従業員の健康問題に起因した生産性の損失を表す指標のひとつとして、注目され始めた「プレゼンティーズム」や「アブセンティーズム」。経済産業省が推進する「健康経営銘柄」の評価指標として、ご存じの方も多いかと思います。
特に「欠勤してはいないものの、健康問題を抱えながら働くことで生産性が低下している状態」を意味する「プレゼンティーズム」は、経営上大きなコスト損失を生むことがわかっています。
プレゼンティーズムによる損失額が計算できるのはご存じでしょうか?
組織の健康経営活動の効果を測る意味でも、これからはプレゼンティーズムを「知る」ことから一歩踏み込んで、「活用する」ための測定を始めてみてはいかがでしょうか。
<本記事でわかること>
■WHO-HPQ?東大1項目版?プレゼンティーズムは【正確な測定】が肝心
・プレゼンティーズムの主な測定方法は5つ!それぞれの特徴は?
・測定結果からプレゼンティーズムの【労働生産性損失】を計算してみよう
■日本人や日本の就労環境にあった調査方法を選ぼう
・世界的に使用されている「WHO-HPQ」
・より日本人に合っている?「東大1項目版」
・サーベイ(調査)は受けやすさ・使いやすさが効果への近道
「そもそもプレゼンティーズムとは何?」という方は、下記記事からご覧ください。
WHO-HPQ?東大1項目版?
プレゼンティーズムは【正確な測定】が肝心
プレゼンティーズムの主な測定方法は5つ!それぞれの特徴は?
経済産業省が配布している『企業の「健康経営」ガイドブック』や「健康投資管理会計ガイドライン」では、プレゼンティーズムの代表的な測定方法として下記の5種類が推奨されています。
測定方法 | 設問 | 特徴 |
---|---|---|
WHO-HPQ | 3問 | 「WHO健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(ハーバードメディカルスクール作成)」を用い、3つの設問で評価する。得点方法が2種類あり、受検者の性格的気質や置かれている環境要因の影響を考えて妥当な方法を選ぶことができる。 |
東大1項目版 | 1問 | プレゼンティーズムの意味をそのまま反映したアンケート(1 項目)。東京大学WGが作成。 |
WLQ | 25問 | WLQ(Work Limitations Questionnaire、タフツ大学医学部作成)の日本語版。※ 全25問の質問項目、4つの尺度(「時間管理」5問、「身体活動」6問、「集中力・対人関係」9問、「仕事の結果」5 問)で構成。体調不良によって職務が遂行できなかった時間の割合や頻度を、5段階、及び「私の仕事にはあてはまらない」から選択する。 |
WFun | 7問 | 産業医科大学で開発された、健康問題による労働機能障害の程度を測定するための調査票。7つの設問を聴取し、合計得点(7~35点)で点数化。点数が高い方が労働機能障害の程度が大きい。日本における先行研究より、「21点以上」が一つの目安。 |
QQmethod | 4問 | 何らかの症状(健康問題)の有無を確認したうえで、健康問題「有り」の場合はそれがどの程度仕事の質や量に影響を与えているかを把握する。自由記述と10段階評価選択制の設問から構成。 |
※WLQ:版権・日本語版作成:SOMPOリスケアマネジメント株式会社(有料)
※WHO-HPQ日本語版の使用については、詳細は産業精神保健研究機構のページでご確認ください。
測定結果からプレゼンティーズムの【労働生産性損失】を計算してみよう
経済産業省公表の「健康投資管理会計ガイドライン」では、健康経営にかかる企業の取り組みを、
ストラクチャー(構造) / プロセス(過程) / アウトカム(成果)
として整理し評価する方法を提示しています。その中で「プレゼンティーズム」は健康経営の質を評価するための【アウトカム指標】として、アブセンティーズムとともに「生産性損失のコスト評価」の算出に用いられます。
「WHO-HPQ」や「東大1項目版」などを使って測定した値を用いることで、プレゼンティーズム(何らかの症状を抱えながら出勤し、業務効率や生産性が低下している状態)が、従業員が十分に能力を活用できている状態と比べて、どれほどの損失を出しているか(労働生産性損失額)を算出することができます。
プレゼンティーズム損失割合(%)= 100% ー プレゼンティーズム(%)
労働生産性損失額(円)= プレゼンティーズム損失割合(%)✖ 賃金(円)
自社のプレゼンティーズムを把握することで、健康投資が生産性向上にどの程度の効果があったのかを数値で評価することも可能となります。
プレゼンティーズム(%)は、測定方法や実施環境によって結果が異なりますが、例えば東大一項目版の場合、日本人の平均は84.9%(プレゼンティーズム損失割合は15.1%)とされています。
日本人や自社の就労環境にあった調査方法を選ぼう
世界的に使用されている「WHO-HPQ」
世界的には、WHO(世界保健機関)によって作成された 「WHO健康と労働パフォーマンスに関する質問紙」(通称: WHO-HPQ) を用いた3設問での調査が主流となっています。
