2015年より健康診断に次ぐ企業の義務となった”ストレスチェック”。
50名以上の従業員がいる企業が必ず実施しなければならないけれど、指針ではいろいろ規定があってよくわからない……とお困りではありませんか?
従業員の心理的な部分を取り扱うため、慎重にならなければいけない処理もあります。
初めて担当を行なう方は戸惑うかもしれません。
ストレスチェックの手順から、実施でつまづきがちなポイントまで解説しました!
ストレスチェックとは?何をするの?
日本の労働環境の変化に伴って、職場の安全は身体的な負担や事故の危険から心理的な負担へ焦点を当てたものに変わりつつあります。
労働者の「心理的な負担による精神疾患」を原因とした労災認定の増加を受けて、平成26年に労働安全衛生法が改正され、従業員50人以上企業に対して年に1回のストレスチェックを義務付けました。
ストレスチェックは
・労働者自身が自分のストレス状態を自覚して予防のきっかけとなる
・企業の職場環境を改善する、何がストレスの原因かを分析する
ための「心の健康診断」です。
「仕事について」「心身の状態について」「周囲との関係について」の3テーマについていくつかの質問に答えることで、全国の労働者のストレス状態と比較し、自分がどれくらいストレスを感じているのか分析することができます。
ストレスチェックの準備にはまず
「実施者」「計画・規定」「周知」を決めよう
従業員が50人以上になると義務になるストレスチェックですが、いつ頃実施しなければならないといった決まりはありません。
実施の内容や期間、対象者や高ストレス者の基準は企業の判断に任せられます。
「実施の主体は企業」となるのです。
厚労省から実施に関する詳細や質問文などが掲載されたマニュアルや指針は発表されていますが、実施に必要な
- 実施のスケジュール・対象者や使用する質問・説明方法
- 高ストレス者の範囲や判定方法
- 高ストレス者への対応について
- ストレスチェックの結果の保存方法
- 外部委託をする場合、業者の方法で問題はないか
などは衛生委員会(安全衛生委員会)で労使、産業保健スタッフと協議して決議しましょう。
まず行うべきはストレスチェックの監督者となる「実施者」や「実施事務従事者」を定め実施体制を整えることです。
◆ストレスチェック実施者を指名しよう
実施者は“国家資格”が必要!
ストレスチェックを行うには様々な場面で専門的な知識が必要となります。
問題が妥当か、高ストレス者は誰が当てはまるか、職場の改善に必要なデータとは何か…専門知識も心と体両面にわたる幅広い知識が必要です。
そのため、企業が義務付けられている「ストレスチェック」には国家資格をもった実施者の設定が必要です。
実施者となることができる資格は以下になります。
- 医師
- 保健師
- 厚生労働省が定める検査を行うために必要な知識についての研修を修了した
看護師、もしくは精神保健福祉士
(※平成30年8月9日に歯科医師及び公認心理師が追加されました)
(参照: 厚生労働省令第九十四号 )
社内の担当は「実施事務従事者」
「実施事務従事者」とはストレスチェック実施者の指示のもと、実施する企業の中で事務やストレスチェックに関わる業務や連絡を執り行う人を指します。
法で定めることが義務付けられたものではありませんが、社内にストレスチェック実施者の事務作業を補佐する「実施事務従事者」を設けることで、段取りや通知・書類の配布が格段にスムーズになります。
実施事務従事者の業務は実施者と同様の個人情報を取り扱うものもあります。
そのため、実施事務従事者にはいくつか守らなければならない要件が設けられ。
- 人事権を持つ立場の人は携わることはできない
- ストレスチェック実施者と同様に守秘義務があり、実施後もストレスチェックに関して知りえた情報は漏らしてはならない。
- 実施事務従事者を誰なのか公開しなくてはならない。
逆に、実施事務従事者以外の人はストレスチェックに関わる事務作業は行う事ができません。
これはストレスチェックの結果が人事や昇格に影響を与えることで労働者が正直に回答できない事態を防ぐためです。
外部に委託してもOK!
