新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って、雇止めや医療機関の逼迫など様々な不便・不安が目に見えるようになりつつあります。身近な場所がニュースで報じられると「もしかして」と焦燥感や不安を感じる人も少なくないでしょう。
このような不安は気が付かないうちにストレスになり、攻撃的な態度・発言や人間関係のトラブルなども引き起こしてしまいがちです。すでにせき込みやくしゃみを伴う持病の方や、医療・流通・インフラに関わる休業できない方たちとそのご家族に対してウイルスを理由にした嫌がらせ・差別を行う「コロナハラスメント(コロハラ)」が発生しており、社会的な問題になるとして周知や対策が急がれています。
そのような中、日本赤十字社が公開した動画 「ウイルスの次にやってくるもの」が訴えるメッセージに共感が集まっています。
ウイルスのように伝染する「恐怖」
2020年4月21日に公開されたこの動画は、「恐怖」から来る人間の行動とその恐ろしさ、そして自分の「恐怖」に飲み込まれないためにできることを描いています。
暗いニュースや間違った情報を餌にどんどん膨らみ大きくなる恐怖心が、 『もうみんな助からない』 「誰にもまだわからないことを『誰かが隠しているのだ』 」と悲観的な考えやありもしない陰謀論、原因を誰かに投影して分断と差別を引き起こしていきます。
また、「もしも感染していたらどうする?」「あんな風に言われたらどうする?」 と不安をあおり脅しをかけ、感染を報告できない・体調不良を隠してしまう行動に人々を駆り立てます。そしてウイルスの拡散に加担してしまい、不安や恐怖はどんどんと人を飲み込んでしまう――
誰の心の中にもいる「恐怖」、それが引き起こす人間同士のいさかいや分断と感染拡大に加担してしまう怖さがアニメーションを用いることで一目でわかりやすく表現されています。
日本赤十字社広報室は22日、J-CASTニュースの取材に、動画の狙いを「 感染症から起こる” 負のスパイラル “を断ち切るためのガイドを伝えたい 」と語りました。
「新型コロナウイルスは、”体の感染症”、”心の感染症”、”社会の感染症”の3つの顔を持っており、これらが”負のスパイラル”としてつながることで更なる感染の拡大につながっていくことを伝えるため、日本赤十字社では、この負のスパイラルを知り、断ち切るためのガイドをホームページ上で公開しておりました。それを更にわかりやすく伝えることを考え、今回の絵本アニメーションでの表現を企図しました」
J-CASTニュース
ウイルスの次に「あいつ」がやってくる 日本赤十字社が警鐘、アニメで啓蒙
不安やおそれによって引き出される恐怖心は人間が持つ「生き延びようとする本能」から生まれます。
この動画の後半では、わからないことや先の見えない状況を「怖い」と感じることは正常な反応であると伝えるとともに、その恐怖や不安が私たちの信頼やつながりを破壊する前に「恐怖心」に対してできることを学び実践するよう呼び掛けています。
「恐怖」に振り回されないために ” できること ”
見えないものに対する恐怖を感じると、人は「見える敵」として特定の属性や対象に対して嫌悪感や攻撃を行い 束の間の安心感を得ようとします。
この行動は「ウイルスを遠ざけたい、ウイルス感染とは無縁でいたい」心理がもたらすものですが、「感染したら私もそうなってしまう」と疾病を隠してしまい治療の遅れや感染拡大を引き起こす原因にもなります。私たちの生活を支える仕事や治療の最前線で戦う方々に対して差別が至れば、社会のシステムそのものが動かなくなることもあるでしょう。
自分の中の恐怖心に振り回されない・飲み込まれる前に私たちに「できること」を実践しましょう。
~動画で紹介された4つの「恐怖にのみこまれる前にできること」~
◎恐怖に餌をやらない
「ときにはパソコンやスマホを消して、暗いニュースばかりをみるのはやめよう」「不確かな情報をうのみにしないで立ち止まって考えよう」
◎恐怖のささやきに耳を貸さない
「恐怖は話を大げさにしておびえさせる。誰にもまだわからないことは、誰にもまだわからないことでしかない」
「そのままを受け止めよう」
◎恐怖から距離をとる
【日本赤十字社】「ウイルスの次にやってくるもの」
「避難や差別の根っこに、自分の過剰な防衛本能があることに気づこう。冷静に、客観的に、恐怖を知り、見つめれば、恐怖は薄れていくはずだ」
◎恐怖が嫌がることをする
「 恐怖が苦手なものは、笑顔と日常だ。家族や友人と電話して、笑おう。いつのもように、きちんと食べて、眠ろう」
正しく知り、正しく恐れて
「本当に戦わなくてはいけない相手は、『人』ではなく『ウイルス』と、ひとりひとりの心の中にある『恐怖』です」
(日本赤十字社広報室)
J-CASTニュース:
ウイルスの次に「あいつ」がやってくる 日本赤十字社が警鐘、アニメで啓蒙
不安から発生し社会を飲み込む「負のスパイラル」は、現在感染が拡大されている新型コロナウイルスに限った話ではなく、歴史上何度も起こった「疫病の流行」とともに繰り返されてきました。
前段でも書いたように、誰の心の中にも必ず「恐怖」があり、誰もが負のスパイラルに陥ってしまう可能性があります。
私たちがそのスパイラルを断ち切るためにできる最初の1歩は、スパイラルに加担することでも加担した人を責めることでもなく、「知る」こと です。
「どういう予防や対応をすればいいのかを、知る」
「不安や恐怖が人間をどんな行動に駆り立てるのかを、知る」
そして、「自分を知る」。
動画はこのような一文で締めくくられています。
「 恐怖に振り回されずに、 正しく知り、正しく恐れて」
【日本赤十字社】「ウイルスの次にやってくるもの」
「今日、わたしたちにできることをそれぞれの場所で」
現在様々な場所で感染を防ぐために戦っている人々がいます。
医療関係者、物流やインフラを支える方々はもちろん、お子さんや高齢者を抱えるご家族、治療を受けている方々、新しい労働環境に苦心されている方、そして 今、生活を送り日常を支えている方へ。
それぞれの方法をもって、この事態に対応しているすべての人々へ労いと敬意の心を忘れず 「今日、わたしたちにできることをそれぞれの場所で」 行っていきましょう。
日本赤十字社では、その他にも感染症流行に関して心と体を守るためのガイドブックを公開しています。「Stay Home」のおともに、みんなで感染対策を考えるときに、正しい知識と心構えの指針にしましょう。
〔 あわせて読みたい感染症に関するガイドブック〕
- 日本赤十字社:感染症流行期にこころの健康を保つために~高齢者や基礎疾患のある方とご家族へ~
- 日本赤十字社:感染症流行期にこころの健康を保つために~隔離や自宅待機されている方の周りにいるあなたへ~
- 日本赤十字社:感染症流行期にこころの健康を保つために~隔離や自宅待機により行動が制限されている方々へ~
〔参考文献・関連リンク〕
- 日本赤十字社: 「 ウイルスの次にやってくるもの 」
- 日本赤十字社:新型コロナウイルス感染症 に対する活動報告
- J-CASTニュース:「ウイルスの次に「あいつ」がやってくる 日本赤十字社が警鐘、アニメで啓蒙」
初出:2020年05月07日 |