ストレス社会ともいわれる現代の日本で、仕事や家庭の悩みを抱えている人は大勢いるでしょう。
ストレスは、場合によってはうつ病などの精神疾患の原因となり、最悪の場合は自殺の誘因となるおそれもあります。
社会問題化しているストレスへの対策として、政府は2015年に「ストレスチェック制度」を創設しました。この制度は、一定以上の規模の事業場に「ストレスチェック」の実施を義務化したものです。
労働者を雇用する企業にとっては無視できないストレスチェック制度。
しかし、なぜストレスチェックが必要なのか、企業が行うべき義務とは何かなど、ストレスチェック制度に関する疑問も多いでしょう。そのような疑問を解決するために、ストレスチェック制度や義務化されたストレスチェックについて、以下に徹底解説します。
ストレスチェックとは?
広義のストレスチェックとは、個人のストレス度合を判定するテストです。つまり、単にストレスチェックというと、「ストレス度合いの診断テスト全般」を指すことになります。
ストレスチェックには、企業が行う本格的なものもあれば、ウェブサイトを通じて短時間で診断できる簡易的なものまで様々なものがありますが、ストレスという目に見えない概念を数値化するのがストレスチェックであるといえます。ストレスチェックで高ストレスであると判定された人には適切なセルフケアを勧め、メンタルヘルス不調になることを防ぎます。
◆ストレスチェック制度
ストレスチェック制度は、2015年に「労働安全衛生法」が改正されて創設された制度です。それまで民間レベルで行っていたストレスチェックを制度化し、方法やルールを明文化しました。現時点(2018年1月)では、常時使用する労働者が50 人以上の事業場では1年以内に1回ストレスチェックを実施することが義務付けられています。
ストレスチェック制度ができた背景
ストレスチェック制度の具体的な内容を解説する前に、ストレスチェックが制度化された背景をご紹介します。
なぜこの制度ができたのか、何を目的としているのかを理解しておくことで、ストレスチェックを正しく効果的に実施することができます。
◆ストレスは日本の社会問題
ストレスチェック制度が創設された背景には、日本の社会問題が深く関係しています。
その社会問題とは、ストレスによる病気や自殺の増加です。ストレスは私たちにとって身近なものであり、誰もが抱えうるものですが、その解消方法などを理解し実践している人は少ないのではないでしょうか?
知らず知らずのうちにストレスを溜め込み、何の対策も行わずにいると、精神や身体に悪影響を及ぼします。仕事をしながら生活するうえでストレスは切り離せないものだからこそ、しっかりと理解し、上手く付き合っていく必要があるのです。
◆ストレスと上手く付き合うには?
ストレスと上手く付き合っていくうえで最も重要なことは、「自分自身のストレス状態を把握すること」です。
「ストレスが溜まっている」と感じている人は多くても、「ストレス度合が危険な状況に達している」という判断を自分で下せる人はあまりいないでしょう。ストレスは目に見えない分、心が追い込まれていても身体が限界に達するまで気付かない人も多いのです。
◆ストレスチェックの必要性
自分では気付くことが難しいストレス状態を判断するためには一定の基準に基づいた「客観的な診断」が必要であり、ストレスチェックがこの役割を果たします。
ストレスチェックを定期的に受検することでメンタルヘルス不調の徴候を早期に発見し、セルフケアを行うことでストレスによる疾患の発症を防ぐことができます。
◆ストレス対策に取り組めていない原因は?
業務上のストレスは、個人の努力や工夫だけで解消できるものではありません。周囲のサポートが必要であったり、企業の管理体制を整える必要があることが多いでしょう。
しかし、予算や時間が限られたなかで大きな改革に取り組むのは難しいのが実情です。従業員のストレスが高まっていることを感じていても、余裕がなくて対策を講じるまでに至らない企業が多いのです。
◆ストレスチェック制度の趣旨
上記のような経緯から、国としてストレス問題への対策を講じた結果が「ストレスチェック制度」です。この制度によって、ストレスチェックの実施を義務化し、企業のストレス対策を後押しすることになりました。
ストレスチェック制度の趣旨は労働者の「メンタルヘルス不調の予防」であり、個々のストレスチェックの結果を部署やチームごとに分析することで職場環境の改善につなげます。
ストレスチェック実施の義務化対象は? やらないとどうなる?
