【目次】
感染症の危険度と企業の基本的な対応は?就業制限の基礎知識
感染症の種類について
感染症予防法に基づく就業制限
労働安全衛生法に基づく就業制限
職場の感染症対策は企業の「安全配慮義務」
手当の支給は?補助はある?対応のラインは「就業規則」で判断
1. 「就業規則」に明示・周知で、休める職場づくりを
職場のインフルエンザ感染防止対策は?
感染症の治癒証明書は必要?
家族がインフルエンザ等に感染した!保護者の「看護休暇」は?
2. ワクチン補助など福利厚生で社内制度の整備も
3. インフルエンザ予防など職場での注意喚起も万全に!
冬から春にかけてはなにかと体調を崩しやすい季節。寒さ・日照時間の少なさ・空気の乾燥などがさまざまな感染症や体調不良の引き金になります。
なかでも、毎年話題になるのがインフルエンザなどの感染症です。
また、それと同時によく聞かれるのが「出社できない期間の勤怠はどうなるのか」という疑問。「欠勤扱い?有休を使わなければいけないの?」など、度々対応に困っている方の話を耳にします。
確かに、以前新型コロナウイルスにより緊急事態宣言が出された時期は、各社で出勤停止に伴い「休業扱い」とすることや「本人の申し出により有給休暇を申請することも可能」など、対応を明確に示していた企業も多いのではないかと思います。
一方で、インフルエンザのようなより身近な感染症は、流行している状況に慣れてしまうとつい対応がなおざりになってしまいがち。
皆さまの会社では、感染症対応について取り決めをしていますか?
従業員が感染症で体調を崩してしまったらどう対応すべきか?予防接種に補助は出るのか?など、企業(事業主)側がとるべき対応を再確認しましょう。
感染症の危険度と企業の基本的な対応は?就業制限の基礎知識
感染症の種類について
感染症は、私たちを取り巻く環境の中にある微生物・ウイルス・寄生虫などが、体内に侵入することで引き起こされる疾患です。種類によっては致死性・拡散性が高く、人命・社会機能を脅かす可能性が高いものもあります。
現在の日本では、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」((以下、「感染症法」) によって、 症状の重さや病原体の感染力などから感染症を危険度別に「一類~五類の5種の感染症」と「新型インフルエンザ等感染症」「指定感染症」「新感染症」に分類しています。
主に冬に流行する季節性インフルエンザは「第五類」に分類されます。新型コロナも2023年5月8日以降は同じ第五類の扱いとなっており、同様の対応が必要です。
またここ最近耳にすることが増えた「新型インフルエンザ」。これは「季節性インフルエンザと抗原性が大きく異なるインフルエンザで、一般に国民が免疫を獲得していないことから、全国的かつ急速なまん延により国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがある」として注意喚起がなされており、別途具体的な対応が定められています。
「指定感染症」は、すでに知られている感染性の疾病(「一類~五類の5種の感染症」「新型インフルエンザ等感染症」を除く)のうち、国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして、1年間の期限付きで政令等で指定されます。新型コロナは2020年1月28日に指定感染症となり、その後も政令改正により延長されるなど、五類感染症へ移行するまで対応が継続されました。
感染症で一番怖いのは、知らないうちに(「症状が現れない間に保菌者」となってしまった方が潜伏期間に)不用意に感染を拡げてしまう可能性があること。
そのため、感染症対策はしばしば「どれほど患者の社会的な活動を制限するか」が焦点になります。
法律による「就業の制限」もその一つです。
感染症予防法に基づく就業制限
(就業制限)
感染症予防法第18条
第十八条 都道府県知事は、一類感染症の患者及び二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の患者又は無症状病原体保有者に係る第十二条第一項の規定による届出を受けた場合において、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該者又はその保護者に対し、当該届出の内容その他の厚生労働省令で定める事項を書面により通知することができる。
2 前項に規定する患者及び無症状病原体保有者は、当該者又はその保護者が同項の規定による通知を受けた場合には、感染症を公衆にまん延させるおそれがある業務として感染症ごとに厚生労働省令で定める業務に、そのおそれがなくなるまでの期間として感染症ごとに厚生労働省令で定める期間従事してはならない。
| 第一類感染症 | エボラ出血熱/クリミア・コンゴ出血熱/痘そう/南米出血熱/ペスト/マールブルグ病/ラッサ熱 |
|---|---|
