本コラムでは、当社発表の「ストレスチェック業界平均値レポート2021」から、「宿泊業,飲食サービス業」 の結果について、詳しく解説いたします。
前回の「運輸業」に引き続き、まずは業界で働く方々の現状とストレス傾向の概要をより広く理解するために、厚生労働省「令和3年版過労死等防止対策白書」にまとめられている調査報告をご紹介したうえで、当社の業界平均値「宿泊業,飲食サービス業」の結果とその特徴を見ていきます。ストレスチェックの集団分析結果の見方のポイントも併せてお伝えしますので、ぜひご自身の職場環境を振り返る際の参考にしてみてください。
※株式会社情報基盤開発は、2021年中に「AltPaperストレスチェックキット」をご利用いただいたお客様からデータをご提供いただき※1、「高ストレス者」※2の割合・「総合健康リスク」※3・「各種ストレス尺度」について業種別に平均値を算出した 「ストレスチェック業界平均値レポート2021」を公開いたしました。(【調査方法】 については、記事の末尾に記載しております。)
「令和3年版過労死等防止対策白書」 から業界のストレス傾向を分析
まずは、宿泊業・飲食サービス業界で働く方々の現状とストレス傾向の概要をみていきましょう。
厚生労働省は「令和3年版過労死等防止対策白書」のなかで、重点業種の一つとして外食産業を挙げ、外食産業を含む「宿泊業,飲食サービス業」の精神障害事案の分析や労働行政機関などの施策の状況等を発表しています。「宿泊業,飲食サービス業」に従事している方々に過労死等が多発していることから、このような調査・分析がなされています。
ここでは「宿泊業,飲食サービス業」のなかでも、おもに外食産業についてまとめられた調査報告から、業界で働く方々の現状とストレス傾向の概要を見ていきます。実際の労災認定のうち「仕事のストレス (業務による心理的負荷)が関係した精神障害」のきっかけとなった具体的な出来事の調査については後述しますが、こちらは「宿泊業,飲食サービス業」全体の数値です。
ストレス・悩みの種は「職場の人間関係」が最も多い結果に
外食産業について、業界で働く方々を対象としたアンケート調査の結果を見てみると、約6割の方が業務に関連したストレスや悩みが「ある(あった)」と回答しており、その内容としては「職場の人間関係」が全体で最も多くなっています。詳しい内容については、以下のとおりです。
ストレス内容に対する回答割合
<全体>
「職場の人間関係」(37.7%)
「売上・業績等」(34.2%)
「休日・休暇の少なさ」(27.7%)
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<職種別>
・スーパーバイザー等:
「売上・業績等」(43.8%)
「職場の人間関係」(32.0%)
「休日・休暇の少なさ」(25.8%)
・店長:
「売上・業績等」(53.8%)
「休日・休暇の少なさ」(33.1%)
「時間外労働の長さ」(28.0%)
・店舗従業員:
「職場の人間関係」(48.3%)
「賃金水準の低さ」(28.7%)
「不規則な勤務による負担の大きさ」(27.8%)
店舗従業員では「職場の人間関係」の割合が特に高く、スーパーバイザー等、店長では「売上・業績等」や「休日・休暇の少なさ」の割合が高くなっています。
「時間外労働の長さ(25.3%)」「休日・休暇の少なさ(27.7%)」「不規則な勤務による負担の大きさ(25.6%)」の割合が全体的に高いのも業界の特徴ではないでしょうか。
職種別では、スーパーバイザー等が最も多くストレスや悩みを抱えているようです。
パワハラは年代が下がるほど多く、4割が「カスハラ」を受けていると感じている
また、職場でのパワーハラスメントの有無については、「ハラスメントを受けていた(いる)」割合は全体の8%程度ですが、年代別にみると20歳代男性では25%にのぼり、男女ともに年代が下がるほど割合が高いという結果も。
