35度を超える日が続くことも当たり前になってしまった日本の夏。
気象庁の定める「猛暑日」は最高気温が35℃以上の日を指しますが、1910年代には年に1、2日あれば「暑さの厳しい夏」と報道されていたものが今や30度を切る日は「過ごしやすい」といわれるまでになってしまいました。
熱中症や夏バテなど、暑さによる体調不良を予防・ケアするためにもはやエアコンや空調システムはなくてはならない存在です。
暑さ対策の代表ともいえるエアコンや空調システムですが、皆さんのオフィスでは「夏の冷房が寒すぎる」「同じフロアで暑いところ・寒いところがある」という相談を受けたことはありませんか。
人間の身体は寒暖の差によってストレスを感じることがあります。体温の調節をつかさどる自律神経の乱れを引き起こしつらい不調の原因になることも。寒さによる不調は冬に起こると思われますが、冷房や冷たいものを食べる機会の多い夏でも悩まされる人が多いそうです。
夏の寒冷ストレスは「冷房病(クーラー病)」とも呼ばれる現代病のひとつ。
寒冷ストレスとはどのような状態なのか、職場でできる対策について解説します。
5度以上の温度差が負担に
私たちの体に迫る「寒冷ストレス」を知ろう
近年は急激に暑くなったり、昨日まで暑かったのに突然寒くなったり、寒暖差が激しいことも多いですよね。
30℃を超える日も珍しくなくなり、熱中症の予防として冷房を活用されている方も多いでしょう。屋内で仕事をされている方は一日中冷房の下にいるときもあるのではないでしょうか?
私たちの身体は冷えを感じると、血管や筋肉が収縮し 体内の熱が失われることを防ごうとします。逆に暑さを感じると、皮膚近くの血管が広がり、汗をかいたり筋肉を緩め熱を逃がす働きをするのです。
気温に身体が慣れるには2週間、その間の体調管理に注意していれば自然と環境に体が順応し余計なストレスがかかることはありません。
しかし、現代の環境では、過度な空調設定や室内と外気の温度差によって、身体が気温差に適応できず反応し続けてしまうのです。このような身体反応が起きる環境に長時間さらされていると、さまざまな不調が現れます。
特に寒さは脳が「寒い」=【 寒冷ストレス 】を受けることによって身体反応を引き起こしているため、「肌寒い」と感じるくらいでも「ストレス」としてつらい身体症状を引き起こしてしまいます。
夏は熱中症対策で冷房が欠かせませんが、「5℃以上気温差のある場所」を行き来していると体調を崩しやすいと考えられています。
冷えだけでなく、微熱や鼻炎も?気温差から来る様々な不調
だるさ、むくみ、冷えや肩こりといったオフィスでよくあるものから、頭痛、腰痛、生理痛の悪化などの身体の痛みに至るまで現代人の抱える体の不調まで 、気温差から生じるストレスが身体に引き起こす反応は様々です。
自律神経が刺激されるので、トイレが近くなる・食欲不振・血圧上昇といった循環に関わる困りごとにも深くかかります。猛暑になると必然的にオフィスと外気の差が開いてしまい、「冬場の脱衣所」で見られるような脳卒中や心筋梗塞などの危険性も高まるとみられています。
また、注意したいのが寒冷ストレスや熱中症の症状に「微熱・鼻水や咳・風邪に似た症状」があることです。冷房病(クーラー病)は寒さによって体全体が弱っている表れ、このような症状が出た時にはまず感染症・アレルギー反応にも注意が必要になります。
自律神経の乱れが大きくなると「不眠」や「疲労感が回復しない」といった長期的にメンタルヘルスに影響を与える症状もおこるため、熱中症に気を付けつつも身体を冷やさないようにしましょう。
ちょっとしたひと手間でオフィスが体に優しくなる!
