2024年4月以降、段階的に「障害者の法定雇用率」が変わります:民間企業対象の制度とは?

障害者雇用の給付・認定制度、ご存じですか?改正「障害者雇用促進法」、民間企業対象の支援強化へ

現在の民間企業における障害者の法定雇用率は「2.3%」となっています。具体的な人数で表すと「43.5人(常用雇用労働者)に対して、障害者1人以上を雇用」する義務があります。
この雇用率は、令和5年度より段階的に「2.7%」に引き上げられる予定です。(令和5年度は2.3%に据え置き、令和6年度は2.5%、令和8年度から2.7%に。
 
法定雇用率は、障害者雇用促進法に基づき、少なくとも5年毎に、その割合の推移を勘案して設定することとされています。厚生労働省発表の「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、民間企業で雇用されている障害者の数は61万3,958人で、前年より2.7%増加し、過去最高を記録しました。実雇用率は2.25%で、48.3%の企業が法定雇用を達成しています。一方で、令和4年の法定雇用率未達成企業は55,684社。そのうち不足数が0.5人または1人である企業(1人不足企業)が、65.4%と過半数を占めています。
 
つまり、あと0.5人~1人の障害者を雇用できれば、法定雇用率を達成できる企業は少なくない、ということがわかります。
実際、これまで短い時間で働く障害者の雇用が実雇用率に算定されなかったり、算定の基準が設けられていたりなどにより、働きたい・働ける方がいるにもかかわらず、企業のメリットとならないために雇用に結びつかなかったケースも多くあるのではないでしょうか。
 
そこで、政府は、特に短い労働時間(週10~20時間)で働く障害者の方の実雇用率への算定や、雇用促進のために活用できる助成金の創設を新たに行う方針を示しています。今後、制度を効果的に活用していくことで、障害者の雇用を確保し、法定雇用率を達成できる可能性があります。
 

※この記事では、2020年4月より改正・施行されている現行の障害者雇用促進法の内容に加えて、2022年12月に可決・成立した障害者支援法等(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等)の改正案に合わせて改正された変更点を追記してご紹介しています。

2023年度(令和5年度)は据え置きも、2024年度(令和6年度)より段階的に引き上げになる法定雇用率新たに創設される助成金の情報も含めて、民間企業の人事・労務担当者の方が知っておくとよい内容を改めて解説します。

 

障害者雇用促進法の一部改正で何が変わった?

現行の障害者雇用促進法は、2020年4月1日より下記の内容が追加され、施行されたものです。当時、障害者雇用促進法が改正された背景には、2018年に発覚した公的機関による対象障害者の確認・計上の不正などがありましたが、民間事業主への障害者雇用に向けた取り組みを促進するべく2020年4月1日から民間企業に対して以下2つの改正措置が施行されています。

  • 事業主に対する給付制度
  • 優良事業主としての認定制度の創設

まずは事業主に対する「特例給付金」、「優良事業主の認定制度」について確認しましょう。

 

1.事業主に対する給付制度

一つ目は、事業主に対する給付制度 「特例給付金」 です。
正式には「週所定労働時間20時間未満の障害者の雇用に対する支援」とされ、週20時間未満の雇用障害者数に応じて、事業主に給付金が支給されます。特に短い時間であれば働くことができる、障害のある労働者を雇用する事業主に対する支援として、令和3年度申告申請より「特例給付金」が支給されることになりました。
(※詳しくは、下記下記関連リンクより、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のページでご確認ください。)
 
以前は、週所定労働時間20時間未満の雇用障害者は雇用率制度の対象とはならず、事業主は障害者雇用調整金などの支援が受けられませんでした。その一方で、障害特性などにより長時間の勤務が難しい方が一定数いること、短い時間であれば安定して働ける方がいることなどが課題となっていたことから、法改正で「障害者雇用率制度」の対象となる障害労働者の枠組みが変わり、対象となる事業主に給付制度が設けられることとなりました。
 

具体的な枠組みと給付される金額

事業主に対する給付制度の具体的な枠組み・金額の内容は以下のとおりです。
 

  • 週所定労働時間20時間未満の労働者に対して、事業主に給付金を支給
  • 雇用率制度の対象となる障害者はこれまで通り「週20時間以上の労働者」
  • 支給対象となる雇用障害者の所定労働時間は10時間が下限
  • 支給額の単価は調整金・報奨金の4分の1程度
  • 支給期間は限定しない

【対象者のイメージ】

週所定労働時間雇用率制度障害者雇用納付金障害者雇用調整金給付金
30時間以上×
20時間〜30時間×
10時間〜20時間××
10時間未満×××

※さらに事業主支援が強化されます!
■今後の変更点(2023年3月1日現在):
◆助成金の新設・拡充
既存の障害者雇用関係の助成金(令和6年4月以降)
障害者介助等助成金(障害者の雇用管理のための専門職や能力開発担当者の配置、介助者等の能力開発への経費助成の追加)や職場適応援助者助成金(助成単価や支給上限額、利用回数改善等)の拡充、職場実習・見学の受入れ助成の新設など、事業主に対する障害者雇用の支援を強化。

