一般的に、ストレスチェックの高ストレス者の割合と総合健康リスクには相互に関連性があるとされています。
当社の調査では、「高ストレス者の割合は高いにも関わらず、総合健康リスクが低い」といった一見矛盾した結果が出ている業種も見られました。これには、ストレスチェックにおける総合健康リスクの算出方法が関係しています。
総合健康リスクは、仕事量・仕事の裁量度・上司からの支援度・同僚からの支援度の4つの尺度から算出されるため、仮に仕事の質や身体的負担度に関するストレス度合いが高く出ていても、総合健康リスクには反映されません。つまり、職場環境を正確に把握するためには、高ストレス者の割合と総合健康リスクだけではなく、ストレスチェックの結果を複合的に見ていく必要があります。
また、厚生労働省の推奨する職業性ストレス簡易調査票(57項目)は、様々な業種・職種に適した形式である反面、各職場の特徴に合わせた調査を行うことは難しいと思われます。
よりよい職場づくりのために、ストレスチェックの実施方法を再度見直してみましょう。
AltPaperストレスチェックサービスの独自調査をもとに考察
当社では、「AltPaperストレスチェックキット」をご契約いただいたお客様に個人情報を除いた集計データをご提供いただき、業種別・職種別・男女別に高ストレス者の割合・総合健康リスクを算出しました(詳しくはこちら)。
※2017年度実施分データ
結果を見てみると、製造業のように、高ストレス者の割合と総合健康リスクがどちらも高くなっている業種や、学術研究,専門・技術サービス業のように、どちらもそれほど高くない業種からは、高ストレス者の割合と総合健康リスクに相互の関連性があると推測されます。
一方で、金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業や宿泊業,飲食サービス業は、男女ともに高ストレス者の割合が非常に高くなっているのにも関わらず、総合健康リスクの数値は低いことがわかりました。
では、どうしてこのような矛盾した結果が出たのでしょうか?
今回は、この金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業や宿泊業,飲食サービス業の2業種の結果から、なぜ高ストレス者の割合が高く、健康リスクが低い業種が出てくるのかということについて検討していきます。
★分析結果をまとめると…
- 金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業と宿泊業,飲食サービス業では、男女ともに「上司からの支援度」の数値が全国平均値を大きく上回っている。結果的に、総合健康リスクは低くなった。
- 金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業と宿泊業,飲食サービス業の男性は、「同僚からの支援度」の数値が全国平均値を上回っている。
- 金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業と宿泊業,飲食サービス業の女性は、「仕事の裁量度」の数値が全国平均値を上回っている。
- 金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業と宿泊業,飲食サービス業では、男女ともに[心身のストレス反応]に含まれる尺度が全国平均値並みで、特に男性は「疲労感」「不安感」「身体愁訴」について全国平均値を下回っている。結果として、[心身のストレス反応]の合計得点が低くなったことが、高ストレス者の割合を高めたと考えられる。
〔 調査方法 〕
男性と女性のデータを分けて、各尺度の平均値・高ストレス者(※[1])の割合・総合健康リスク(※[2])を算出しました。その後、業種別・職種別の平均値を算出しました。
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※[1] 本分析における「高ストレス者」は、厚生労働省のマニュアル(2015)に基づいており、以下の①および②に該当する者を指す。①および②に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とする。
①「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
②「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」および「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※[2] 「健康リスク」は、基準値として設定された全国平均(100) からどの程度乖離しているかで算出される。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の2つをさらに男女別に分けたもので構成される。この2つの調和平均が「総合健康リスク」となる。
◆仕事のストレス判定図
①量-コントロール判定図:仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
②職場の支援判定図:上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
〔 結果詳細 〕
職業性ストレス簡易調査票における各尺度の平均値が全国データからどれほど乖離しているかを計るために、全国平均値を0とし、1から-1の間に全国データの7割が入るように、正規化数値[3]を算出しました。
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※[3] { (各尺度の値) – (全国平均) }/(全国データの標準偏差)×100を正規化数値と仮定しています。
総合健康リスクの算出に関わる4つの尺度(グラフ緑枠)について見てみると、金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業と宿泊業,飲食サービス業は、どちらにも同じような傾向が見られました。
まず、男女ともに「上司からの支援度」が全国平均値を大きく上回っていることが分かります。また、「同僚からの支援度」についても、全国平均値並みもしくは全国平均値をやや上回っていることが分かります。「仕事の裁量度」は、男性は全国平均値並みなのに対し、女性は全国平均値を大きく上回っています。そして、「心理的な仕事の負担(量)」については、男女ともに全国平均値を下回っています。
つまり、どちらの業種も総合健康リスクが100を下回った理由として、従業員が「上司からの支援度」の高さを感じていることが大きく影響したと考えられます。また、「仕事の裁量度」「同僚からの支援度」の数値についても、全国平均並みもしくはそれを大きく上回っており、総合健康リスクを100未満にとどめた要因だと考えられます。
では、総合健康リスクが100を下回る金融業・保険業,不動産業・物品賃貸業と宿泊業,飲食サービス業は、なぜ高ストレス者の割合が高くなったのでしょうか?
[心身のストレス反応]に含まれる項目(グラフ赤枠)を見てみると、男女ともに全国平均値を大きく上回った尺度は見られず、特に男性は「疲労感」「不安感」「身体愁訴」について全国平均値を下回っています。
高ストレス者の判定においては、この[心身のストレス反応]に含まれる尺度の合計点数が大きく関わってきます。このため2業種では、[心身のストレス反応]に含まれる尺度の数値が全国平均前後にとどまったことで合計点数が低くなりました。その結果、総合健康リスクが低いのにも関わらず、高ストレス者の割合が高くなったのだと考えられます。
このように、健康リスクと高ストレス判定の算出方法の違いが影響し、総合健康リスクは高くないにも関わらず高ストレス者と判定される、という一見矛盾した結果が出てくることがあるのです。
つまり、総合健康リスクが全国平均を下回っていても、高ストレス者の割合が高い場合には、ストレスチェックの各尺度を細かくチェックしてその要因を探る必要があります。問題点を洗い出し、職場環境の改善や働き方の改革に活かしましょう。
また、[仕事のストレス要因]や[周囲のサポート]の点数が良好であるのにも関わらず、[心身のストレス反応]の点数が低いために高ストレス者と認定された場合は、ストレス要因が職場外にある可能性があります。
この場合、事業者には関係がないと思われがちですが、ストレス反応が出ているということは仕事にも間接的に悪影響を及ぼす可能性があります。
従業員の心身の健康を総合的にサポートすることが、事業者にとっても業務の効率化や生産性の向上につながります。ストレスチェックは、一定の条件を満たしていればカスタマイズしても問題ありません。従業員のメンタルヘルス状況や職場環境をより正確に把握するためにも、上手に活用しましょう。
AltPaperストレスチェックサービスなら、設問数の追加やカスタマイズも低価格で行うことができます。
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初出:2018年9月20日 / 編集:2019年8月14日 |