明日から始めたい寒冷ストレス対策ポイント
夏冬問わず日々の大半を過ごすオフィスの環境は、健康管理の要です。
ですが、外回りの多い営業や一日中座って過ごす事務職の人等様々な職種の方が共に過ごす空間のため「全員が快適に過ごす」環境を作るのはなかなか難しいですよね。暑い寒いの感じ方は人の筋肉量や体質、オフィスで過ごす位置によっても変わってきます。
快適に過ごせる人を増やすため、オフィスでとれる対策をとってみてはいかがでしょう。
午前と午後で温度が違う?「職場の温度マップ」を作ってみよう
対策第一歩は職場の環境が現在どのようになっているのか「実態」を知ることです。実際に人が座っている・作業している面に近い場所で、就業直後・日中・終業前など複数回に分けて温度を測定してみましょう。
暑い・寒いといった体感温度には湿度・風のあたり方・日当たりなども関係しますので、可能であれば湿度計や窓からの日刺しなども記録しておくと、変化に気が付きやすくなります。
エアコンの風が直接当たる・換気扇に近い席、電子機器や窓の近くといった場所では寒さを感じている方が多いでしょう。日当たりによっては「午前は汗が出るほど暑いのに、午後は冷えてしまう」というほど寒暖差を感じることがあります。
定期的に職場環境の測定は行っていきたいものです。
温度のムラは「風」で解決!
職場の安堵マップを作ってみると、思ったよりも「温度のムラ・体感のムラ」があることが可視化されるのではないでしょうか。
最適な室温は【外気温との差が±5~7℃以内】とされていますが、熱中症を防ぐという観点からも27℃前後を目安に体感に合わせて変更しましょう。
空調によって管理されているとはいえ、棚やロッカーなどの遮蔽物やドアの開閉といったことで空気の流れは変わるもの。暑い空気がたまってしまうと、エアコンのセンサーがそれに反応し涼しいところはより寒く、暑いところは暑いままになってしまいます。
涼しい空気をまんべんなく行きわたらせるためには、「サーキュレータ」や扇風機の導入が効果的です。
冷却効率のいい使用方法は「部屋の隅、エアコンに向かって対角線上に設置する」こと、天井設置型のエアコンなら2台で挟むように設置し下から空気を循環させるようにすると足元にたまりがちな冷気を部屋に行きわたらせてくれるそうです。
感染症対策にもなる「+1枚」のススメ
冷えてしまう体質であったり、すでに不調が出ているような方は冷え対策としていつもの服装に「+1枚」できるものを用意しましょう。
腹巻や足首を追おうサポーターなどを持ち込んで、仕事中だけ使用するのもお勧めです。
薄手のカーディガンでも手首やひじをカバーできると、上半身の寒さが改善されます。ストールなどで首周りを覆うようにするのは、この時期紫外線対策にもなります。外から帰ってきたときにこれらの上着を取り換えることで、新型コロナの感染対策としても有効です。
どうしても寒い、直接 エアコンの前の席で直接風があたるといったときには薄いビニールなどでカバーをエアコンに「+1枚」すると効果があります。
最近では風向きを変える専用のエアコンカバーが売られていますので、導入を検討してみてはいかがですか。
風向・風量をマイルドにするだけで体感温度の急激な低下を防ぐ以外に、アレルギーの原因や飛沫の拡散リスクを下げることができます。
熱中症は屋内にいても起こることがあるため夏場の労務環境管理では常に注意したいものですが、それと並行して起こることが多い「冷えによるストレス、冷房病」を取り上げました。
暑さや寒さといったものは集中力や効率の低下だけでなく、イライラや体力の消耗を引き起こします。
定期的な職場環境の測定にプラスして、本人の体感や体調に合わせた席の配置や健康情報の提供で、快適な環境を目指して改善を続けていきましょう。
〔参考文献・関連リンク〕
- セルフメディケーション推進協議会:冷房病(冷え性)
- 一般社団法人千葉市医師会:今月の健康コラム「冷房病にかからないために」
- 一般社団法人安全衛生マネジメント協会 :冷房病とは
初出:2020年08月14日 / 編集:2022年07月01日 |