| 第二類感染症 | 急性灰白髄炎/結核/ジフテリア/重症急性呼吸器症候群/中東呼吸器症候群(MERS)/鳥インフルエンザ(H5N1)(H7N9) |
| 第三類感染症 | コレラ/細菌性赤痢/腸管出血性大腸菌感染症/腸チフス/パラチフス |
| 新型インフルエンザ等感染症 |
感染症予防法上、就業制限の対象となる感染症一覧
一方で、四類・五類の感染症については就業制限の対象とされていません。季節性インフルエンザや五類移行後の新型コロナは、法律的には、就業制限は求められていないことになります。
労働安全衛生法に基づく就業制限
(病者の就業禁止)
労働安全衛生法第68条
第六十八条 事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない
(病者の就業禁止)
第六十八条 事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかつた労働者については、厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない
第三節 病者の就業禁止
労働安全衛生法第61条
第六十一条 事業者は、次の各号のいずれかに該当する者については、その就業を禁止しなければならない。ただし、第一号に掲げる者について伝染予防の措置をした場合は、この限りでない。
一 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかつた者
二 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかつた者
三 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかつた者
とありますが、ここで書かれている「一 病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」については、別途「伝染性の疾病(結核)にかかった者」の就業について禁止する内容※①があるほか、感染症予防法に該当する感染症は、感染症予防法上の定めに委ねられる※②とされています。
このことから、インフルエンザ等の感染症についてはこの条文の適用にはならないということになります。
※①「行政通達(平成12年3月30日基発第207号)第四の一」より
※②昭和24年2月10日付け基発第158号、昭和33年2月13日付け基発第90号で「本条第1号のうち法定伝染病者については伝染病予防法(現行=「感染症の予防及び感染者の患者に対する医療に関する法律」)によって予防の措置がとられるため本号の対象とはならないことと定められている
インフルエンザだけでなく、よくニュースに取り上げられるような風疹・ノロウイルスによる感染性胃腸炎なども同様で、法律上は就業制限の対象にならないため、本人や周囲が無理がないと判断すれば法律上は就労は可能です。ただ、出社をさせて感染症の集団感染を引き起こした場合、施設管理責任や企業の義務だけでなく業務の遂行やサービス供給に支障をきたすことが予想されます。
そこで、法令による就業制限でなくとも、労働者の健康・企業の業務や信用のために必要に応じた感染防止策を講じるよう努める必要があります。
職場の感染症対策は、企業の「安全配慮義務」
一般的に、
「インフルエンザ」は感染のピークが「発症してから5日、解熱してから2日」
とされています。
インフルエンザやコロナウイルスといった感染症は、症状がなくなっても感染力は残っているため、回復後の就業も注意が必要です。職場に一度蔓延してしまえば人から部署へ、会社全体へと大きなダメージにつながる可能性がある感染症。通勤や就業を安全に行うために、企業が従業員へできることはなんでしょうか。
欠勤手当の支給は?補助はある?
対応のラインは「就業規則」で判断
感染症の一番恐れるべき点は「人から人へ、動物から人へ感染し広がっていく力」です。
そのため、学校などの集団で行動することが多い・不特定多数と接する環境については、感染症ごとに法律で外出自粛や出席停止期間などの対応が定められています。
インフルエンザに関する出席停止については、「学校保健安全法」の基準に基づき、以下のように規定されています。
発症した後5日を経過し,かつ,解熱した後2日(幼児にあっては,3日)を経過するまで
学校保健安全法施行規則
この期間の扱いは各学校の判断もありますが、法的な処置で「出席停止」ということで欠席日数にカウントされないこととなっています。
成人にはインフルエンザと診断されてから出勤再開するまでの期間に関して特に定めるような法律はありません。ですが、会社は従業員に対し「安全配慮義務」(労働契約法第5条)を負っています。
これらは就労時の事故だけではなく、社内で感染症拡大を防止することも従業員やその家族の健康を守る環境整備の一端として含まれます。
職場の感染症対策1.
