とされます。任意的記載事項は「就業規則」として定めなければならないものには当たりませんので、急いで決めなくても大丈夫です。
 

雇用条件が違うときは、「就業規則を分ける」でOK

一つの職場の中でも、正社員とアルバイト、そのなかでも勤務時間や就労形態が違う人がいることもよくみられます。その場合、一つの就業規則だけでは全従業員には対応しきれないようなことも多いでしょう。相対的必要記載事項に当たる「退職金や賞与」などがよい例です。

雇用条件、契約内容が異なる従業員が一緒に働いている場合、「就業規則を分ける」または、「就業規則の中で適応される場合を書き分ける」という対応が求められます。
もし一つの就業規則のみを提出していた場合、求めがあればアルバイト・正社員の区別なく就業規則の通りの対応をしなければなりません。
 

就業規則を作成したら従業員から意見を聴く必要がある

従業員と打ち合わせ(イメージ画像)

 

就業規則を作成した場合には、「従業員の代表」から意見書をもらうよう義務付けられています。

「従業員の代表」とは、役員や管理職を除いた従業員の中から投票や挙手などで従業員の半数以上の賛同を得た方となります。労働組合があれば、その組合に選出してもらうとスムーズです。その際にも従業員の総意であったと確認が取れるように、決定の経緯や状況を記録しておくことをお勧めします。

この「代表」となった従業員に、作成した就業規則を確認し、内容に関して「就業規則意見書」にまとめて提出するようお願いしましょう。
この時作成された意見書は就業規則に添付して労働基準監督署へ提出しなければなりません。

提出した就業規則は、労働基準監督署で受理の証拠として届出印を頂けます。
複数部提出し、届出印を押してもらった抄本を証拠として保管しましょう。
 

②衛生推進者(安全衛生推進者)を従業員から一人選任

10人以上の従業員がいる事業所には、「安全衛生推進者」「衛生推進者のどちらかを選任しなければなりません。
安全衛生推進者」「衛生推進者のどちらを選任するかは、業種によって定められています。

<業種別:安全衛生推進者および衛生推進者>

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、
製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、
熱供給業、水道業、通信業、
家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、
燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、
自動車整備業、機械修理業
安全衛生推進者
上記以外の事業場 衛生推進者

 

衛生推進者、または安全衛生推進者を従業員から選任(イメージ画像)

 

衛生推進者(安全衛生推進者)は従業員の中で業務を担当するため必要な能力を有すると認められる者 を選出し、任命を行います。
業務を担当するため必要な能力として、以下の規定が設けられています。
・大学又は高等専門学校を卒業した者
・その後1年以上安全衛生の実務(衛生推進者にあっては衛生の実務)に
 従事した経験を有する者

上記を満たさない従業員でも、「安全衛生推進者養成講習」「衛生推進者養成講習」を修了すれば衛生推進者(安全衛生推進者)の業務を行うことができるようになります。

衛生推進者(安全衛生推進者)は就業規則と同様に、選任しなければならなくなった日より14日以内に労働基準監督署に選任の報告をしなければなりません。
また、誰が選任されたのか事業所内にその氏名を掲示するなど「いつでも、誰でも見られるような方法で」従業員に周知するまでが義務となります。
 

税務署とも話し合う時期、特例を受けている企業は要相談

注意したいのが、「税務処理・保険の見直し」です。
納期の特例を受けていたり、けんぽなどの健康組合に所属している企業は10人以上となったことで区分から外れたり、より適した保険が存在していることもあります。

今までの処理や納税状況・社保健保について見直し、
特に税務処理については10名以上となると、源泉所得税・住民税に関して企業の方から特例の取りやめを申告しなければなりません。

処理忘れ、意図的に申告をしないなどの対応不備は追加徴収や何らかのペナルティが課せられる可能性もありますので、労働基準監督署の報告とともに一度所轄の税務署へ足を向けてみてはいかがでしょうか。
 

従業員50人未満の場合の「努力義務」

努力義務(イメージ画像)

 

現在は義務ではありませんが、50人未満の場合でも実施が望ましいとされる「努力義務」は、以下になります。
 

<従業員数50人未満は努力義務とされていること>
・ストレスチェックの実施
・医師等による健康管理
  など

 
努力義務とされているこれらの対応は、やっていなかった場合でも罰則やペナルティはありません。けれど、これからの事業の発展や人材の確保を考えた際、また従業員とのトラブルが発生した時、「企業側の対策・対応がきちんと行われていたことの証明」として取り扱われます。
50人以上になった時は義務となるものもありますので、実施の手順に慣れるためにも人数が少ないうちから実施を検討してみるのもおすすめです。
 

ストレスチェックの実施

従業員50人未満の会社では、ストレスチェック制度は当分の間、努力義務とされていますが、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するために、できるだけ実施することが望ましいとされています。

努力義務でのストレスチェックでは、50人以上の事業場と違い、産業医との面談や労働監督署への報告義務もありません。しかし、ストレスチェックを実施し、その結果を集団分析を活用して職場の課題や現状を探ることにより、職場環境改善を効果的に進めることができます。ぜひストレスチェックを実施し、働きやすい職場づくりに活用してみてはいかがでしょうか。
 

※今後は「50人未満の小規模事業場」もストレスチェック義務化の方向へ:
厚生労働省 労働基準局を介して2024年3月29日~10月10日にかけて行われた有識者による「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」において 中間とりまとめ案 として、従業員数が「50人未満の小規模事業場」に対してもストレスチェック実施を義務化する方針が決議されました。
現在、2025年の通常国会で労働安全衛生法改正案の提出を目指すことなどが報道を通じて明らかになっています。

 

医師等による健康管理等

医師等による健康管理(イメージ画像)

 

産業医の選任は義務ではありませんが、医師等による健康管理等については努力義務とされています。
従業員50人以上の事業場では産業医との契約が義務となりますが、10人未満のうちに従業員の健康管理を考えるなら「産業保健スタッフ」の導入も視野に入れてはいかがでしょうか。

保健師や看護師、精神保健福祉士といった産業保健スタッフは、それぞれ分野はあれど「心・体のスペシャリスト」です。従業員の健康のみならず、企業の悩みの種である職場の安全衛生や環境改善についても相談ができますよ。
 

 


従業員が10人以上になった場合の義務と、50人未満での努力義務についてまとめてみました。

総務・人事労務ご担当者の皆さまにとっては、従業員が増えて企業体らしさも増し、 保険や労働時間の管理・それぞれの勤務状態など、事業拡大に向けた足場をさらに固めていくことと思います。

頼りになる仲間とともにさらなる発展を目指すためにも、できることから一つひとつ、きちんと対応していきましょう。
 

 

 

〔参考文献・関連リンク〕

初出:2019年09月19日/編集:2024年10月23日

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