ストレスチェックの導入・実施にあたり、準備の要となるのは衛生委員会(安全衛生委員会)です。
実施に必要な役割分担や決まりごとなど具体的な内容は、 衛生委員会の場で労使、産業保健スタッフと協議して決める必要があります。
ここでは、ストレスチェック実施体制づくりに不可欠な衛生委員会の役割と、具体的に決める事項について、解説いたします。
職場の衛生委員会とは?
衛生委員会とは、労働災害防止の取り組みを労使が一体となって行うために設ける場です。 労働安全衛生法では「健康・安全などに関する労働者の意見を、企業の措置に反映させるための制度」とされています。
労働災害防止の取り組みは労使が一体となって行う必要があります。そのためには、安全委員会や衛生委員会において、労働者の危険又は健康障害を防止するための基本となるべき対策(労働災害の原因及び再発防止対策等)などの重要事項について、労働者の意見を反映させるよう十分な調査審議を行う必要があります。
厚生労働省:安全衛生に関するQ&A「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」
- 常時使用50人以上の労働者を使用する事業場には衛生委員会、常時使用50人以上の労働者を使用する事業場で工業的業種の事業場には安全委員会及び衛生委員会の設置が必要となります。(労働安全衛生法第17条、第18条)
- なお、安全委員会及び衛生委員会を設けなければならない場合はそれぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができます。(労働安全衛生法第19条)
従業員数50人以上の事業場は、衛生委員会の設置が義務付けられており、「衛生委員会が必要な事業所の規模」「委員会の役割」「メンバー構成」「委員会の開催頻度」「議事録の保存義務」が法令で定められています。
法令で定められているため、もし事業場で仕事のストレスによる労災などが発生した場合には当然、「衛生委員会は設けられていたか?」、「衛生委員会はストレスチェックの実施前に必要な事項を調査・審議したか?」について外部からチェックされることになります。したがって、事業者はこのようなリスクを回避するためにも衛生委員会を設置して機能させなければなりません。
衛生委員会のメンバー構成については以下のように定められています。
- 総括安全衛生管理者またはそれ以外の者で、当該事業場において事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者:1名(議長)
- 衛生管理者:1名以上
- 産業医:1名以上
- 当該事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者:1名以上
人数に決まりはありませんが、議長以外は事業者が委員を指名することとされています。なお、この内の半数については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦に基づき指名しなければなりません。
また、委員会の開催頻度、議事録の保存義務についても法令で定められており、委員会は毎月1回以上開催し、その議事録は3年間保存する必要があるとされています。
※なお、安全委員会は業種により設置基準の人数が50人、または100人と異なります。詳しくは 厚生労働省のページでご確認ください。
ストレスチェックと衛生委員会の関係
ストレスチェック制度では、(安全)衛生委員会は、ストレスチェックの実施前に実施体制、実施方法等を調査・審議し、事業者に意見を述べるという重要な役割を担います。
ストレスチェックを円滑に実施するためには、事業者、労働者、産業保健スタッフ等の関係者が制度の趣旨を正しく理解したうえで互いに協力・連携しつつ、事業場の実態に即した取り組みを行っていく必要があります。
衛生委員会は、事業の実施を統括管理する者や労働者、産業医、衛生管理者等で構成される、いわば企業内の安全衛生に精通した、大事な取りまとめ役。
実際にストレスチェックを担当する「実施者」はあくまで監督役、実施の主体は企業です。そこで、実施の主体である企業の代表として、衛生委員会で調査・審議を行うことが求められているのです。
ストレスチェック制度では衛生委員会が調査・審議すべき事項が決められており、「目的に係る周知方法」や「実施体制」、「実施方法」や「集計・分析の方法」、「記録の保存方法」などがこれにあたります。
衛生委員会では具体的な実施の内容を
ストレスチェック実施にあたり、衛生委員会で決めておく必要があるのは、おもに次のような項目です。
<衛生委員会で決めておくこと>
・実施スケジュール、対象者、使用する質問紙、説明方法など
・実施者・実施事務従事者・面接を行う医師など担当者
・高ストレス者の範囲や判定方法
・高ストレス者への対応について
・ストレスチェックの結果の保存方法
・外部委託をする場合、業者の方法で問題はないか
・「集団分析」実施の有無
◆ストレスチェック「実施計画」と「実施規定」 を作成しよう!