- ストレスチェック実施者をどうやって探してよいのかわからない
- 規模が大きくストレスチェックの対応が業務に影響する
など自社で対応が難しい場合には外部の機関に委託することも認められています。
ストレスチェックは実施後にも個人情報の保管や高ストレス者の選定後の対応など、実施後の結果を踏まえた対応・事務が続きますので、適切な委託先を選ぶことができれば、コストダウンにもつながります。
◆衛生委員会では具体的な実施の内容を
実施者はあくまで監督役、実施の主体である企業は産業保健スタッフ・労使である社員とともに衛生委員会を開き「実施計画」と「実施規定」を作成する必要があります。
実施計画・実施規定で定める内容は以下のようになります。
- 実施日程や担当者・実施方法の告知をどう行うか
- 受検対象者の範囲、分析に必要な対象者の情報(部署や社員番号など)
- 質問紙もしくはICTで行うなどの実施方法
- ストレスチェックの「高ストレス者」の基準と範囲
- 得られたデータの分析方法
実施規定や実施計画にはこれらの「実施に必要な内容」を記録し、決議します。 決議された内容は実施者が、メンタルを取り扱うものとして安全か・実施されたストレスチェックで正確なデータが出るかについて確認を行います。
規定や計画の詳細については、厚労省の「 労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル 」に例が掲載されていますので、一度は目を通してみましょう。
ここで悩ましいのは【高ストレス者の判定・範囲】です。
【高ストレス者の判定・範囲】 について厚労省が発表している高ストレス者の基準はあるものの、「面接指導の対象者となる高ストレス者」の範囲は企業(衛生委員会および実施者) の判断 にゆだねられるのです。
ちなみに厚生労働省が定めるストレスチェックにおける高ストレス者の基準では
・「心理的な負担による、心身の自覚症状」の項目の点数が高い者
・「心理的な負担による心身の自覚症状」に関する項目及び
「職場における当該労働者への支援に関する項目の点数の合計が著しく高い者
が面接指導の対象者となります。 しかし、上記の基準を満たせば必ず「高ストレス者」にしなければならないというわけではありません。
つまり、社内環境や業務内容、普段の就業状態を把握している企業が「最近遅刻が増えて体調が悪そう」「最近忙しそうで休めている人が少ない」という社内の状況を加味して、 面接対象者 がどの範囲に当たる人なのか、ストレスチェックを実施する企業やが総合的に判定することができます。
どういった所に着目して評価するのか、ストレスチェックの評価方法を検討出来れば評価方法にあった方法を選択することができますね。
初めてでどんな範囲・どんな方法で高ストレス者を判定するのが効果的なのかわからないときには機械的に点数で行うことも有効です。
ストレスチェックの結果を集計し、高ストレス者の範囲を「上位〇〇%を高ストレス者とする」などを実施者に相談し決めておきましょう。
回数を重ねるごとに自社に合った方法やどんな傾向・特徴があるのかが見えてきます。
ストレスチェックを継続して実施し、衛生委員会で協議を重ね効率的な範囲を見つけましょう。
◆外部に機関に委託するときも「計画・規定」は必要
外部に委託する場合であっても、必ず行わなければならない項目を満たしているか衛生委員会で確認を行う必要があります。
実施方法や日程など、事前に質問紙の項目や追加する設問を行うか否かなど委託先とのすり合わせ内容を衛生委員会で話し合っておきましょう。
産業医とは別に実施者を設ける場合でも、必ずストレスチェックの結果を産業医に把握してもらわなければなりません。データの受け渡し方法、手順や窓口となる人物、部署の設定など産業医との連携の仕方を双方で共有しておくことが重要です。
特に高ストレス者が医師との面接を希望した場合、誰に申し出たら良いのか、どうやって面接指導を受けるのかはすぐに案内できるように把握しておきましょう。
外部委託業者はそれぞれ特徴があります。
高ストレス者の対応が手厚い、分析が迅速、独自のサービスを行うことができるなど自社に合った委託先を選定するためにも、まず社内でストレスチェックに必要な項目や実施イメージをつかんでおくことが大切です。
やりっぱなしにしないために…
「実施した」後のポイント
ストレスチェックは事業者の義務であると同時に、労働者には「受験の選択権」があります。労働者はストレスチェックがどういうものか説明を受ける権利、 受検するかしないか自分で選択する権利があるのです、
衛生委員会で可能な限り労働者がストレスチェックを受験できるよう、方法を説明したり、受験について勧奨をおこなうことが求められます。
<結果の通知>
ストレスチェック実施後、実施者は 調査票の内容をまとめ 、労働者個々人の結果の評価を行います。
集計・評価された個人結果は、「要配慮個人情報」として【本人以外が見ることができない形式】で直接通知されます。
一人ひとり結果を見られないよう封緘して渡す・メールなどで個人宛に送信する、など方法を工夫し手順を整えましょう。
また、個人結果がわからないよう部署ごと・職種ごとといった集団に抽出し、傾向と状況を分析したものを「集団分析」といいます。
企業や人事権のある方はこの「集団分析」をもとに、現在の社員が置かれているストレスの状況や傾向を考え対策を講じましょう。
「集団分析」を行うことは努力義務となります。職場環境の改善や従業員の就労環境を直に知る良いきっかけですのでなるべく行いたいものです。
<高ストレス者の対応>
ストレスチェックの結果、「高ストレス」と判断された労働者に対しては
・自分の結果が高ストレス者にあたること
・医師との面接が受けられることとその必要性
を結果と合わせて通知します。
この医師との面接を面接指導と呼び、実施後からおおむね1か月以内に行う必要があります。
実施者同様、社内の環境やストレス状態を把握している産業医が面接指導を行うことが推奨されます。しかし、特にメンタルヘルスの知識を要するため「心療内科、精神科の医師」へ依頼してもいいでしょう。
・面接指導とは?
