事業者が労働者に対して行うことが義務付けられている健康診断としては、雇い入れ時の健康診断や特定の業務に従事させる場合の健康診断等いくつかありますが、このなかでも一番馴染みのあるものは一般定期健康診断でしょう。
これらの医師による健康診断の結果は、事業者に提出しなければならないのでしょうか。事業者に健康診断の結果を提出すれば、当然上司や人事部に個人の健康に関する情報が知られてしまうことになります。個人のプライバシーの観点から提出したくないという人もいるでしょう。従業員の健康診断結果の提出義務について、以下にまとめました。
一般定期健康診断についての法令
労働者が医師による一般定期健康診断を受けることの根拠は、労働安全衛生法の第六十六条に記述されています。下記のように、労働安全衛生法によって健康診断を受検することが義務付けられており、具体的な健康診断の内容は労働安全衛生規則に詳細に定められています。
第六十六条
〈労働安全衛生規則〉
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
労働安全衛生規則では「常時使用する労働者」を対象として「一年以内ごとに一回、定期に」健康診断を行うことが義務付けられており、その内容についても以下に示す11の検査項目が具体的に決められています。
第四十四条
〈労働安全衛生規則〉
事業者は、常時使用する労働者に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 既往歴及び業務歴の調査
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、視力及び聴力の検査
四 胸部エックス線検査及び喀痰検査
五 血圧の測定
六 貧血検査
七 肝機能検査
八 血中脂質検査
九 血糖検査
十 尿検査
十一 心電図検査
健康診断の結果は事業者に提出しなければならないのか?
上記の法令に基づいて各労働者が強制的に受検させられた健康診断については、事業者に内容を知る権利はあるのでしょうか。
事業者と労働者の関係は雇用契約により定められています。労働者は事業者が定める業務を行い、事業者から給与が支給されます。したがって、労働者が契約により定められた業務を行える健康状態にあるか否かは非常に重要で、この契約内容を確認するためにも事業者が労働者の健康状態を把握することは当然のことと言えます。また、健康診断の結果について労働安全衛生法には次のような規定があります。
(健康診断の結果の通知)
〈労働安全衛生法〉
第六十六条の六
事業者は、第六十六条第一項から第四項までの規定により行う健康診断を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該健康診断の結果を通知しなければならない。
第六十六条の六においては、健康診断の結果については事業者が労働者に通知しなければならないとなっています。
(賞罰)
〈労働安全衛生法〉
第百二十条
次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 ・・・、第六十六条の六、・・・
賞罰に関する規定を定めた第百二十条には、50万円以下の罰金に処される可能性のある労働安全衛生法に定められた義務の根拠条文の番号が並んでいます。
このなかに、「第六十六条の六」が確認されますので、事業者が労働者に健康診断の内容を通知しなかった場合は50万円以下の罰金が科される可能性があります。この規定から、個々の労働者の健康診断の結果は実施機関から会社が取得することは当然のこととされていることがわかります。
実際は労働者に健康診断を受検させ、その結果を本人から回収する手順で実施している事業所は多いと思われますが、本来は会社が先に結果を入手し、その後で本人に通知すべきであると考えられるでしょう。事業者には労働安全衛生法の第六十六条で定められている健康診断を実施し、その結果を通知する義務があると言えます。
法定の健康診断項目については事業者が結果を入手することになりますが、法定外の項目(各健康保険組合で実施されたオプション健診等)の取り扱いはどのようになるのでしょうか。この場合は個人の情報管理に関する原則に立ち戻り、本人の同意を得なければ法定外の健康診断項目の結果を事業者が入手することはできません。したがって、事業者としてはその結果を通知することに同意することを条件として受検させる取り扱いをすることになるでしょう。このような場合においては、例えば法定項目とそれ以外の項目が一覧に記載されているからと言って、結果表の提出を拒むことはできません。
上記のように、健康診断に関する情報は会社に帰属するものですが、実際は労働者を経由して結果を入手する流れになっていることがよくあります。これは、事務手続きを簡便に行うためという理由もありますが、労働者への配慮とも考えられます。自分の健康診断の結果を会社が先に確認し、その後で医療機関ではなく会社から結果を通知されることに抵抗を感じる人は少なくないのです。
初出:2017年11月24日 / 編集:2019年07月16日 |