長引く新型コロナ禍の影響もあって、医療・介護の業界に携わる方々の多くは日々の業務に加え、問い合わせ応対や衛生面の配慮等から様々な対応に追われたこの1~2年だったのではと想像いたします。
採用や新人教育を担当される人事・労務担当者の方々にとっては、これまでの経験だけでは測り知れないご苦労もあったことと思われ、例年とは異なる離職防止対策に追われたという話も耳にしています。
“ニューノーマル”といわれる現況の中で、医療・介護職に携わる従業員に今後どのような教育やアドバイスを行っていくべきなのでしょうか?
医療の現場はとかく「プレッシャー」が多い!
そもそも医療・介護業界の離職率は平均して高く、飲食・サービスに続いて4割近くに上ります。
新卒雇用者の離職率の平均が32%であることも含めると、10人採用しても5年後も同じ職場で働いているのは3~2人いればよい方……ということになります。
また、この4割という数字は新卒以外の転職・退職者も含まれています。せっかく何年も教育したスタッフが離れてしまう……ノウハウを持った従業員がいなくなってしまう……というのは経営的にも大きな損失です。
離職対策の第一歩は「現場」から、医療・介護の現場に共通する特性を再確認しましょう。
忙しさ・危険性・スキルの個人化……現場にかかるプレッシャーが大きい!
医療・介護の現場では日々、「人の生命」に関わる判断が行われています。そのためすべての医療行為には治療とリスク両方の側面があるし、患者の状態・ケースの状況・担当者の技量といった現場でないとわからないことが山積み!
不規則な勤務形態・不測の呼び出しで疲れた状態でその判断を行わなければならない責任感が常にのしかかっていることはこの業界に特徴的なストレスです。
チームとして活動するにしてもその技術・専門性の違いから一人に負担が偏ってしまうこともしばしばでしょう。 病院という環境上、感染や機器による労災の可能性についても個人の判断・責任を問われる風潮がいまだ強く、社会・先輩や上司の視線・自責の念といった「様々な方向からかかる心理的重圧」 が常に高い業務 にあたります。
長く働いていると「普通」の事ですが、新人看護師や配置移動などで専門性を学びなおさなければならない「セカンド新人」にとって、これらは心身に影響するほどのプレッシャーです。また一つのミスが大きな事故につながりかねない現場では、「新人」の教育自体をリスク・増加業務ととらえるスタッフも少なくありません。
新卒看護師が離職を考える瞬間として、「理想と現実のギャップ」「人間関係構築のむずかしさ」に次いで「医療事故を起こさないかの不安」「インシデント(ヒヤリハット)レポートを書いた」が挙げられています。
早期の離職を防ぐためには、直接的な「新人へのケア」だけでなく「教育担当・環境への働きかけ」「指導計画や方法の明示」といった【間接的な予防策】が有効です。
メンタルの異変に気が付く「かきくけこ」
新しく入ってきた方への指導が何となく伝わってない気がする、ベテランの職員さんが最近疲れていそう……といった一緒に働く方の「なんとなく感じる」サインは見逃せないメンタルヘルスのSOSです。けれど、自分の“なんとなく”感覚をそのまま報告するのは気が引ける……、という方が大勢でしょう。
そのような時は本人の行動や様子に基づいて心配していることを伝え、直接話を聞いてあげることが重要です。
***疲労度を測る「か・き・く・け・こ」***
- 「か」帰りが遅い
- 「き」記録が遅い
- 「く」苦労する
- 「け」健忘・物忘れ
- 「こ」言葉が出ない、
メンタル・身体の疲労度を測る「か・き・く・け・こ」 は上から重要度順に並んでいます。「け」や「こ」の容体があらわれていたら、普段1日1時間で終わるような日常業務が終わらずに苦労している・手間取ってしまう場面がどこかにあるはずです。
上記のような様子が業務中に見られたら、一言「眠れていますか?」「休めていますか?」と声をかけ、今何がつらいのか・難しいと感じているのかヒアリングを行いましょう。