ストレスチェックの結果、ストレスチェック実施者が「必要がある」と判断した労働者に対して、医師が対面で行う面接です。病名や症状などをみる「診察」とは明確に異なり、【本人からストレス状態に対する情報の収集をする】【生活や就労に対する指導を行う】の2点が主に行われます。
高ストレス者に対して面接指導を実施するところまでが事業所の義務となり、労働基準監督書に報告する事項になります。
ストレスチェック結果の通知を受けた労働者のうち、高ストレス者として選定され、面接指導を受ける必要があると実施者が認めた労働者から申出があった場合は、事業者は、当該労働者に対して、医師による面接指導を実施する。
労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル
面接指導は労働者から事業者に対して申し出があることが必要です。
書類やメールなどで申し出を行うことを確認し、その方が高ストレス者であるかどうか確認をします。なお、申し出を行った書面は記録同様に5年間保存する必要があります。
企業が義務となる「ストレスチェックの面接指導」は高ストレス者が対象です。
そのため、労働者から申し出をおこなった時点で高ストレス者かどうか確認する=「事業者に対してストレスチェックの結果を提供すること」に同意がなされたものとされます。
面接の受付を行う際は、個人結果を見て高ストレス者か確認する必要があること、結果を面接を行う産業医など必要なスタッフへ伝えることなどを労働者が十分に理解しているかチェックしてください。
面接指導の結果は「意見書」として事業者へ提出されます。
事業者は必ずこの意見書を参考にして、面接を受けた本人に必要な配慮や職場環境の改善を行いましょう。意見書は結果とともに5年間保管し、管理されます、
面接指導の結果、より専門的な医療機関や支援機関の利用が検討される場合は改めて紹介や情報提供をおこなうことになります。
結果通知後に面接指導の申し出がない場合
結果を報告したが反応がない場合でも、そのまま放っておいてはいけません。
「高ストレス者」と認められた労働者が申し出を行わない場合には、「面接指導の申し出の勧奨」を行いましょう。
ストレスチェック実施者・実施事務従事者より個別に医師の面接を勧めたり、朝礼や集会などで「高ストレス者は産業医との面接が受けられること」を説明するだけでも、面接指導の後押しになります。
高ストレス者の範囲について、面接指導の負担や時間は事業者が用意することなどを伝えると安心して申し出ることができます。
<個人情報の取り扱い>
ストレスチェックに際しては個人情報の取り扱いに注意して下さい。
ストレスチェックの結果は健康診断の結果と同様に「要配慮個人情報」として取り扱われます。
「本人の同意がなければ公開されない情報」です ので、原則として事業者に提供できません。実施中も実施者・実施事務従事者だけが閲覧できるよう、保管方法の配慮が必要です。
また、ストレスチェックの結果は実施後5年間の保存が義務とされています。
結果提供の同意の有無によって保管方法や保管の責任者が変わるため、事前に対応を考えておきましょう。
- 個人結果の提供を受けた・本人の同意がある場合
→事業者が5年間保存する義務があります。 - 結果提供の同意がない場合
→実施者が5年間保存することが望ましいです。
社内でストレスチェックを行った場合、情報は社内に保存されるケースが多くみられます。
事業所内で記録を保存する場合、同意がない情報は社内でも実施者・実施事務従事者以外が閲覧できないような工夫(パスワードやロックをかける・別所に保管する)が必要です
実施者が保管する場合でも、事業者は保存が適切に行われるよう必要な措置をとることが義務付けられています。実施者より情報のセキュリティ、管理方法について、意見や何が必要かを聴いてみましょう、
外部委託する場合は委託先の機関が保存を行なっても問題ありません。
保管期限や期限が狩猟した後の対応、情報の削除方法について実施終了前に話し合っておきましょう。
ストレスチェックを受けた後、労働者が高ストレスの状態で放置されないことが大切です。
労働基準監督書報告への報告は速やかに!
ストレスチェックの結果は労働基準監督書に定められた「心理的な負担の程度を把握するための検査結果報告書」の様式を作成します。
実施人数や外部委託の有無、面接指導をおこなった人数などを記載して、所轄の労働基準監督署へ提出しましょう。
また、実施者を外部に委託した場合でも、「事業者が選任した産業医」が結果について確認し署名をする必要があります。提出期限については特に定められていませんが、不要なトラブルを避けるためにもなるべく速やかな提出が安心です。
様式は厚生労働省よりダウンロードができます。機械で内容を読み取るものとなりますので、印刷する用紙や記入する際の筆記具について注意に従ってください。
ストレスチェックは、産業医を始め労使一体となり、働きやすい環境・メンタル不調を予防することで企業の生産力を向上させることが目的です。
そのためにストレスチェックの一時的な対応ではなく、高ストレス者へのフォローアップや職場環境の改善を行うことができる体制を検討する機会としての活用が望まれています。
継続的に産業医や保健スタッフとの連携を深め、「メンタルについて」「今の職場に何が必要なのか」を一緒に考えていきましょう。
- 厚生労働省: ストレスチェック制度関係 Q&A
- 厚生労働省: ストレスチェック制度に関する法令
- 厚生労働省: 厚生労働省令第九十四号 通知
- 厚生労働省: 改正労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度について
- 厚生労働省: ストレスチェック制度の実施状況
初出: 2018年08月30日 |