従業員が10人ほどになると、勤務時間や休暇、賃金などのルールを、これまで以上に明確にする必要が出てきます。法令上も、常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則の作成・届出などが義務付けられています。
ただし、「10人になるまでは会社の義務がない」というわけではありません。また、就業規則、税金の納期の特例、社会保険では、人数の数え方や判断する単位も異なります。2028年4月1日からは、これまで努力義務だった50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務付けられます。
「今まで大丈夫だったから」と対応を後回しにしないために、従業員が増えた際に確認したい義務と、小規模な事業場でも取り組むべき健康管理について整理しましょう。
※一般的な民間事業場に関する主要な労務・安全衛生上の義務の紹介にとどめています。
業種・業務によって必要になる手続きをすべてを網羅していない点、ご留意ください。

従業員10人以上で「義務」になること
<従業員数10人以上で義務になること>
①就業規則の作成
②衛生推進者・安全衛生推進者の専任
①就業規則の作成
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。作成後に内容を変更した場合も、届出が必要です。
人数には、正社員だけでなく、パート・アルバイトなども含まれます。「同じ時間に10人が出勤しているか」ではなく、その事業場で常態として何人の労働者を使用しているかで判断します。また、役員でも従業員としての立場を兼ねるなど、労働者に該当する場合は、肩書だけで対象外にしないよう注意が必要です。
判断は原則として会社全体ではなく、支店・店舗・工場などの事業場単位です。離れた作業所がある場合や、独立性の乏しい小規模拠点がある場合など、区分が不明確なときは所轄の労働基準監督署に確認しましょう。
「雇用」の基礎となる就業規則の必須項目を確認しよう
就業規則の記載事項には、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」があります。
絶対的必要記載事項は、必ず記載しなければならない事項です。一方、相対的必要記載事項は「なるべく定める事項」ではなく、定めを設ける場合には記載しなければならない事項を意味します。
【絶対的必要記載事項】
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交代勤務の場合の就業時転換に関する事項
- 賃金の決定・計算・支払方法、締切日・支払日、昇給に関する事項
- 退職に関する事項。解雇の事由も含みます。
【相対的必要記載事項】
- 退職手当の対象者、計算・支払方法、支払時期
- 賞与などの臨時の賃金、最低賃金額
- 食費・作業用品など、労働者に負担させる費用
- 安全衛生、職業訓練
- 災害補償、業務外の傷病扶助
- 表彰・制裁の種類と程度
- その他、その事業場の全労働者に適用される事項
このほか、企業理念などを任意に記載することもできます。ただし、勤務時の服装や服務規律などは、単なる理念とは異なり、従業員の義務や懲戒に関わる場合があります。何を守ってもらうのか、どのような場合に制裁の対象になるのかを曖昧にしないことが大切です。

雇用条件が違うときは、就業規則の適用範囲を明確に
正社員とパート・アルバイトなどで勤務時間や賃金制度が異なる場合は、雇用区分別に就業規則を作成する方法と、共通の就業規則の中で適用する条項を書き分ける方法があります。
大切なのは、誰にどの規定が適用されるかを明確にすることです。「正社員向けに作ったつもり」でも、その旨が明確でなければ、他の従業員への適用をめぐってトラブルになる可能性があります。
また、雇用区分ごとに規則を分けても、それだけで待遇差が適法になるわけではありません。パート・有期雇用労働者の待遇については、不合理な待遇差の禁止などのルールも踏まえて確認しましょう。
就業規則を作成したら、従業員側の意見を聴く

就業規則を作成・変更するときは、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴きます。
過半数代表者は、「就業規則について意見を述べる代表者を選ぶ」という目的を明らかにしたうえで、投票・挙手などの民主的な手続きで選出します。正社員だけでなく、パート・アルバイトも選出手続きに参加できるようにする必要があります。会社が一方的に指名することはできません。
代表者には、労働基準法上の管理監督者を選ぶことはできません。ただし、「管理職」という肩書がある人すべてが、この管理監督者に該当するとは限りません。
意見を聴くことは、必ず同意を得ることとは異なります。しかし、反対意見があっても自由に労働条件を不利益に変更できる、という意味ではありません。内容の適法性や変更の合理性は、別途確認が必要です。
届出だけでなく、従業員への周知まで行う
就業規則は、意見書を添えて所轄の労働基準監督署へ届け出ます。届出には電子申請も利用できます。紙で提出する場合の受付控えや、電子申請の受付記録などは、届出内容とともに保管しましょう。
ただし、受理されたことは、記載内容のすべてが適法と認められたことを意味しません。法令に反する規定を置くことはできません。
さらに、作業場への掲示・備付け、書面交付、従業員がいつでも確認できる電子データの提供などによって、就業規則を周知する必要があります。
②衛生推進者または安全衛生推進者を選任
常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、業種に応じて「安全衛生推進者」または「衛生推進者」を選任しなければなりません。50人以上になった場合は、衛生管理者など、別の管理体制の確認が必要になります。
選任する区分は、次のとおりです。
| 事業場の業種 | 選任する者 |
| 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、 製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、 熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、 家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、 家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、 旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業 | 安全衛生推進者 |
| 上記以外の事業場 | 衛生推進者 |