さらに、顧客からの理不尽な要求・クレーム、暴言・暴力等の有無について、理不尽な要求・クレーム・暴言などがある(「よくある」「たまにある」を合算)と回答した人の割合は37.5%と、4割近くの従業員がいわゆる「カスタマーハラスメント」を受けていると感じており、その中でも特にスーパーバイザー等(47.7%)に就く方々がカスハラに頭を悩ませているようです。
調査実施時点はパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の施行前のため、現在の状況とは若干異なる点もあるかもしれませんが、いずれにしても、接客業という業種上発生する可能性のあるカスタマーハラスメントを含む、ハラスメント等による負担・課題に対しては、早急な対策が求められています。
コロナ禍で労働時間減少、休暇取得しやすくなったという人も。一方でストレス増加の懸念も。
実際に労災として認定された精神障害事案とその具体的なきっかけとなった出来事を見てみると、以下の順に多くなっています。
具体的出来事別の精神障害事例数(「宿泊業,飲食サービス業」の労災認定事案)
・「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」(22.4%)
・「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」(21.5%)
・「仕事内容・量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(18.7%)
・「2週間以上にわたって連続勤務を行った」(15.4%)
この結果を受け、厚生労働省の分析では「長時間労働の削減に向けた取組を行う企業に対して必要な支援を行うとともに、カスタマーハラスメントを含めた職場のハラスメント防止の取組を進める必要がある」と指摘しています。
アンケート調査の結果では、約4・5年前と比べて「労働時間が短くなった」「休日・休暇を取得しやすくなった」と回答していた方がいずれも約3割~3.5割程度いることから、企業側の働き方改革や尽力もあってか、少しずつ長時間労働による負担感は緩和しつつあったようですが、さらに、それに加えて新型コロナウイルス感染症の影響が重なり、約6割の人が「労働時間が短くなった」、約3割の人が「休日・休暇を取得しやすくなった」と感じているようです。
ただその一方で、4割弱が「業務に関連するストレスや悩みが増えた」と回答していることから、労働時間が減り、休日・休暇を取得しやすくなったからといって、ストレス軽減につながったとは言い切れません。
また、これに関連して、企業を対象としたアンケート調査では、約5割の企業が「人手不足感が少なくなった」と回答しています。これは一見するとよい傾向かのようにも捉えられますが、実際にはコロナ禍での営業時間の短縮や勤務体制の変更などにより人手が必要なくなった、人員の削減などにつながったゆえの実感である可能性も考えられます。事実、緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置の発令・解除前後の雇用状況を調査した結果からも、宿泊・飲食サービス業で働く方々の数は、コロナ前と比べると52万人減と大幅に減少し、転職率の高い状態が続き、新規就業者の数も減少ペースが加速しているだけでなく、中小企業では特に事業継続が困難さを増し、失業者数が急増するリスクが高まっているとの注意喚起がなされています。「人手不足感が少なくなった」と多くの企業が感じている背景にも着目しておく必要があるでしょう。
こうした不安定な雇用状況のなかでは、従業員のストレスや生活への不安の高まりを可能な限り軽減し、いかに業務への影響を最小限にとどめるかを考え、対策を取ることが今一層企業に求められているのではないでしょうか。そこで、厚生労働省はストレスチェックにより気付きを促進し、集団分析結果を活用した職場環境改善の推進が求められていると指摘し、白書は締めくくられています。
宿泊業・飲食サービス業の業界平均値、特徴は?
