【ストレスチェック分析レポート2018】
製造業(工場労働者)
ストレスチェック制度はメンタルヘルス不調を未然に防ぐことに効果的です。労働者が自分のストレス状態に気づかず、無理し続けてメンタルヘルス不調になってしまう前に、ストレスチェックによって現状を把握してもらい、セルフケアを促しましょう。
当社は、「AltPaperストレスチェックキット」をご契約いただいたお客様に個人情報を除いた集計データを提供していただき、業種別・職種別・男女別に高ストレス者の割合・総合健康リスクを算出しました。そのなかで高ストレス者の割合や総合健康リスクが最も高かった業種は「製造業」です。今回は、「製造業」に従事する労働者のストレス状況と適切なセルフケアの方法をご紹介します。
製造業(工場労働者)のストレスに関する調査結果
製造業では生産工程従事者の15%以上が高ストレス者
上のグラフからわかるように、製造業は男女共に高ストレス者の割合が高くなっており、特に男性は高ストレス者の割合が19%を超えています。また、総合健康リスクも男女共に平均以上で、男性は全国平均より10%以上リスクが高くなっています。
さらに、製造業を職種別に分けると、生産工程従事者は男女共に高ストレス者の割合が高く、総合健康リスクが製造業全体(男女別)の数値を上回っています。
また、生産工程従事者は「自覚的な身体的負担度」の数値が全国平均並びにその他の職種の数値を下回っています。すなわち、生産工程従事者は業務を通じて身体への負担を強く感じており、それがストレスの大きな要因となっていることが推測されます。(※(3)職種別/ストレスチェック尺度別比較 参照)
1.調査方法
男女別に各尺度の平均得点、高ストレス者(※[1])の割合、総合健康リスク(※[2])を算出し、次に業種別・職種別の平均値を算出しました。
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※[1] 本分析における「高ストレス者」は、厚生労働省が公表したストレスチェック実施マニュアル(2015)に基づいており、以下の①および②に該当する者を指します。①および②に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とします。
①「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
②「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」および「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※[2] 本分析における「健康リスク」は、基準値として設定された全国平均100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の2つをさらに男女別に分けたもので構成され、この2つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
◆仕事のストレス判定図
①量-コントロール判定図:仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
②職場の支援判定図:上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
2. 調査結果
(1)職種別/高ストレス者の割合・総合健康リスク
本分析では、回答時に部署欄に記入された職種を「日本標準職種分類」の大分類(一部中分類)に変換し、職種別で比較しました。
製造業の職種のなかで男女共に高ストレス者の割合・総合健康リスクの両方で高い数値が算出されたのは、生産工程従事者です。
しかし、総合健康リスクについては、運搬・清掃・包装等従事者の数値が男女共に120を超えており(全国平均より20%以上リスクが高い)、生産工程従事者を上回っています。また、運搬・清掃・包装等従事者の男性は高ストレス者の割合も20%を超えており、生産工程従事者に次いで2番目に高い数値となっています。
(2)男女別/ストレスチェック尺度別比較
高ストレスや健康リスクの上昇の原因となる生活上・仕事上のストレス要因には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
職業性ストレス簡易調査票における各尺度の平均値が全国データからどれほど乖離しているかを計るために、全国平均値を0とし、1から-1の間に全国データの7割が入るように、正規化数値(※[3])を算出しました。
まず男女間で比較すると、ほぼ全ての尺度において男性の数値が全国平均並びに女性の数値を下回っていることがわかります。
次に総合健康リスクの判定に使われる4つの尺度(グラフ赤枠)を見ていくと、男女共に「同僚からの支援度」の数値が全国平均を大きく下回っています。また、男性は「仕事の裁量度」「上司からの支援度」についても全国平均を下回る数値が出ています。これらの尺度の数値が低いことによって製造業全体の総合健康リスクが110前後という高い数値になったと考えられます。