原則として、その事業場に専属の者から、必要な能力を備えた人を選任します。主な資格要件は、次のいずれかです。
- 大学・高等専門学校卒業後、1年以上の安全衛生実務経験
- 高等学校・中等教育学校卒業後、3年以上の安全衛生実務経験
- 5年以上の安全衛生実務経験
- 登録された講習実施機関による安全衛生推進者養成講習・衛生推進者養成講習の修了
- 上記を満たさない従業員でも、「安全衛生推進者養成講習」「衛生推進者養成講習」を修了すれば衛生推進者(安全衛生推進者)の業務を行うことができるようになります。
- その他、法令上同等以上の能力があると認められること
衛生推進者については、衛生に関する実務経験で判断します。なお、労働安全・労働衛生コンサルタント等、一定の者を選任する場合には、専属要件の例外があります。
選任期限は、選任すべき事由が発生した日から14日以内です。労働基準監督署への選任報告は不要ですが、氏名を作業場の見やすい場所に掲示するなどして、関係する労働者に周知しなければなりません。
選任後は、健康診断や安全衛生教育、職場の点検、労働災害の再発防止などを担当します。名前だけの選任にせず、業務を行う時間や社内の協力体制も確保しましょう。
税務の「納期の特例」は、10人以上になったら確認を
従業員が増えた際は、労務管理と併せて、給与に関する税務処理も確認する必要があります。
源泉所得税の「納期の特例」は、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者が、承認を受けて利用できる制度です。常時10人以上となって要件を満たさなくなった場合は、所轄税務署に「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を遅滞なく提出します。
届出後は納期限の取扱いも変わるため、通常の毎月納付への切替えと、未納付分の納期限を確認しましょう。
個人住民税の特別徴収にも、給与の支払を受ける人が常時10人未満の場合に利用できる納期の特例があります。こちらの手続き先は税務署ではなく、特例の承認を受けた各市区町村です。要件を満たさなくなった場合は、自治体所定の届出が必要です。
なお、これらは就業規則と同じ「事業場の労働者数」で一律に判断するものではありません。それぞれの制度の支給人員・給与受給者数の基準で確認してください。
社会保険は「10人」が一律の境目ではない。2027年の適用拡大にも注意
健康保険・厚生年金保険については、従業員が10人になっただけで、加入先の健康保険組合を変更しなければならなくなるわけではありません。従業員数の増加を機に確認したいのは、加入対象者に漏れがないかという点です。
特に、短時間労働者への社会保険の適用拡大に注意が必要です。2027年10月からは、企業規模要件が「厚生年金保険の被保険者数51人以上」から「36人以上」に引き下げられます。
法人では、原則として同一法人のすべての適用事業所を合算して判定します。人数には短時間労働者を含めないなどの算定ルールがあり、パート・アルバイトを含む単純な在籍者総数とは異なります。
新たに対象となる企業では、週の所定労働時間が20時間以上、学生ではないことなどの要件を満たす短時間労働者について、加入手続きが必要になります。2026年10月には賃金要件も見直されていますので、従来の「月額8.8万円」という理解だけで対象外と判断しないようにしましょう。
従業員50人未満の場合の「努力義務」