「就業規則」に明示・周知で、休める職場づくりを
まずは基本的に、たとえ症状がなくなっている状態でもウイルスを排出している=他の人にウイルスを感染させてしまう可能性があるため、感染症に罹患したら外出・就労の際は医師や専門家の判断を仰ぐことが必要です。
就業制限が法律で定められている場合は、会社はその休業する期間に対して賃金を支払う義務はなく、また休業手当の対象にもなりません。従業員に対しては、会社が加入している健康保険から「傷病手当金」が支給されることがあります。

職場のインフルエンザ感染防止対策は?
では、インフルエンザのように法令による就業制限の対象ではない場合はどうでしょうか?
① 会社側から従業員の休業を命じた場合:
もし会社が感染予防・防止を目的に従業員に休業を命じた場合は、会社による「休業手当」※の支払いが必要となると考えられています。つまり、会社側から「休んでほしい」と従業員にお願いした場合は、休業手当を支給する対応が求められます。
※「休業手当」:会社の責めに帰すべき事由による休業に対して、義務付けられる手当。平均賃金の60%以上を支払うこととされている。(労働基準法第26条)
② 従業員側から休業の申し出があった場合:
従業員の体調が悪くなった時、無理に出社をせず自主的に休暇を申し出ることが多いかと思います。その場合は、
・特別休暇の取り扱いがあればそれによった対応
または
・申請によって年次有給休暇の使用扱い
とするのが一般的です。
もし本人が年次有給休暇を希望しない場合は、基本的に「欠勤」の取り扱いになるでしょう。
実際に手当の支給が問題となりやすいのは、以下のケースです。
・感染が疑われる状況でも従業員が出社・就業を希望している
・従業員の家族に感染者が出るなど本人以外の環境に感染リスクがある
これらなどのケースについて、「会社が休業を命じる」と判断する基準をあらかじめ就業規則などに明示しておくことで企業側で不意の感染拡大やトラブルを未然に防ぐことができます。
また、ルールとして明示することで労働者側にも心理的な負担なく休んでもらう、欠勤のハードルを下げる効果が期待できます。
インフルエンザに関して、医学的には業務上可能であれば発症した日の翌日から7日まで外出を自粛することが望ましいとされています。慣例的に、明確に基準を定めている学校保健安全法に準じて「発熱から5日」の措置をとる企業が多いでしょう。

★感染症の治癒証明書は必要?
診断や治癒の判断は、診察に当たった医師が患者の症状や検査結果など情報を総合的にみて医学的知見に基づき判断するものです。
症状が治まっているように見えてもその陰性を証明することが困難であること、医療機関に過剰な負担をかける可能性があることから、 厚生労働省は法令で定める対応以外で、職場が従業員に対して「治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくない」とされています。
ただ公衆衛生に深刻な影響を与えるような感染症であれば、各都道府県知事が定める就業制限が課せられます。就業の許可が出るまでは、検査・医療指示に従って充分な療養をとり、回復に努めましょう。
インフルエンザなどは、療養や休業は「体調が悪ければ休む」「復帰は医師の判断に従う」という一般的な考え・判断に従えば十分と考えられます。
★家族がインフルエンザ等に感染した!
