ストレスチェック制度の目的は、従業員のメンタルヘルス不調の一次予防にあります。
ストレスチェック結果を本人に通知して、自らのストレス状況について気付きを促し、必要に応じてセルフケアや通院といった対応をしてもらう。
結果に対応してはじめて、ストレスチェックの目的が果たされたことになります。
ストレスチェックの結果によって「高ストレス者」と判定され、本人から申出があれば医師による面接指導が行われます。 けれど、実際には面接指導を希望しない人の方が大半でしょう。
また、中にはストレスの自覚はあるけど「高ストレス者」の判定には当てはまらなかった人もいるのではないでしょうか。
医師との面接は「専門的なケアの入り口」、特に高ストレス者と判定された方達はそのまま放置しておくとメンタルヘルス不調になってしまうリスクが高いと思われます。
このような人達に対しては、社外に相談窓口を設置して対応することが、メンタルヘルス不調を防止するのに役立つかもしれません。
面接に行かない高ストレス者、理由は?
ストレスチェック制度では、実施者により高ストレス者(医師による面接指導が必要な人)が選出されます。
ですが、制度上で「この数値から上なら高ストレス者」というような規定は設けられていません。 産業医などの資格ある実施者が職場の状態や結果、その他の情報を鑑みて「高ストレス者」または「医師面接の必要がある」として指定する……というのがマニュアルに記載のある“判定方法”です。
そのため高ストレス者の中には、自分がそんなに高ストレスであるとは思えないという“無自覚な高ストレス者”がいるでしょう。そのような方に「面接指導を!」と訴えかけても反応は鈍く、日常業務を優先されてしまうことは考えられます。
また面談や申し出の手続きは主に業務時間内に設けるようマニュアルで指針が示されています。他の人に知られたくない、業務が非常に忙しいなど面接指導に消極的になる従業員は多いでしょう。
実際、高ストレス者であってもほとんどの人達が自主的に行動を起こすことはないというアンケート結果もあります。
高ストレス者が面接指導を申し出た場合、医師によって専門的見地から意見・指導をもらえるとともに、企業にもその方の結果や医師から見た就業上の配慮など改善点や意見書が通知されます。
しかし、面接指導を申し出ない・本人の同意がなければそのような情報が企業側にわたることはありません。 社員の健康を守るために、なるべく産業医との面談はしてほしい、けれど本人が希望しなければ誰がそうなのか、改善点があるのかもわからない…… そんな悩みを抱えた企業が昨今増えています。
医師面接を希望しないけれど高ストレス者である、このような人達にはどのように対応したらよいのでしょうか?
面接にいたる「ハードルを下げる」ことから
ストレスチェック制度の目的はメンタルヘルス不調の一次予防。
本格的な不調に陥る可能性があるならその前になんとか医療につなげたいですよね。特にストレスチェックで高ストレス者と判定された方は、ストレスの負荷がとても強い環境にあるためメンタルヘルス不調に陥る可能性が高いです。
面接指導の申し出が少ない、今年はなかった!なんていう場合は、企業としては以下のような対応を検討しましょう。
まずは産業医と相談を。面接方法を変えるのも一手
医師による面接指導が必要であると判定されても、ストレスチェック制度の枠内で面接指導を希望すると自分が高ストレス者であることが周囲に わかってしまうのではないかと心配してためらう従業員もいるかもしれません。
このような場合は産業医に協力してもらうことを考えては いかがでしょうか。
50人規模以上の事業所は産業医を選任しなければならないので、ストレスチェックを行う多くの事業場では毎月決まった曜日・時間に産業医に来て もらっているはず。
従業員から直接産業医に連絡を取り、会社に通知することなく面談を受けることのできる仕組みを整えることを考えてみてはいかがでしょうか。
制度だからと特別に枠を用意して産業医に相談する場合に比べ、ストレスに関する相談内容が事業者に通知されるのではないかという不安が軽減され、安心して 相談をすることができるでしょう。
社外の相談窓口なら本人の「不安」に効果あり
社内の産業医に相談する場合においても、業務時間内に面談をすると産業医に相談したこと自体が同僚や上司に知られてしまうのではないかと心配する 従業員もいるでしょう。
このような場合を想定するなら、社外に相談窓口を設置するのが有効です。
社外相談窓口の魅力は、なんといっても「プライバシーの保護」にあります。
会社の内情や本人の背景を知らないスタッフならば、気兼ねなく申請しストレスの本当の原因や不満を話すこともできるでしょう。また、電話やメールなどを活用したシステムであれば、職場に知られることもなく都合のいい時間に相談ができます。
窓口を社外に設定するのはまた、「社内スタッフの疲弊を防ぐ」意味合いもあります。
産業医に面談を依頼すると、社内受付を担当する実施事務従事者や顔を合わせる産業医が「社内の実情を知ってしまう」ことに対してストレスを感じてしまったといった声が上がっています。日常業務に加えて心理的につらい面接業務をこなすとなると、かなり担当者にかかる負担が大きくなってしまいます。
コスト的にも産業医に契約外の面接対応をお願いすると想定以上にコストがかかってしまうことも。精神的な問題を取り扱う経験が少ないなど、産業医によっては「面接対応はしない」という希望を聞くこともあります。
ストレスチェック制度が導入され、このような従業員支援(EAP)サービスと呼ばれる業務を行う業者が多くなってきましたが、サービスの質は様々なので、優良な業者を選ぶ必要があります。
複数のサービスを参考にして、自分の企業に合ったサービスを提供してくれる業者を選ぶようにしましょう。
ストレスチェック制度を効果的なものにするためには高ストレス者への対応が重要です。医師による面接指導が行われれば、必要に応じて就業上の措置をとることができます。
しかし「安全配慮義務」では、面談の申出をしなかった高ストレス者のメンタルヘルス不調にも企業はきちんと対応する必要があります。
企業の産業医に通常の相談業務の一環として対応してもらったり、社外に相談窓口を設置する等、従業員が相談しやすい体制づくりをしましょう。
初出: 2017年10月31日 / 編集: 2019年10月23日 |