50人未満の事業場には、医師等による健康管理など、努力義務とされる事項があります。一方、ストレスチェックは、2028年4月1日から実施義務に変わります。
また、「産業医の選任義務がない」「努力義務の事項がある」ことと、従業員の健康管理全般が任意であることは別です。健康診断や長時間労働者への面接指導など、すでに小規模事業場にも課されている義務を区別して確認しましょう。
ストレスチェックの実施―2028年4月1日から全事業場で義務化
2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法により、これまで努力義務だった50人未満の事業場にも、2028年4月1日からストレスチェックの実施が義務付けられます。「改正案が検討されている」段階ではなく、施行日まで決定しています。
ここでいう50人は、原則として会社全体ではなく、事業場ごとの人数です。企業全体では50人以上いても、各店舗・支店が50人未満のため従来は実施していなかった場合、その拠点も義務化に向けた準備が必要です。
ストレスチェックは、労働者が自分のストレス状態に気づき、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ「一次予防」を目的とする制度です。年1回、定期的に実施する仕組みを整え、必要な場合に医師の面接指導につなげます。
ただし、事業者の実施義務は、労働者への受検強制を意味しません。また、事業場の人数を判断する際の「常時使用する労働者」と、法定のストレスチェック実施対象者の範囲は必ずしも一致しないため、対象者の確認も必要です。
実施義務、産業医の選任、結果報告は別のルール
今回の義務拡大によって、50人未満の事業場にも一律に産業医の選任が義務付けられるわけではありません。また、50人未満の事業場は、ストレスチェックの実施結果を労働基準監督署へ報告する必要はありません。
一方、「50人未満なら医師の面接指導も免除」という理解は不正確です。制度上の要件に該当する高ストレス者から申出があった場合は、医師による面接指導と、その後の医師の意見聴取・必要な就業上の措置につなげる体制が求められます。
実施者や委託先の選定だけでなく、個人結果の管理、本人への結果通知、面接指導の依頼先まで、あらかじめ整理しておきましょう。個人結果は、原則として本人の同意なく事業者に提供できません。
集団分析を職場環境の改善に活用する際も、少人数の集団では個人が推測されやすいことに注意が必要です。厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルを参照し、安心して受検できる制度を整えることが大切です。
医師等による健康管理等

常時50人未満の事業場では、産業医の選任は原則として義務ではありません。ただし、労働安全衛生法第13条の2により、必要な知識を有する医師・保健師等に、労働者の健康管理等を行わせるよう努めることが求められています
外部の医師や保健師などを活用すれば、健康相談、健診後の対応、メンタルヘルス対策などについて助言を得ることができます。それぞれの資格・専門性に応じて役割を分担し、医師にしか行えない面接指導や医学的判断まで他の職種に任せないようにしましょう。
健康診断や長時間労働者への面接指導は、50人未満でも義務
法定の対象者に対する雇入れ時・定期の健康診断は、事業場の規模にかかわらず実施が必要です。結果の本人通知、記録の保存、異常所見がある人についての医師等の意見聴取や必要な事後措置も忘れてはいけません。
また、一定の要件に該当する長時間労働者への医師による面接指導も、50人未満という理由では免除されません。産業医がいない場合も、必要なときに医師へ依頼できる体制を確保しておきましょう。
規模にかかわらず確認したい、最近の法改正
従業員数に限らず、全事業主を対象とする法改正にも注意が必要です。
それぞれ詳細は別記事にまとめますが、2026年4月には治療と就業の両立支援が事業主の「努力義務」になっています。治療を続ける従業員が相談しやすい体制づくりや、勤務上の配慮を検討する手順も整えておくことが望まれます。
また、2026年10月1日からカスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が、すべての事業主に義務付けとなりました。従来の職場内のハラスメント対策に加え、顧客対応や採用活動を含めて、方針の周知、相談窓口、発生時の対応手順を確認しましょう。
従業員の増加を、社内制度を点検する機会に
従業員が増えたときは、就業規則の作成・届出、安全衛生推進者等の選任、税金の納期の特例、社会保険の加入対象者を、それぞれの基準で確認することが大切です。
50人未満の事業場でも、健康診断や一定の面接指導など、すでに対応が必要な義務があります。さらに、2027年10月には短時間労働者の社会保険の適用拡大、2028年4月にはストレスチェックの義務拡大が控えています。
一度にすべてを進めるのが難しい場合も、まずは「現在対応が必要な事項」と「施行までに準備する事項」を分けて整理しましょう。頼りになる仲間とともに事業を発展させるためにも、人数の増加を社内制度の点検と改善につなげていきましょう。
〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:
モデル就業規則について
職場の安全を応援する情報発信サイト「職場のあんぜんサイト」 安全衛生推進者
ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 第7回資料
ストレスチェックに関する法令
心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
| 初出:2019年09月19日/編集:2026年10月27日 |



