ストレスチェック制度の趣旨についてはご理解いただけたと思いますので、次にストレスチェック制度の内容を具体的に解説します。
冒頭でストレスチェック制度義務化の対象となるのは「一定以上の規模の事業場」と紹介しましたが、具体的には「常時50人以上の労働者を使用する事業場」です。実はこの「事業場」というところが重要で、単に50人以上の労働者がいる企業を指すのではありません。企業という法人単位ではなく、事業場単位であることがポイントです。
◆「常時50人以上の労働者を使用する事業場」とは?
例えば、「ある企業の総労働者数が100人で、本社には60人・支社には40人が常時働いている」といったケースを考えてみましょう。
この場合、50人以上の労働者が働く本社ではストレスチェックの実施が義務となりますが、50人未満の労働者数の支社は対象外となります。ただし、これはあくまで規定として線引きがされているだけなので、50人未満でも実施することは可能です。
事実、厚生労働者は50人未満の事業場に対しても「ストレスチェックを行う努力義務がある」としています。
◆ストレスチェックの実施頻度
ストレスチェックの実施は「1年以内ごとに1回」と定められています。
ストレスチェックは、いわば心の健康診断のようなものなので、定期的に実施することが重要です。
◆罰則
ストレスチェック制度は労働安全衛生法で定められた制度ですが、実施の有無についての罰則は現時点(2018年1月現在)ではありません。つまり、担当者が多忙でストレスチェックを実施することができなかった場合でも、罰則を受けるわけではないのです。ただし、労働基準監督署へ虚偽の結果報告をした場合や報告を怠った場合には、労働安全衛生法第120条5項により50万円以下の罰金が科せられます。
また、ストレスチェックを実施する際には、受検者の個人情報保護のため守秘義務が生じます。しがたって、担当者が個人のチェック結果を公開してしまうなどの違反があった場合は刑罰の対象となります。
ストレスチェックの実施フロー
ストレスチェックの実施フローを以下に示します。
ストレスチェックを効率的かつ効果的に実施するために、しっかりと確認しておきましょう。
◆ストレスチェック実施前の準備①
(明文化と周知徹底)
まず事業者として、ストレスチェックを実施する旨の方針を示しましょう。次に衛生委員会(労働者50人以上の事業場で設置義務がある)で実施日や実施方法などを話し合います。
【話し合う項目】
- 実施日
- 実施対象者
- 質問票の内容
- 高ストレス者の選定基準
- 集団分析の方法
- ストレスチェック結果の保存方法や保存場所
※ここで話し合った内容は、「社内規定」として明文化してください。さらに、すべての労働者にその内容を周知しましょう。
◆ストレスチェック実施前の準備②
(実施体制と役割分担)
ストレスチェックの実施体制と役割分担についても決めておきましょう。
【実施体制の例】
- 制度担当者(ストレスチェックの計画作成や進捗状況を把握する管理者)
- 実施者(医師や保健師、厚生労働省が定める一定の研修を受けた歯科医師・看護師・精神保健福祉士または公認心理師などの有資格者。外部委託可能)
- 実施事務従事者(質問票の回収やデータ処理、結果送付など実施の事務を担当する者。外部委託可能)
- 面接指導の担当医師(高ストレス者に対して行われる面接指導を担当)
※これらは1人で複数の役割を兼ねることも可能です。実施者のように資格が必要な役割もあるので注意してください。
◆質問票の内容
質問票の内容については、以下の3つの領域に関する項目が含まれていれば特に規定はありません。
① 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
② 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
③ 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
厚生労働省が推奨している「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が一般的に使用されていますが、「新職業性ストレス簡易調査票(80項目)」といったものがあります。ITシステムを利用したオンラインの質問票もありますので、まずは基本的なところから始めたいという企業は活用してみるとよいでしょう。