雇入れやその雇用継続に関する相談支援、加齢に伴う課題に対応する助成金を新設 (令和6年4月以降)
・ 障害者雇用に関する相談援助を行う事業者から、原則無料で、雇入れやその雇用継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する相談援助を受けることができるようになります。
・ 加齢により職場への適応が難しくなった方に、職務転換のための能力開発、業務の遂行に必要な者の配置や、設備・施設の設置等を行った場合に、助成が受けられるようになります。
 
◆障害者の算定方法の変更
精神障害者の算定特例の延長(令和5年4月以降
週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者について、当面の間、雇用率上、雇い入れからの期間に関係なく、1カウントとして算定できるようになります。
 
一部の週所定時間20時間未満の方の雇用率への算定(令和6年4月以降
週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害および重度知的障害者について、雇用率上、0.5カウントとして算定できるようになります。

 

2.優良事業主としての認定制度

二つ目は、優良事業主としての認定制度についてです。
正式には「障害者雇用に関する優良な事業主の認定制度(もにす認定制度)」とされ、条件を満たした常用労働者300人以下の中小企業は、申請によって優良な事業主として認定されます。障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組の実施状況などが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する制度です。「もにす」という愛称は、共に進む(ともにすすむ)という言葉と、企業と障害者が共に明るい未来や社会に進んでいくことを期待して名付けられたそうです。

優良事業主としての認定制度の概要とメリット

障害者雇用に関する優良な中小企業認定制度はポイント制で行われます。
評価項目は以下の項目に対して評価点を加算し、大項目ごとに定められた合格最低点と、全部を合計した最低合格点を超えた企業が優良事業主として認定されます。
 

障害者雇用の「取組(アウトプット)」
体制づくり1. 組織面 2. 人材面
仕事づくり3. 事業創出 4. 職務選定・創出
5. 障害者就労施設等への発注
環境づくり6. 職務環境 7. 募集・採用 8. 働き方
9. キャリア形成 10. その他の雇用管理
障害者雇用の「成果(アウトカム)」
数的側面11. 雇用状況 12. 定着状況
質的側面13. 満足度、ワーク・エンゲージメント 14. キャリア形成
障害者雇用の「情報開示(ディスクロージャー)」
取組(アウトプット)15. 体制・仕事・環境づくり
成果(アウトカム)16. 数的側面 17. 質的側面

 

優良事業主と認定された中小企業には以下のようなメリットがあります。
 

  • 自社の商品や広告等で認定マークが使用できる
  • 認定マークによって働き方改革などの広報効果が期待できる
  • 障害の有無に関係なく、幅広い人材の採用・確保の円滑化につながる

など、様々な方面で自社のアピールが可能となります。
 

2023年最新情報!新たな事業主向けの支援まとめ

2022年12月の臨時国会で成立した、障害者雇用促進法の改正に基づき、令和6年4月より下記の変更が予定されています。(※令和6年度からの制度の詳細は、次回以降の分科会で議論予定)

◆助成金の新設・拡充
既存の障害者雇用関係の助成金(令和6年4月以降)
雇入れやその雇用継続に関する相談支援、加齢に伴う課題に対応する助成金を新設 (令和6年4月以降)
◆障害者の算定方法の変更
精神障害者の算定特例の延長(令和5年4月以降
一部の週所定時間20時間未満の方の雇用率への算定(令和6年4月以降

特に、中小企業や除外率設定業種に対しては、助成金の上乗せ等を行うことや既存助成金の拡充により、雇用率の引上げや除外率の引下げの影響を受ける事業主への集中的な支援を行うことを通じて雇入れや定着支援の充実等を検討しているとのことです。

また、このほかにも、

・障害者の雇用に関するノウハウが不足している障害者雇用ゼロ企業等に対して、ハローワークが地域障害者職業センター等の関係機関と連携し、採用の準備段階から採用後の職場定着まで一貫したチーム支援等を実施するなど、障害者の雇入れ支援等の一層の強化を図る
・令和5年度予算案に就職支援コーディネーター(ハローワークにおいて企業に対するチーム支援に取り組む者)の増員、障害者の雇入れや定着支援を行う障害者就業・生活支援センターの人材確保や支援力の強化を図るため、就業支援担当者の処遇の改善を盛り込む
 
など、障害者の法定雇用率の達成に向けて取り組む企業の皆さまのサポートとなるような施策も検討されているとのことですので、2023年度(令和5年度)より段階的に引き上げになる法定雇用率と併せて、最新情報に注目しておくとよいでしょう。


障害者雇用率を満たしていない企業がまだまだ少なくない中、先駆けて障害者の雇用促進を行う中小企業にはさまざまなメリットが享受されるようになります。
 
会社の生産性向上は「どんな人でも働ける職場」から。この法案改正を機に、新たな「人材の獲得」が各社で始まろうとしています。
 

 

 

〔 参考文献・関連リンク 〕

初出:2019年09月13日 / 編集:2023年3月10日

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