マタニティハラスメント(マタハラ)とはどのような行動?会社でできる対応と対策

マタニティハラスメント(マタハラ)とはどのような行動?会社でできる対応と対策

マタニティハラスメント(マタハラ)という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
妊娠や出産をきっかけとした働く女性への嫌がらせ・不当な取り扱いに対する訴えはいまだ根強く、頭を悩ませている関係者の方も多いでしょう。

少子高齢化社会の進む日本、女性の活躍を推進することは労働力・生産力の強化につながるとして国を挙げて取り組むべき課題であります。
では実際に応援しようとするとき、具体的にどんなことがマタニティハラスメントにあたるか、出産や育児に関して法律ではどのような権利が守られているのか、把握しきれていないということはありませんか?

近年ではマタハラに関して訴えた裁判で損害賠償を認められるケースもあり、企業としてはきちんと対応することが必要です。

この記事ではマタハラの定義や関連する法律・判例、企業がすべき対応について説明します。これを機にマタハラへの対応を見直してみてはいかがでしょうか。
 

マタニティハラスメント(マタハラ)とは?

マタハラとは「女性が職場において妊娠・出産・育児休業を機に嫌がらせを受けたり、雇用において不利益な扱いをされたりすること」です。

「平成 29 年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での 法施行状況」によると、相談件数19,997件のうち、婚姻、妊娠・出産等を契機とする不利益取扱い・妊娠・出産等に関するハラスメントは6000件を超え、約33%を占めています。

男女平等の施策が行われてはや30年、いまだに妊娠や出産に関して不当な扱いを受けている労働者が多くいることがわかります。
 

マタハラは法律で禁止されています!

マタハラをしないためにはどうすればいいか?まずは「何がマタハラなのか」を知ることから始めましょう。

してはいけないことや権利が決められている法律・法令を知ることによって、不適切な対応を避けることができます。

マタハラの禁止は 男女雇用機会均等法 ・育児介護休業法 が中心となって定められています。
両法とも、事業主に対して妊娠や出産、育児を契機に不当な取り扱いをすることを禁じ、休業や療養、作業の軽減など必要な措置を行うよう取り決めています。

労働基準法では「 6週間以内 に出産予定(双子など母体に負担のかかる妊娠の場合 14週間以内 )」 の女性から休業を請求された場合、休業を認め就業させてはならないと明記されています。

また就業の希望があった場合でも、本人の体調や医師の診断書・意見書に基づき、母体に負担のかからないような配慮をとることも義務とされています。
配慮の内容については各事業・業務の内容に合わせて、
「立ち仕事や肉体労働から事務作業などの身体負担のかからないものにする」
「通勤時間をずらす・混雑を避けられるようスケジュールを調整する」
「体調に合わせられるよう 休憩をとれるスペースや 設備を見直す」

といったことが考えられます。
  

マタハラが起こる背景

マタハラのきっかけは「周囲の無理解」

マタハラはなぜ起こってしまうのでしょうか。

マタハラのきっかけはさまざまにありますが、主に以下のような「妊娠・出産に伴う体の変化やそれに対する配慮」が周囲に甘え・優遇ととられてしまうパターンが多くみられます。

  • 妊娠・出産に伴う体調不良
  • 妊婦健診のための休業
  • 産前産後休業の取得
  • 育児休業・介護休業の取得

特に妊娠や出産を理由にする配慮は男性社員にとって「特別扱い」に思われてしまうこともあるでしょう。また妊娠に関する体調不良などは個人差・体質が大きく関わるため、出産を経験した他の女性社員でも「私の時はもっと厳しかった」「これくらいなら大丈夫」と個人的な経験や記憶をもとに配慮を一方的に決めてしまうハラスメントが起こってしまうこともあります。
 

  • 妊娠を伝えたら職場にとって迷惑と言われた
  • 時短勤務や危ない力仕事を代わってもらうと嫌がらせをされる
  • 仕事内容を勝手に変更されたり、業務を任せてもらえない

上記は女性から寄せられる相談内容でよく見られる『マタハラ』です。
嫌がらせといった直接的なものだけではなく、妊娠・出産することをなじるなど言葉や態度によるもの、逆に過剰な配慮や本人に相談のない変更など“思いやり型”ハラスメントも注意です。
特に会社に合わせた働き方が難しいために望まない配置転換やキャリアの転換を強いられることを「マミートラック」といい、復帰後のモチベーションや会社への不信感、本人のメンタルへの悪影響もあるとして懸念されています。