さて、ここからは、当社サービス「AltPaperストレスチェックキット」をご利用の皆様からご提供いただいた2021年中の実施データから、「宿泊・飲食サービス業界」の結果とその分析をご紹介します。
2021年度の宿泊業・飲食サービス業の業界平均値は、総合健康リスク101、高ストレス者割合16%となりました。
A. 農業・林業, B. 漁業, D. 建設業 E. 製造業 F. 電気・ガス・熱供給・水道業 G. 情報通信業 H. 運輸業, 郵便業 I. 卸売業, 小売業 J. 金融業・保険業, K. 不動産業・物品賃貸業 L. 学術研究, 専門・技術サービス業 M. 宿泊業, 飲食サービス業 N. 生活関連サービス業, 娯楽業 O. 教育, 学習支援業 P83. 医療業 P84-85. 保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業 Q. 複合サービス事業、R. サービス業(他に分類されないもの), S. 公務(他に分類されるものを除く) T. 分類不能の産業
総合健康リスクは、厚生労働省が基準としている全国平均値(100)と同程度なのに対し、高ストレス者割合は、全国平均値(10%)と比較して高い数値です。
2021年度の「宿泊業, 飲食サービス業」の結果は前年度と比較してさほど大きな変化は見られなかったものの、高ストレス者割合が依然として高い傾向にあります。これは全国平均だけでなく、他の業界と比較しても高い数値で、全業界で2番目に高ストレス者の数が多いという結果になりました。
各尺度ごとに比較すると、「宿泊業,飲食サービス業」には、「働きがい」をもって仕事をしている方が全国平均と比べてやや多くいらっしゃるようです。この値はストレスの感じ方や負担感にも大きく影響してきますので、今後も維持していきたいポイントです。
一方で、「自覚的な身体的負担」の度合いは非常に高く、全業界のなかで数値が最も高い業界(保健衛生・福祉・介護業界)に0.3ポイント差に迫るほど、他の業界と比べても負担を感じている方が多いという結果が出ています。これは「疲労感」「不安感」「身体愁訴」などストレス反応にも表れており、負担感の高さから、すでになんとなく体調がすぐれない、病院に行くまでとはいかないものの、心身になんらかの不調を感じながらお仕事をされている方、不安を抱えている方がいることを示しています。これが「高ストレス者割合」に影響しているのでしょう。
その他、業界の特徴的な面が多く出ている部分としては、「技能の活用度」や「仕事の質的・量的負担」に関わる尺度の男女差が大きい点が挙げられます。特に「技能の活用度」に関しては、女性は全国平均を上回り、ご自身のスキルや経験を生かすことができると感じている傾向にあるのに対し、男性は47.4と全国平均を下回る数値です。男性の数値自体については他業界でも平均を上回る結果はそう多くはないことや、同じ業界の中でもさまざまな職種が含まれるため一概に言えませんが、一般的に、技能の活用が不良な状態が長く続くことは、ストレスや心身の不調、働きがいを得られるか否かにも影響してくることがありますので、注意が必要です。
逆に「仕事の質的・量的負担」については、女性の方により負荷がかかっていることが見受けられますが、それが「抑うつ感」や「身体愁訴」の値に大きな影響を与えていないこと、「イライラ感」が少なく「仕事や生活に対する満足度」などが平均より高いことから、おそらく「上司からの支援」を得ながら、職場内で協力して仕事を進めることができている方が多くいらっしゃるのではと考えられます。それが「働きがい」の高さにもつながる一因となっているのかもしれません。
しかし、「自覚的な身体的負担」「仕事の質的・量的負担」感は、きちんと回復することができないと、本格的な心身の不調や病気につながる可能性が高くなりますので、定期的な休暇取得の推奨や、残業・長時間労働が定着していないかを見直すなど、改善のために対策を講じることをおすすめいたします。自分の時間確保することで「家族・友人からの支援」も得やすくなります。
今回、当社の業界平均値では「職場の対人関係上のストレス」について、多少の男女差はあるものの、平均値から大幅に外れる数値はみられませんでしたが、すでにご紹介した厚生労働省の調査で「職場の人間関係」の悩みを抱えている方が4割近くにのぼっていたこと、カスタマーハラスメントを含むハラスメントの問題とも密接にかかわる業界・業種であることを考えると、職場のコミュニケーションを円滑にする取り組みや、ハラスメント対策の検討も大切です。
「宿泊業, 飲食サービス業」 は、日々の業務の中でお客様をはじめ、多くの方々と接する接客業に従事する方が多く含まれる業界です。新型コロナウイルス感染症の影響を最も強く受けた業界のひとつで、「宿泊業, 飲食サービス業」は特に雇用、労働時間、賃金等ともに影響を受けているというデータも出ています。いまだ収束の兆しの見えないなか、感染リスクと常に隣り合わせの状況が続くのに加えて、経済的な不安や目に見えない・気づいていないストレスも多いことと思います。
