ストレスチェックの実施結果から高ストレス判定が出た労働者は、希望すれば医師による面接指導を受けることができます。
今回の記事では医師面接指導の申し出を戸惑っている方に向けて、具体的にどのようなやり取りが行われるのか、「産業保健スタッフのためのセルフケア支援マニュアル」(島津明人・種市康太郎編)に記載されている事例から、ストレスチェックの結果の読み取り方のポイントを見てみましょう。
【職場のメンタルヘルスケア】CASE STADY
今回、高ストレス者として判定された従業員が医師面接の希望を申し出ました。
Aさんのプロフィールとストレスチェックの結果は以下の通りです。
<高ストレス者プロフィール>
41歳・男性
建材メーカーの工場で開発課課長として勤務
<ストレスチェック結果>
この結果から以下のようなことが読み取れます。
- 仕事の量に大きな負担を感じている。
「心理的な仕事の負担」がとても多いようです。「自覚的な身体的負担度」は少ないようですので、残業時間や就業内容が負担になっている可能性があります。
- 自分の技能をなかなか活かすことができておらず、仕事への適性度も低いと感じている。
上記、仕事の負担が質・量ともに高い様子も踏まえると、業務上で何か行き詰っている・難しいと感じることがあるのではないでしょうか。この状態が長時間続くと無力感を感じる方が多いようです。
- 仕事のコントロール度が低い。
プロフィールを確認すると、勤続年数もあり、課長という管理職についています。中間管理職でありながら、「自分の意志や判断で作業を進めることができていない」のでは?と推測されます。
- 心身のストレス反応が有意に出ている。
活気が失われているとともに、イライラ感や疲労感、不安感などのネガティブな反応が強く表れています。
- 特に職場で、周囲からのサポートを十分に得られていないと思われる。
周囲から「頼られる立場」の中間管理職ということもあり、相談できる方が少ないのではないでしょうか。
医師や産業保健スタッフは、これらの情報に加えて企業から提供のあった
*就業時間や業務内容、最近の残業時間など就業に関する情報
*本人から提供のあった個人情報(家族構成、連絡先など)
*事前に医師が設けている問診票など
等の情報をもとに、面接を計画します。
面接希望を受け付ける窓口担当者は、本人から面接希望時間や希望する場所・タイミングなどを事前に伺っておきましょう。
面接は可能な限り業務時間内に行うよう、調整しましょう。
《面接時》
面接は産業医の所属するクリニックや医院、事業所内に設けられたプライバシーの確保できる会場で行われます。
面接では事前に医師に伝えられた情報をもとに、
「ストレスをどれくらい感じているか」
「ストレスを軽減するために、どんな配慮や対策が有効か」
を検討し、意見書を確認します。
<面接での確認事項>
- 心身のストレス反応が全体的に強く出ており、慢性的な疲労状態が疑われるため、症状を自覚し始めた時期やストレス反応の程度を確認する。
就業記録や本人の意見を元に、ストレスが業務との関連がないかをみます。
- 仕事の量的負担・質的負担が高く、コントロール度が低い状況にあるため、残業時間の確認や周囲との関係性、仕事の難易度や身体的負担などの就業状況について細かく確認する。
業務内容を本人から聞き取り、「どの業務に困難が生じているか、その原因は何か」を探ります。
- 上司や同僚とのコミュニケーション状況や仕事の分担などを確認し、充分なサポートが得られていないと感じている要因を探す。
相談できる人がいるかどうかは重要です。上司同僚の中で信頼できる人はいるか、相談しやすい関係かを伺います。
「相談しにくい」場合、それが何によるものか考えます。
- その他、本人の性格や行動パターンを聞き、セルフチェックやセルフケアを促す。
業務上の困難・相談のしにくさが「本人の考え方」にある場合も。
コミュニケーション・カウンセリングを進め、メンタルに対する知識や生活習慣の改善、本人に合ったセルフケアの方法を一緒に話し合います。
・完璧主義のため、必要以上の仕事を作り出してしまっていないか?
・上司や同僚にサポートを求めることに抵抗感があるのではないか?
⇒「援助希求スキル」を身に着けよう
・過剰な仕事を断ることを悪いと思っているのではないか?
⇒「アサーティブスキル」を身に着けよう
以上のように、面接指導医師は、ストレスチェックの結果を参考に、高ストレス者の労働環境や心身の症状について幅広く話を聞き、改善すべき点を導き出します。そして、高ストレス者に働き方などのアドバイスをするとともに、事業者に対しても、適切な就業上の措置が取れるよう「意見書」を企業へ提出します。
就業上の配慮の必要がある、または業務や就業環境にストレスの原因がある場合、企業はこの意見書を参考に環境改善をする必要があります。
本人に対しても適切なケアが受けられるよう、必要に応じて定期的な通院の手配や業務内容の見直し、研修の企画を行いましょう。
メンタルヘルスの不調は、早期に改善に取り組むことが大切です。
専門家のアドバイスを元に、事業者側の協力を得ながら、回復に向けて取り組みましょう。
〔参考文献・関連リンク〕
- 島津明人・種市康太郎編:産業保健スタッフのためのセルフケア支援マニュアル(クイック版)
初出:2017年10月13日/ 編集:2019年10月15日 |