妊娠・出産による配慮が反感やハラスメントにつながってしまう理由として、
妊娠や出産をする女性従業員へ配慮できる業務体制が整っていないことが考えられます。
誰か一人が欠けることによって「周囲の負担が増える」働き方をしていると、妊娠出産だけではなくひいては体調不良による休業や事故に対しても「休む方が悪い」「迷惑をかけている」といった考えが浸透してしまいます。
休業する本人だけでなく、休業者を支える周囲の従業員の負担も大きくなるような体制・制度、日常業務のオーバーフローが根底に隠れているでしょう。

また「女性は家に、男性が働く」といった古い役割分業意識が残っている職場であると、女性が働くこと自体にネガティブになりがちです。
少子高齢社会の現在は働く人より支えられる人が多い時代でもあり、社会全体として見ても男女ともに安心して働ける環境づくりが重要となっています。また、仕事や労働を“自己実現の機会”“自分が認められる場”としてとらえる方も多く、働きたいと思う意欲を認める態度も求められるでしょう。
 

すぐできるマタハラ対策は「知識」から

マタハラは法律で禁じられているため、損害賠償が生じるおそれだけでなく、マイナスイメージやモチベーションの低下、ひいては会社の未来につながる若い人材ほど流失の可能性が高まるなど大きな損失のリスクを孕んでいます。

マタハラの予防やマタハラが起きてしまったときに適切な対応を取れるよう体制を整えておくことは 会社として 必須でしょう。

マタハラに対して、会社ができることは何でしょうか。
労働環境や新しい働き方の導入を明日から!といわれると難しいですが、「研修などで知識を共有すること」や「相談窓口・体制を整える」など今から・部署だけでもできる対策があります。
 

研修などでハラスメントを予防

予防としてできることは、従業員全体に情報周知を行うことです。

日頃から研修や通知、企業から情報提供を行うことで、知らないうちにマタハラをしてしまうということを避けられます。
また、ハラスメントが起こっても同僚や上司がハラスメントに気が付く・注意を促すといった行動をとることができるでしょう。周囲からの一言だけでも、本人や職場の『妊娠に対する肯定感』にプラスの影響を与えます。

妊娠や出産に関する一般的な知識が共有でき、配慮が必要であることをサポートする人たちも理解できるような説明をしましょう。
 

安心して働ける体制作り

その他のハラスメントでも同様ですが、予防してもマタハラが起きてしまうことはあり得ます。上司や同僚は配慮だと思ったことや何気ない一言でも、当人や周囲にとっては負担であったり傷ついて悩んでいる場合も。

そのためきちんと機能する相談窓口を作り、適切な対応ができるようなマニュアル・規定を定めたことを社内全体に周知しましょう。
信頼できる、きちんと対応してくれる相談窓口を設けることは、「会社が声を聴いてくれる」「ここに連絡をすれば改善される」安心感が高まり、報告のしやすさ・実態の正確な把握に結びつきます。
相談窓口は本人から直接話を聴くだけではなく、第三者や家族からの相談にも対応できるとベターです 。

ハラスメントが大事な社員を傷つけたり実際の損害を生む前に、ちいさな可能性から対処していきたいですね。
 


女性従業員でも人によって状況は異なります。
まずは「本人の話を聴く」ことから

具体的に配慮をするにあたり大事なのは、「一人ひとり状況は異なる」という前提を知っておくことです。

「 妊娠出産は 病気ではない」と言われますが、これは「薬や加療でどうにかできることではない」という意味です。個人の体質や体調によって辛さや負担は大幅に異なり、コントロールが難しいものなのです。
休業や配慮がたくさん必要な人もいますし、周囲が思っているより仕事ができる状況である人もいます。

自身の経験や情報・心遣いが本人の負担になっていないか、今一度立ち止まって考えてみることも肝要です。

ハラスメントの一番の解決方法は正しい知識の周知と企業・環境を変えることです。
一人ひとりの背景に対する配慮や休業についての正しい知識・対応が社員にいきわたるよう、企業の努力や管理職の理解を進めていきましょう。
 

初出:2019年09月6日

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