定期的なストレスチェックの実施は、従業員の方々がご自身のストレスに気づきやすくなるだけでなく、集団分析結果を有効に活用することで、職場内で体調不良やメンタル不調で悩む人が増えるのを未然に防ぐことにもつながります。ご自身の職場に今何が必要なのか、どんな対策をすることで従業員の皆さまがより働きやすくなるのかなどを検討する材料として、ストレスチェックの活用をおすすめいたします。
また、カスタマーハラスメントを含むハラスメント対策については、2022年4月より中小企業でも対応が義務となっています。具体的な取り組みや対策のポイントをまとめた「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル 」も厚生労働省より公表されていますので、ハラスメント相談窓口の設置などと併せて、「カスタマーハラスメント対策」への取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
「ストレスチェック業界平均値2021レポート」資料を無料ダウンロード配布中
下記フォームよりお申込みいただくと、「ストレスチェック業界平均値2021レポート」資料(PDF)をメールにて送付いたします。
【調査方法】
この度算出いたしました2021年「業界平均値」データは、当社サービス「AltPaperストレスチェックキット」を2021年中にご実施いただいた事業者を対象に、集団分析結果のご提供の承諾を個別に伺い、同意いただいた事業者のデータのみを用いて分析を行ないました。
2021年12月末日までに当社で集計を完了した1525事業者の男性207,679名、女性162,568名を含む約37万名のデータが含まれます。
※2021年単年の「AltPaperストレスチェックキット」導入事業者数は約33,00法人、受検者数は約90万人比較の基準としている「全国(厚労省データ)」は、“厚生労働省科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業「職業性ストレス簡易調査票及び労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストの職種に応じた活用法に関する研究」平成19年度総括・分担報告書 表4 職業性ストレス簡易調査票下位尺度の職種別平均値及び標準集団との比較”が出典です。
集計につきましては、事業者様のデータについて全参加者データ・男性参加者データ・女性参加者データの3軸に分け、高ストレス者の出現割合、健康リスク、各尺度の平均値を業種ごとに算出しました。なお全参加者データにつきましては、「男性」の基準値を用いて総合的な数値の算出、比較・分析を行っております。
※1 データの取り扱いについて:
・各事業者様にご提供いただいたデータにつきましては、業種・規模・地域をお伺いして分類することとし、個々の事業者様・受検者様を識別できないようにして取り扱っております。
・各受検者様の回答につきましては、性別・職種と57項目・80項目の回答データのみ使用することとし、個人を識別できないようにして取り扱っております。
※2 「高ストレス者」とは:
厚生労働省(令和元年7月)が公表したマニュアルに基づいており、以下(1)及び(2)に該当する者を指します。(1)及び(2)に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度を基準とします。
(1)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
(2)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」
及び「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※3「健康リスク」とは:
基準値として設定された全国平均値100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」とは、 男女別に求められた量-コントロール判定図と職場の支援判定図から構成されます。この二つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:
令和3年版過労死等防止対策白書 第4章 過労死等をめぐる調査・分析結果
令和3年版労働経済の分析─新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響─
- ニッセイ基礎研究レポート:
コロナ禍における労働市場の動向-失業率の上昇が限定的にとどまる理由
雇用関連統計22年3月-まん延防止等重点措置の解除を受けて、雇用関連指標が改善
雇用関連統計22年4月-まん延防止等重点措置の解除を受けて、雇用情勢は大きく改善
初出:2022年08月17日 |