0~10までの尺度からパフォーマンスの度合いを選択するWHO-HPQは、ケスラー教授らのハーバードメディカルスクールが開発・作成しており、検証が十分に行われた信頼性や妥当性のある指標といえます。
しかし得点の評価方法が煩雑で、かつ中央値・平均値を選んでしまう日本人の気質を考慮した評価を行わなければならないという、取り扱いの注意点が指摘されています。
より日本人に合っている?「東大1項目版」
日本人に適したプレゼンティーズムの調査方法として、東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットが開発提唱したものが「東大1項目版」です。自身のパフォーマンスを%で表す設問を用いており、日本人の「極端な選択肢や表現を避ける傾向」を考慮した構造になっています。
病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価してください。
[ ]% (1%から100%)
アンケートの設問数を減らしたいなどの理由により、プレゼンティーズムの意味をそのまま反映したアンケートで、とてもシンプルなものとなっています。
プレゼンティーズムの測定は「働いている人の主観的な回答をもとに行われる」という点は、どの測定方法でも大きく異なるものではありません。
ですが、「WHO-HPQ版」「東大1項目版」それぞれによる先行研究・調査をみると、正式な発表はないものの国内で実施される調査では「東大1項目版」が主な測定方法として普及しているようです。
サーベイ(調査)は受けやすさ・使いやすさが効果への近道
また、WLQ、WFun、QQmethodは年に1回の測定を想定しています。
しかし、ストレスチェックの結果を活かした職場環境改善が十分に進まないことと同様、年に1回の測定では「測定した時点」以外の状態や前後の変化がわかりづらく、改善策を講じるのが難しいという問題点がありました。
近年、この問題点の解決に、より短い頻度で従業員のコンディションを把握する「パルスサーベイ」というツールの導入が進んでいます。従業員のパフォーマンスが日々変化することを踏まえて設計されたこの調査方法は、週1回から月1回の短いスパンで5~15問程度の簡単な質問を繰り返すことで、社員の満足度や現場で起こっている問題などを素早く把握できます。
このサーベイ手法では、高い頻度で調査を行うためなるべく調査を受ける方の負担を軽くすることが望ましいとされています。ご紹介したプレゼンティーズム測定方法の中では、「質問数が少なく、短く、わかりやすい調査」である東大一項目版が「使いやすい」といえるでしょう。
なお、調査を行う際には、各調査で用いられる設問に「著作権・利用権」があることを確認しておく必要があります。翻訳や設問の表現について著作権関係の煩雑さもあるため、当社ではあえて独自設問で実施しています。
生産性向上のためには、従業員がどれだけのパフォーマンスで仕事に取り組めているのかを把握し、具体的な改善策を取り入れることが必要です。自社のプレゼンティーズムを測定することにより、社内施策の効果を可視化できるだけでなく、結果を公表することで従業員自身が振り返りセルフケアに活用することもできます。
「今、組織の現状はどうなのか」をしっかりと理解し、検討・対策を行うことが、従業員の仕事への意欲を高め、企業の生産性を底上げにつながります。
する設問を追加することをおすすめしています。まずは、従業員様のプレゼンティーズムの状況を把握することから始めてみましょう。
ストレスチェックキット独自設問版、または「東大1項目版」をご提供
当社では、職業性ストレス簡易調査票の57項目に事業者様独自の設問(4項目・4選択肢)を追加することができる「AltPaperストレスチェックキット独自設問版」をご提供しています。
また、「東大1項目版」のアンケート調査サービスも別途提供していますので、まずはお気軽にご相談ください。
〔参考文献・関連リンク〕
- 産業精神保健機構RIOMH:
WHO-HPQ調査票と活用事例一覧 (抜粋)
ご利用・入会方法のご案内:調査票の利用にあたって
- 経済産業省:
健康経営銘柄とは
企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~ (改訂第1版、2016)
- 経済産業省:平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業 健康経営に貢献するオフィス環境の調査事業
健康経営オフィスレポート 従業員がイキイキと働けるオフィス環境の普及に向けて (2015)
- 第90回日本産業衛生学会産業疫学研究会:
「プレゼンティーズムおよびアブセンティーズムの疫学的評価」WHO-HPQによるプレゼンティーズム評価と発達障害との関連 (2017)
- 東京大学未来ビジョン研究センター:SPQ(Single-Item Presenteeism Question 東大1項目版)
初出:2023年09月13日 / 編集:2023年12月22日 |