◆実施行程①質問票の配布・受検・回収
スケジュールに従って、実施日に質問票を配布します。
従業員に回答してもらった後は、記入した回答が見えないように封筒に入れて回収BOXに投函してもらったり、ストレスチェックの「実施者」または「実施事務従事者」が回収するようにしてください。また、この回答が記入された質問票の取り扱いには十分に注意してください。
実施者と実施事務従事者以外の第三者(特に人事権を持つ職員)が閲覧することは禁止されています。
◆実施行程②ストレス状態の評価
回収した質問票をもとに、実施者がストレス状態の評価を行います。実施者には、医師や保健師、または厚生労働省が定める研修を受けた看護師などの有資格者しかなることはできません。
個々の労働者のストレスがどの程度であるかを数値化し、「高ストレス者」を選定します。
◆実施行程③結果の通知
個々の労働者がどの程度のストレスを抱えているのか、高ストレス者に該当するのかといったストレス状態の評価は、直接本人に通知します。受検者本人の同意がなければ企業がこの評価結果を入手することはできないので、注意が必要です。
◆実施行程④結果の保存
ストレスチェックの結果は、実施者もしくは実施事務従事者が保存します。ここでも第三者に閲覧されないように鍵やパスワードなどでロックし、厳重に保管しなければなりません。また、結果の記録は5年間の保存義務があります。
◆実施行程⑤労働基準監督署に対する結果の報告
ストレスチェックの結果と、その後に実施される面接指導の実施状況などは、毎年「労働基準監督署」に報告する必要があります。所定の様式で報告書を作成し、忘れずに報告してください。
この報告を怠ると、50万円以下の罰金が科せられます。※ストレスチェックの実施には手間や時間がかかり、担当者には大きな負担となります。一連の流れを代行するサービスを提供する企業もあるので、それを利用するのも1つの手でしょう。
ストレスチェック後に企業が行うべき対応と注意点
ストレスチェックで「高ストレス者」と判定された人がいた場合、その後の対応も必要になります。高ストレス者が出ないような働きやすい職場環境を整えておくことが理想ですが、高ストレス者が出てしまった場合の対応法もしっかりと把握しておきましょう。
◆労働者からの申し出
ストレスチェックで高ストレス者と判定された人のなかから医師による面接指導が必要な人が選定され、ストレスチェックの結果とともに面接指導が必要なことが本人に通知されます。しかし、医師の面接指導が必要な高ストレス者に選定されたからといって、面接指導を受ける義務はありません。面接指導を受けるか否かは受検者の判断になるので、面接指導を受ける場合は、企業に対し本人が申し出る必要があります。また、その申し出は結果通知から1ヵ月以内に行う必要があります。企業は、申し出があってから1ヵ月以内に面接指導の場を設定するようにしましょう。
◆医師による面接指導
面接指導は、産業医、もしくは産業保健活動を受け持つ医師が行うことが推奨されています。医師は面接指導の対象者から勤務状況や職場環境などについて情報を収集し、高ストレスとなった原因を分析し、改善のために必要な措置を考えます。
◆医師からの意見聴取
面接指導終了後、担当した医師に対して企業が意見聴取を行い、就業上の措置が必要かどうかを判断します。例えば、医師が「高ストレスの原因は長時間労働にある」と判断した場合、企業はその労働者の「労働時間を短縮するための措置」をとる必要があるでしょう。意見聴取は、面接指導後1ヵ月以内に行う必要があるので注意してください。
◆面接指導の結果は5年間保存
面接指導については記録を作成し、事業場で5年間保存する必要があります。医師からの報告を受ける際に、これらの内容が含まれているかを確認しましょう。
【記録内容】
- 実施年月日
- 労働者の氏名
- 面接指導医師の氏名
- 労働者の勤務状況
- 労働者のストレス状態や心身の状態
- 医師の意見(就業上の措置)
◆集団分析と職場環境の改善