離職を防ぐマネジメントは「指示環境」と「ほめ方」にあり
人間という生き物を取り扱う以上、個人の手技・スキル・経験が最終的な結果に直結する側面もあります。現場のカンやコツ、技術は体系的に学ぶことが難しいもの、新人が成長する時間も他業種より必要ですし、ベテランでも配置転換など環境が変わると専門知識を学び直さなければならない「セカンド新人」状態にいつなるやもわかりません。
新人の採用を行った際には、教育計画などの策定とともに指導方法や対応についてちょっとしたポイントを添えて「指導側へのメンタルサポート」を行いましょう。
★指導サポートのコツ① 学ぶ優先順位を決める
初めてその部に入る人の目には、学ばなければならない事が何でもかんでも見えてしまっている状態です。 業務開始前のミーティング時に、現場の特徴・本人の習熟度別の「学ぶべきポイント、優先順位」を事前に示しておくことであれもこれもしなきゃ!と混乱することを防げます。
最低限知っておかねばならないこと・指示系統(誰にどう尋ねるか、報告するか)・確認方法などは、前日など時間を作りあらかじめ伝えておくとスムーズに業務へ取り掛かれますね。特に新卒の方に対しては、復唱確認など練習を行う時間があれば双方安心して教育が進められます。
★指導サポートのコツ② 良い「ほめ方・しかり方」
指導担当になった経験のある方のお悩みとして「しかり方・ほめ方が難しい」というお話をよく伺います。「がんばって!」がプレッシャーとなってしまった……という経験は指導を行ったことのある人のみならず、新人であった皆様なら誰しも経験があるのではないでしょうか。
期待しているんだよ、という気持ちを伝えるためには、【やる前ではなく、やった後 の一言 】が重要です。たとえ結果がそこそこであったとしても、叱らなければならないようなミスがなければ「がんばったね」「よくできた」といったねぎらいの言葉に値します。ほめる行為は一緒に働くチーム・職場の雰囲気を和らげる効果もありますので、できるだけ「みんなの前で・“ ほめる ”ことのみ」をポイントに行ってみてください。
皆様の苦手な「叱る」は、教育されている・見てもらえている実感をもつチャンス。効果的な指導には欠かせません。
・個別に、みんなの前で
・事実確認、今回の行動が引き起こすリスク、解決策を説明する
・「どういう行動をすればいいのか」を実際にロールプレイングしてみる
・過去を引き出さない
以上の4ポイントを守って、「叱られる・怒られる」を「問題点の理解・解決タイミング」にチェンジしましょう!
ステップを示して明確な成長を
技術やノウハウの教育は時間がかかるもの、また「何を、いつまでに、どのレベルまで学べばいいのか」について 教育を受ける側も教育する側も あいまいなままになっていることが多く見受けられます。
対策を考えるためにはまず「目標と期日」が必要です。何をどのレベルまでどの順番で習得するのか、目標となる基準はどこなのか、を計画表として部全体で共有することで指導する側も教育を受ける側も問題点が発見しやすくなります。
また、指導ステップに応じて、それが得意なベテランスタッフは誰かを話し合い、教育担当以外にも相談できる環境を作りましょう。指導担当に報告が集まる体制にしてあれば情報の統一が取れますので、部全体で新人にノウハウを集めることが可能です。
手技や接し方といった 属人化しやすい 技術も得意な人からコツや考え方を教わることによってスキルレベルの均一化を図ることができます。
きちんと教育された人材は、企業にとっては中枢を成す貴重な資源。
教育にかけたコスト・努力が実るように、新人雇用のタイミングは「教育体制」「相談体制」「システム」のいい機会としてとらえましょう。
- 日本看護協会:「スタッフナースの離職を防ぐメンタルヘルスサポート術」(鈴木安名 著 / 日本看護協会出版会 2009年)
- 厚生労働省:ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等
初出:2020年3月11日 |