また、衛生委員会で「ストレスチェック実施計画」の「ストレスチェック実施規定」の2つを作成しなければいけません。実施計画・実施規定で定める内容は以下のような項目です。
- 実施日程や担当者・実施方法の告知をどう行うか
- 受検対象者の範囲、分析に必要な対象者の情報(部署や社員番号など)
- 質問紙もしくはICTで行うなどの実施方法
- ストレスチェックの「高ストレス者」の基準と範囲
- 得られたデータの分析方法
これらの「実施に必要な内容」を、実施規定や実施計画に記録し、決議します。
衛生委員会で決議された内容を、ストレスチェックの実施者が、メンタルヘルスを取り扱うものとして安全かどうか、実施されたストレスチェックで正確なデータが出るかなどについて確認を行います。
規定や計画の詳細については、厚生労働省が公開している「ストレスチェック制度実施規程(例)」を参考にしながら、事業場に合った実施規程を検討するのがおすすめです。
厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」
話し合ったことは委員会の議事録に記録しておくことも忘れないようにしましょう。
もし労働基準監督署が調査に入った場合、衛生委員会に関することで求められるのはこの「調査・審議を行った記録」です。これがしっかりと残っていて事業者が見た証拠(検印等)があれば、ストレスチェック制度に係る衛生委員会の役割を果たしていると判断されるでしょう。
衛生委員会はストレスチェック制度において、事業者と労働者の間に立つ非常に重要な役割を担っています。衛生委員会をしっかりと機能させて円滑にストレスチェックを実施しましょう。
◆高ストレス者の判定・範囲は?
ここで悩ましいのは【高ストレス者の判定・範囲】です。
【高ストレス者の判定・範囲】 について厚労省が発表している高ストレス者の基準はあるものの、「面接指導の対象者となる高ストレス者」の範囲は企業(衛生委員会および実施者) の判断にゆだねられるのです。
ちなみに厚生労働省が定めるストレスチェックにおける高ストレス者の基準では
・「心理的な負担による、心身の自覚症状」の項目の点数が高い者
・「心理的な負担による心身の自覚症状」に関する項目及び
「職場における当該労働者への支援に関する項目の点数の合計が著しく高い者
が面接指導の対象者となります。 しかし、上記の基準を満たせば必ず「高ストレス者」にしなければならないというわけではありません。
つまり、社内環境や業務内容、普段の就業状態を把握している企業が「最近遅刻が増えて体調が悪そう」「最近忙しそうで休めている人が少ない」という社内の状況を加味して、 面接対象者がどの範囲に当たる人なのか、ストレスチェックを実施する企業が総合的に判定することができます。
どういった所に着目して評価するのか、ストレスチェックの評価方法を検討できれば、評価方法にあった方法を選択することができます。
どんな範囲・どんな方法で高ストレス者を判定するのが効果的なのかわからないときには、機械的に点数で行うことも有効です。ストレスチェックの結果を集計し、高ストレス者の範囲を「上位〇〇%を高ストレス者とする」などを実施者に相談して決めておきましょう。
回数を重ねるごとに自社に合った方法やどんな傾向・特徴があるのかが見えてきます。
ストレスチェックを継続して実施し、衛生委員会で協議を重ね効率的な範囲を見つけましょう。
外部に委託する場合であっても、必ずストレスチェックを実施するうえで含まなければならない項目・基準を満たしているかについて、衛生委員会で確認を行う必要があります。実施方法や日程、質問紙の項目や追加する設問があるか否かなど、委託先とのすり合わせ内容を衛生委員会で話し合っておきましょう。
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〔参考文献・関連リンク〕
初出:2023年12月22日 |