高ストレス者と判定された人がいる職場では、職場環境がストレスの原因となった可能性を考える必要があるでしょう。企業としては職場環境を分析し、問題点を改善しなければなりません。分析方法としては、ストレスチェック結果の「集団分析」があります。部署や課、グループなど一定規模以上の集団ごとに集計・分析を行うことによって、改善すべき問題点が見えてきます。ただし、少人数の集団では個人の特定につながるおそれがあるため、集団の規模としては原則10人以上に限るとされています。
◆注意点①個人情報の保護
個人情報の保護とは、ストレスチェックの結果や面接指導の内容など、個人のプライバシーに関わる情報を事業者が不正に入手してしまうことがないよう適切に管理することです。どうしても社内で情報共有する必要がある場合は、本人の同意を得たうえで、その範囲を最小限にとどめるようにしてください。個人情報の取扱いに不正が発覚した場合は守秘義務違反となり、刑罰の対象となります。
◆注意点②不利益な取り扱いの禁止
事業者は、ストレスチェック制度において労働者が自分の権利を行使したことを理由に不利益な扱いをすることが禁じられています。労働者の権利とは以下の通りです。
【労働者の権利】
- ストレスチェックを受けない
- ストレスチェックの結果を事業者へ提供しない
- 面接指導の申し出をする
- 面接指導を受けない
労働者は、ストレスチェックや面接指導を受ける権利を持つと同時に、受けない権利も持っています。また、面接指導の結果を理由に、解雇や雇い止めを行ったり、退職を勧めたりすることも禁じられています。もちろん、不当な動機で配置転換や職位の変更を行うことも禁じられています。
企業がストレスチェックを行うメリット
このようにストレスチェックには様々な準備や体制の構築が必要であり、導入するのは大変という印象を受けた方も多いのではないでしょうか?時間や費用がかかってしまうため、あまり積極的になれない企業も多いかもしれません。しかし、ストレスチェックを実施することは、企業にとっても多くのメリットがあります。
◆労働者の保護
ストレスチェックを実施することで、メンタルヘルス不調になりうる労働者を早期に発見することができるかもしれません。高ストレス者と判定された労働者に対してセルフケアを勧めたり、医師による面接指導を行うなど適切な対応を行うことは、休職や離職など企業にとって不利益な事態を回避することにもつながります。
◆職場環境の改善
受検した結果を集団分析することによって職場環境を可視化することができ、職場の問題点を発見することができます。職場の問題点を分析して改善策を講じることは、労働者のパフォーマンスの向上につながるはずです。企業としての生産性の向上を目標に、個人単位、部署単位で細かな改善を重ねていきましょう。
◆リスクの軽減
もし労働者の自殺という事態が生じれば、企業としては大きな損失になり、イメージダウンにもなるでしょう。ストレスチェックの目的は労働者のメンタルヘルス不調を予防することであり、この制度を実施することは労働者の自殺防止にも役立つでしょう。
★ストレスチェックは企業にも労働者にも有益★
一般的な生活をしていれば、少なからずストレスを感じるものですが、自分がどの程度のストレスを抱えているのかを自身で把握するのは難しいでしょう。そのため、企業が個人のストレス状態の把握をサポートする「ストレスチェック制度」が創設されたのです。従業員が健康的に生き生きと働くことができれば、企業自体の成長につながります。実施の義務対象ではない企業でも、ぜひ積極的にストレスチェックの実施を検討してみましょう。
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〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:ストレスチェック制度導入マニュアル(PDF)
- 厚生労働省:ストレスチェック制度関係Q&A(PDF)※令和3年2月更新
- 独立行政法人 労働者健康安全機構:「ストレスチェック」実施促進のための助成金の手引(令和4年度版)(PDF)
- 独立行政法人労働者健康安全機構: 令和4年度版 産業保健関係助成金
初出:2018年01月30日 / 編集:2022年04月13日 |