「職場でよくある適応障害 個人と職場でのそれぞれの対策」【2】(吉村健佑氏セミナーアーカイブ)

当記事は、弊社が過去に開催したオンラインセミナー「組織改善Week」より吉村健佑氏の『職場でよくある適応障害 個人と職場でのそれぞれの対策』を書き起こしたアーカイブレポートの再編集です。
(当アーカイブは、該当セミナーを3回に分けてお届けしています。なお、講師の先生方の肩書などについては講演当時のものです。)

吉村氏:
ストレス対処能力を高めていけば適応障害になっても早く脱出できたり、そもそもなりにくかったりするわけです。では、その方法を見ていきましょう。
 
問題のない人生はない。生きていて問題にぶつかったことのない人はいませんね。同じ問題を抱えても打たれ強い人もいれば、そうでない人もいます。その違いは一体何でしょうか。それは長く精神医学や心理学が研究してきた内容ですね。
 
そして得られた結論がこちらです。

その違いは、「対処能力」がキーになるということです。
つまり、例えば上司に厳しく叱られてしまった場合、対処能力が低いと「もうダメだ、仕事を辞めてしまおう」と思うかもしれません。
一方で対処能力が高ければ、例えば「あれは私に対する期待を込めての教育なんだな」とか、「今回の気づきをきっかけに自分の能力を高めてもっと自分の専門家としてのスキルを上げていこう」などと考える。そういった対処能力、切り替えをうまくできることを「認知の再構成」といいます。再構成をして乗り越えることができれば、仕事を辞めずに済むわけです。
 
こういった対処能力の違いは何で出てくるんだろう?ということも、心理学や精神医学では研究されています。その1つとして、「認知」が大事だといわれています。

これは「認知行動モデル」や「認知モデル」といったりもします。
 
現在では心理学・精神医学の中で「認知行動療法」という精神療法があるんですけれど、これが最も効果が高くて有効性があり、誰がやってもある程度良い結果が出ることがわかっています。

認知行動療法は精神療法の基本といわれています。出来事があって、いきなり体の症状が出る、ないしはいきなり汗が出る、いきなり行動が変化する(酒の量が増える・気持ちが急に落ち込むなど)という人は実はいなくて。出来事を自分がどう捉えるか、解釈するかですね。この考え、認知というものが大事だよということです。

出来事は変えられなくても、認知を変えることで自分の仕事を続けていく、学業を続けていく、行動や生活を続けていくことができるようになります。この認知の考え方をどうやって適応的、つまり出来事が起こってもそれを乗り越えて、日常生活に影響がないようにしていけるかというのが大事だねということです。
どうしたら認知を柔軟にして、出来事に対応できるような認知を持てるかどうかが大事です。
 
認知行動療法の紹介をしましたが、厚生労働省は、職場の健康づくりのために、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」 というものを15年位前に出しています。

これは現在でも産業保健活動の基本となっている考え方です。
 
その中に1番上からやるべきこととして、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」はつまり産業や産業保健師による産業保健活動です。そして「事業場外資源」は、例えばクリニックや精神科の病院、心療内科の外来等の活用です。
この順番でやりましょう。この1番上のセルフケアはですね、ストレスに気づいて対処していくことが重要です。自分で対応できなくなると、いよいよラインによるケアです。つまり上司が部下に対してサポートすることが大切になります。今日はこの1番目・2番目あたりのことを中心に適応障害への対策を話していきましょう。
 
ストレスへの気づき・対処法が大事だよということが書かれているわけです。
セルフケアもラインによるケアも、3番目に出てくる産業医をうまく活用して、そこをスーパーバイザーや指導ないしは院内研修などに活用していきながら、個人向けストレスの対処能力講座を開催したり、上司向けの講座を実施することが大事です。

