近年、労働者のメンタルヘルス問題が注目を集めていますが、この問題を改善・解決するためには、企業風土や職場環境など事業所全体の改革に取り組む必要がある一方で、「デスクワーク」「営業外回り」「工場作業」など、働き方が大きく異なる職種別に改善策を立てることも大切です。
まず当社独自の調査から、「全国的にどのような職種の労働者がよりストレスを感じているのか」について見ていきましょう。
業界別高ストレス者・総合健康リスク
当社は、「AltPaperストレスチェック」サービスをご契約いただいたお客様に個人情報を除いた集計データをご提供いただき、業種別・職種別・男女別に高ストレス者の割合・総合健康リスクを算出しました。
今回は、算出された高ストレス者の割合・総合健康リスクに基づき、ストレスを感じやすい職種と感じにくい職種をランキング形式でご紹介します。
調査方法
男性と女性のデータを分けて、各尺度の平均値・高ストレス者(※[1])の割合・総合健康リスク(※[2])を算出しました。その後、業種別・職種別の平均値を算出しました。
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※[1] 本分析における「高ストレス者」の選定方法は厚生労働省(2015)が公表したマニュアルに基づいており、以下の①及び②に該当する者を指します。①及び②に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とします。
1.「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
2.「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で、
「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」および「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※[2] 本分析における「健康リスク」は、基準値として設定された全国平均100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の2つをさらに男女別に分けたもので構成され、この2つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
◆仕事のストレス判定図
1. 量-コントロール判定図
…仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
2. 職場の支援判定図
…上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
高ストレス者の割合・総合健康リスクが高い職種トップ3
<男性>
1位 生産工程従事者(工場での加工業務など)
(高ストレス者21.2%、総合健康リスク116.2)
2位 介護サービス職業従事者(ヘルパー職など)
(高ストレス者18.3%、総合健康リスク110.7)
3位 販売従事者(飲食・小売店等での販売職など)
(高ストレス者18.6%、総合健康リスク104.9)
<女性>
1位 輸送・機械運転従事者(バス・タクシー運転手など)
(高ストレス者18.6%、総合健康リスク106.3)
2位 生産工程従事者
(高ストレス者13.7%、総合健康リスク107.4)
3位 運転・清掃・包装等従事者(倉庫作業員、配達員、清掃員など)
(高ストレス者11.6%、総合健康リスク103.6)
※総合健康リスクは、基準値として設定された全国平均100からどの程度乖離しているかで算出されます(例:総合健康リスク110の場合は全国平均よりも10%リスクが高い)。
男女共に生産工程従事者がランクインしており、工場作業による負荷が大きいことが推測されます。
当社による「製造業」に特化した分析 では、製造業に従事する生産工程従事者にとって、「自覚的な身体的負担度」が大きなストレス要因となっていることが明らかになっています。
また、女性については、輸送・機械運転従事者、運転・清掃・包装等従事者といった体を動かす必要のある職種で高ストレス者の割合・総合健康リスク共に高い数値が出ています。
一方、男性については、介護サービス職業従事者・販売従事者といったサービス対象者と直接的なコミュニケーションをとる必要がある職種で高い数値が出ています。
高ストレス者の割合・総合健康リスクが低い職種トップ3
<男性>
1位 医師
(高ストレス者6.0%、総合健康リスク87.6)
2位 医療技術者
(高ストレス者9.2%、総合健康リスク92.9)
3位 農林漁業従事者
(高ストレス者12.0%、総合健康リスク92.8)
<女性>
1位 農林漁業従事者
(高ストレス者5.0%、総合健康リスク90.5)
2位 医療技術者
(高ストレス者9.8%、総合健康リスク87.8)
3位 保育士
(高ストレス者6.8%、総合健康リスク92.7)
男女共に第2位の医療技術者、そして男性第1位の医師については、人々の健康や命に関わる職業柄、大きなプレッシャーを感じていると思われるため、この結果には意外性があるかもしれません。
しかし、当社による「医療業」に特化した分析 では、医療技術者・医師は働きがいや自分の仕事に対する適性を感じているといった結果が出ており、これらが影響したのではないかと推測されます。
また、男女共にランクインしている農林漁業従事者、そして女性第3位の保育士についても肉体労働が多く身体的・精神的疲労が大きいという印象がありますが、全体的なストレス度合いは低い結果となりました。
当社による「保育士」に特化した分析 によれば、保育士は医療技術者・医師と同様に、働きがいや自分の仕事に対する適性を感じていることが明らかになっています。
その他の職種については以下の通りです。
今回の調査結果はいかがでしたでしょうか?
職種別、さらには男女別でみても、ストレス度合いには大きな違いがあることが明らかになりました。
事業者は、同じ組織の中でも職種の違いによってストレス度合いに差があることを認識し、それぞれに合わせた対処法に取り組む必要があります。
また、労働者自身も、自分が取り組む仕事内容や働く環境がストレスとなりやすいということを認識し、ストレスチェック本来の目的である「メンタルヘルス不調の一次予防」につながるよう、日頃からセルフケアに努めることが大切です。
では、今回ランクが低かった職種についてはどうでしょうか?
高ストレス者の割合や総合健康リスクの数値が高くなかったからといって、油断してはいけません。
医師や医療技術者の数値は低い結果となりましたが、ストレスがかかっていない訳ではないのです。仕事に対するやりがいや誇りを感じていても、その強いプレッシャーの下で働く職業柄、自分では気付かないところで心と体が疲れているかもしれません。
そのような自分で気づくことが難しいストレス要因の発見に役立つのが、「ストレスチェック」です。仕事のストレス要因・心身のストレス反応・周囲のサポートといった異なる角度から、ストレス状況と細かな要因を把握することができます。
★ポイント★
ストレスチェックは、「労働者」と「事業者」の両者にとって役立つツールです。労働者にとっては、ストレスチェックによって自分のストレス状況に気付き、セルフケアを行うことでメンタル不調になることを未然に防ぐことができます。
また、事業者にとっては、ストレスチェックによって労働者のメンタルヘルス不調を未然に防いで休職や離職のリスクを減らし、集団分析の結果を活用することによって生産性を上げることができます。
組織内におけるストレスチェック受検率の向上を目指すとともに、その活用法についても見直してみませんか。
初出:2018年6月27日 |