さらに、4つの尺度以外(グラフ黄枠)についても、「自覚的な身体的負担度」「家族や友人からの支援度」の数値が男女共に全国平均を大きく下回っています。しかし、「家族や友人からの支援度」については、過去のデータと比較したところ業種問わず悪化傾向にあります。
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※[3] { (各尺度の値) – (全国平均) } /(全国データの標準偏差)×100を正規化数値と仮定している。
(3)職種別/ストレスチェック尺度別比較
さらに、ストレスチェックの各尺度の職種別の平均値を算出しました。
まず生産工程従事者は、その他の職種と比較しても男女共にほぼ全ての尺度において低めの数値が出ています。この全体的な数値の低さによって、高ストレス者の割合と総合健康リスクが共に高くなったのだと考えられます。
次に運搬・清掃・包装等従事者について、総合健康リスクの判定に使われる4つの尺度(グラフ赤枠)に着目します。「心理的な仕事の負担(量)」の数値は男女共に全国平均を上回っているのに対し、「仕事の裁量度」「上司からの支援度」「同僚からの支援度」については全職種のなかで最も低い数値が出ています。
そして(2)男女別/ストレスチェック尺度別比較のグラフからもわかるように、製造業全体としては「自覚的な身体的負担度」(グラフ黄枠)の数値が男女共に非常に低くなっています。しかし、(3)職種別/ストレスチェック尺度別比較のグラフを見てみると、職種間で大きなばらつきが生じていることがわかります。
情報処理・通信技術者、管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者の「自覚的な身体的負担度」の数値は男女共に全国平均を大きく上回っているのに対し、生産工程従事者、運搬・清掃・包装等従事者は全国平均並びにその他の職種の数値を大きく下回っています。
「家族や友人からの支援度」(グラフ黄枠)については男女共にどの職種も全国平均を下回る数値となっていますが、この尺度は過去のデータと比較したところ、業種を問わず悪化傾向にあるようです。
製造業(工場労働者)のメンタルヘルス対策
1.セルフケア
上記の結果を踏まえて高ストレスによる健康リスクの上昇を防ぐ対策法としてはどのようなものがあるでしょうか?
(1)身体的セルフケア
最もお勧めなのは、ストレッチやウォーキングなどの軽い運動を習慣にすることです。
一般的に、運動にはネガティブな気分を解消する作用があります。特にストレッチやウォーキングなどの有酸素運動、ヨガなどのリラクゼーション法が有効です。
生産工程従事者や運搬・清掃・包装等従事者は業務の特性上、身体的負担がかかりやすい作業に取り組むことが多いので、身体的疲労を軽減するためにも休憩時のストレッチなどを習慣にして、使わない筋肉を意識して動かしリフレッシュする時間を作ってみましょう。また、体力をつけるために休日に軽い運動をするのも効果的です。
(2)精神的セルフケア
職場での人間関係などで精神的なストレスを感じている場合は、家族や友人など信頼できる人に相談することが効果的です。ネガティブな気持ちを心の中に抑圧しておくよりも誰かに話して感情を解放する方がメンタルヘルスにおいて有用であることが研究によって明らかになっています。
しかし、職場の人間関係などの問題は職場の人には話しづらいでしょう。「家族や友人からの支援度」は過去のデータと比べると、業種問わず悪化傾向にあります。しかし、職場での悩みなどを職場とは関係のない人に話すことはストレスの軽減に効果があります。また、職場とは関係のない人だからこそ新たな視点から状況を読み取り、アドバイスやヒントを与えてくれるかもしれません。家族や友人に話してみたり、医師やカウンセラーなどの専門家に相談することがお勧めです。
ストレスの要因が仕事内容などの場合は、信頼できる上司や同僚、総務や人事の担当者に相談し、具体的な問題を解決することでストレスを軽減することができるでしょう。周囲の人は個人が抱えている問題や心理的負担に気づいていないことも多いので、日頃からコミュニケーションを図ることが大切です。
★ポイント★
ある程度のストレスはポジティブな刺激として有用ですが、過度なストレスは心身の健康に悪影響を及ぼします。特に製造業従事者はストレスが高くなりやすい傾向にあるので、自分に合った方法でセルフケアに取り組んでストレスを解消し、メンタルヘルス不調の徴候が見られる場合は適切なストレスマネジメントによって早期に改善するように勧めましょう。
〔 参考文献・関連リンク 〕
- 熊野宏昭「マインドフルネスそしてACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)へ ―二十一世紀の自分探しプロジェクト―」(星和書店・2011)
- 厚生労働省:こころと体のセルフケア(2011)
- 厚生労働省:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(2015)
- 坪井康次「ストレスコーピング —自分でできるストレスマネジメント—」(心身健康科学, 6(2), 2_1-2_6.・2010)
初出:2018年05月22日 / 編集:2019年07月30日 |