産業医は現在、仕事の7割・8割はメンタルヘルス関連の業務になっています。
 
近年はコロナや感染症対策も入ってきますが、ここ5年位のトレンドで見ていくと、産業医の仕事の多くはメンタルヘルスです。
メンタルヘルスは、産業医の仕事の中で外注できない業務ですね。例えば、生活習慣病や腰痛の場合、本人の健康状態のチェックなどをして、それぞれ内科とか整形外科の先生につないでいく。それである程度の問題は解決です。

ただメンタルヘルスは、その原因・ストレッサーはまさに職場の中で発生しているわけです。上司との折り合いがつかないとか業務量が多すぎるとか、配置されている人数が少なすぎるとか。そうなってくると、例えば精神科に紹介して精神科の医師がそれを解決できるか?といったら、できないですよね。なので産業医が自ら事業主と相談しながら環境を変えていく必要があります。ですので、産業医の仕事としてメンタルヘルスは外注することはできず、産業医の業務の中で解決しなければならないことになっています。

職場のメンタルヘルス活動に重要な「順番」をここに示してみました。
 
まず第一次予防。病気になりにくい職場を作っていくつまり発生を予防するのが第一次予防です。
 
第二次予防は、早めに軽症の状態の方を見つけ出して、面接をして解決を図る。早期発見・早期介入が第二次予防です。
 
第三次予防は、メンタルヘルス不調で休んでしまっている方、ないしは業務を休んだり戻ったりを繰り返してしまうような方、そういった個別のケースに対して復職支援や再発防止をすることが第三次予防です。
 
矢印の通り、三次予防から産業医の出番がきます。個別のケースにうまく対応する。それができてくると早期発見まで広げることができます。最終的には第一次予防まで、手を伸ばしていくのが産業保健スタッフ・メンタルヘルス活動の基本にはなりますが、まずは第三次予防しっかり、そして第二次予防をその先へというイメージで考えると優先順位がつくのかなと思います。今日は適応障害がテーマですので、復職支援には踏み込みませんが、復職支援の体制がまだ不十分であるという職場はですね、できる限り早く見直しを行い、体制を整える必要があるかと思います。
 
さて、先ほど一番最初に言った第一次予防ですね。
今日は適応障害の予防や早期の発見についてですから、第一次予防・第二次予防の話を中心に進めますが、一次予防では次の3つの対応があります。

まず「①職場環境改善」。これは何かといいますと、ストレスチェックを年に1回行います。その結果から職場ごとの集団分析を行います。その集団分析の結果に沿って、ストレスが溜まっている人がとても多い職場の優先順位を高くして介入し、その職場の問題点を職場の人たちと一緒に洗い出して、改善点を挙げていく。そういった職場環境改善の手法があります。

2つ目が「②セルフケア」ですね。この絵はe-ラーニングでストレスケアを学んでいるところですが、ストレス対処法を自分で学ぶこと。
3つ目は「③上司に対して教育をする」。今日は2番目と3番目をまず紹介して、最後に1番目を少し紹介しましょう。

セルフケアとは一体どういうものか。結構単純なことからいきます。

まずは寝ること。
これは厚生労働省の会議で出てきた資料ですが、7時間寝ていると、男性も女性も一番死亡率が低く、長生きであることがわかっています。つまり睡眠時間が短くても、逆に長すぎても健康を害する恐れがあります。
特に働く方は睡眠時間が短くなってしまう場合が多くて、「適応障害かな?うつや不安症の入口かな?」と思って話を聞くと、睡眠時間が十分取れていない方がたくさんいます。
 
ですので、これらの方々に対しては1週間くらい休みをとって、まずよく寝てくださいとお伝えします。お休みの時間を与えるだけで結構な方が回復します。睡眠不足であれば数日の休養でかなり改善するのですが、うつや不安症だともう少し改善に時間がかかります。なので産業医として聞く質問の筆頭はまず、「ちゃんと夜は眠れていますか?」「何時間寝ていますか?」「何時頃に布団に入って、何時に寝付いて、何時に起きていますか?」と聞くわけです。この辺りは上司の部下に対する健康管理という切り口が重要かと思います。