保護者の「看護休暇」は法律で定める制度です
多くのお子さんや幼児が集まる学校や保育園は、感染拡大を引き起こしてしまうことがあります。
そのため、すでにお伝えしてきたように「学校保健安全法施行規則」の規定により、インフルエンザは「出席停止扱い」となります。法令で定める期間、学校・幼稚園・保育園に通うことはできません。
また、感染拡大を防ぐために、各都道府県では学級閉鎖の基準を設け感染するリスクから子どもたちを守る対策を講じています。
子どものいる従業員の就業において、お子さんやご家族が感染症にかかってしまった場合、感染症ごとに定められた就労制限・医師からの意見書に従うことが重要になります。
インフルエンザなどであれば、家族が罹患しても本人に症状がなければ就業に制限などを設けなくても問題ないとされてます。
しかし、お子さん自身が感染症にかかっていなくても、学校や保育園が急に学級閉鎖・休校になるなど、親として急な対応を迫られることもあるでしょう。
看護休暇・介護休暇は介護休業法に定められた休暇規定のひとつですので、利用の周知や取得しやすいよう規定を見直してみましょう。
子の看護休暇を欠勤扱いにするかどうかは、企業の裁量に任された範囲とはいえ、育児・介護休業法では、子の看護休暇の取得によって従業員に不利益が発生することを禁じています。
欠勤(無給)とする場合でも、「通常の欠勤」とは別とし、人事評価等で不利益となるようなことがないように扱う配慮が求められます。 また、共働きのご家庭などで発熱などの症状がある・持病を抱えるお子さんを抱える親御さんは、「病児保育」を利用するといった方法もあります。
「病児保育」とは、保育士・看護師が病気にかかったお子さんの病状をケアしながら保育する施設・サービスの総称です。
対象年齢や対応症状は各サービスによりますが、小児科クリニックなどに併設されている施設型のものが多いです。
いざという時のために一度検索してみてはいかがでしょうか?
職場の感染症対策2.
ワクチン補助など福利厚生で社内制度の整備も
ワクチンは、「打てばかからない」というわけではありません。
しかしウイルスに対する免疫を獲得し、発病割合を70〜90%減少・重症化して入院する割合を30〜70%減少する効果が認められています。
各種保険団体や市町村・都道府県は毎年各種ワクチンの接種にかかる費用に対し、補助や助成を行っています。
チケットの配布や領収書の提出等受け取り方法が自治体の制度や各健康保険団体によって異なること、また自治体によっては病院やクリニックの指定が行われている場合があるため事前に確認が必要です。
ワクチンやその他予防に必要な医療費の補助を、企業独自で福利厚生として行っていることも多いようです。従業員の自己負担を減らし、気軽にワクチン接種を促すためにも「補助が受けられる」という情報を周知し、なるべく早めのワクチン接種を奨励しましょう。
※ワクチンはその方法上、以下に当てはまる方は接種ができないことがあります。
・既に発熱等の症状が見られる方
・免疫疾患等適しない疾患を持つ方
・鶏卵など使用される薬剤、素材に対してアレルギーのある方
各種ワクチンの接種に関しては事前に医師の診断を受け、その判断に従ってください。
職場の感染症対策3.
インフルエンザ予防など職場での注意喚起も万全に!

厚生労働省:「インフルエンザ(総合ページ)」へ
大切なのは、「咳エチケット」「手洗い」「こまめに換気」です。
最近では、高熱が出ないインフルエンザの流行も報告されており、花粉症との症状が似通っていることから、気づかないうちに感染してしまっているケースもよく聞きます。
またインフルエンザは、新型コロナとの「同時感染による重篤化」が報告されています。長崎大熱帯医学研究所の森田公一所長によれば、「(コロナとインフルは)全く違う病気なので、(中略)同時期に発症することはあり得る」とコメントしています。 医療に携わる方からも予防接種や感染を広げない対策の実施が求められています。
また、予防方法の周知とともに、発症した際の対応方法や就業規則の整備・周知は十分ですか?
発熱などの疑わしい症状がある場合は、医療機関の受診を勧め、対応方法を従業員全体に伝えましょう。
なるべくなら感染を未然に防ぐこと、そして人に感染させない配慮・コミュニケーションを続け、健康的に過ごせる環境作りを改めて考えてみましょう。
〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:
感染症情報
インフルエンザQ&A(令和6年度),Q19
事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン, 2009.2, p.97, p.115
- 内閣感染症危機管理統括庁:
事業者の皆さまへ
新型インフルエンザについて
- 泉 孝英ほか:
医療者のためのインフルエンザの知識(医学書院、2007)
初出:2020年11月12日 / 編集:2026年03月18日 |




