2つ目はリラクゼーションです。
例えば、腹式呼吸が紹介されています。

これらは多くのテキストで取り上げられている内容です。交感神経で肩で息して「はぁはぁ」と息が上がるのを、腹式呼吸で腹筋をうまく使って力を抜きながら副交感神経を優位するようなリラクゼーション法ですね。肩の力を抜いて無理のない姿勢をとって、へその上に手を置いてゆっくり息を吐く。15秒かけて息をはいて、3秒かけて息を吸う。これを繰り返しながら徐々に交感神経から副交感神経優位に、つまりリラックスした状態に意識的に持っていく作業です。

これは私もたしかに仕事が立て込んで気が立ってくるときやリラックスできていないときに、実際に自分でもやっているものの一つです。

もう一つ、「自分のストレス解消メニュー」ですね。
心理学でもよく使われる、セルフケアのやり方として、ここでは「ストレス対処カード」と書いていますが、カードでなくてもスマホなどのメモ機能を使ってもOKです。自分がストレスを感じたときに対応する対処法をたくさんリスト化しておきます。
 
できれば20〜30個ほどあると、ストレス解消方法を1個ずつ試し、5〜6個やればだいたい大丈夫です。先ほどの腹式呼吸もそうですし、7時間寝るのもそうかもしれない。そういったものを書きつけておいて、これで対処していけば自分はある程度ストレスに対応できるという貯金ができるわけです。人間はストレスがやってきたときには考える余裕をなくしていますし、そういうことに思いが至らなくなりますが、元気なときにリストをたくさん作っておけば、辛いときにもそれを使って乗り越えることができるようになるわけです。

あと4つ目が「ポジティブ・データログ」です。
毎日手帳や日記などに、今日あったいいことを1〜3個書き込んでいきましょうという心理学的な手法です。

例えば、良いものを見たり、楽しい友達にあったら写真を撮ったりする。「富士山きれいに見えたなぁ」「秋刀魚美味しいよな」というですね、今日あった良いことの一つを入れてもいいかなと思います。要はメンタルがまいってしまうと、先ほどの認知が世の中に対する見方を悪い方・否定的な方向に傾けてしまう。そうすると何かよい出来事があっても、「もうこんな良いことは二度と起こらない」とか「生きていて嫌なことばっかりしかないのではないか」、「あの上司ときちんと話すことはできないんじゃないか」…という否定的な認知になってしまいます。そこで、普段からこういうポジティブデータをとってリストにして、それを見直すことで「あ、ちょっと今は自分の考えが偏っているな」と中立に・公平に見て、補正していくことができます
 
今の4つくらいの手法はよく紹介されますが、もう1つはキーワードとして「孤独」です。

孤独が非常に健康に悪く、適応障害を含むメンタルヘルス不調の発生にもつながりかねないことがわかっています。
 
孤独は日本人の男性で非常に深刻です。イギリスなどでは孤独担当大臣を任命したりしていますが、海外でも問題になっていることです。例えば、今回はホルトランスタッド研究を紹介していますけれど、研究によれば、孤独は亡くなるリスクを上げてしまう。タバコを1日15本吸うのと同じくらい、あるいはアルコール依存症と同じくらい健康に悪いことなどがわかっています。ですから、多くの方に話を聞いてもらったり、支えてもらったりすることを意識的にする必要があります。女性だとこの辺り資源をうまく使いながら、自分のメンタルを整えている方も多いのですが、男性が苦手な方、特に一人暮らしの方ですとか、単身赴任で家族と離れて過ごしている方などは、意識的に人と話す、孤独を回避するということが必要と(この研究では)いわれています。

ここまではストレス対処能力を個人で高める話をしてきました。残る時間で職場全体でどういうふうに予防すればいいのか、特に上司に対してどのようなトレーニング・教育をしていけばいいかという話題を整理してお伝えしていきましょう。

続きは、「職場でよくある適応障害 個人と職場でのそれぞれの対策」【3】(吉村健佑氏セミナーアーカイブ)をご覧ください。

初出:2022年03月18日 / 編集:2026年01月28日

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