2015(平成27)年12月の改正「労働安全衛生法」施行以来、従業員数50人以上の全ての事業場にストレスチェックの実施が義務付けられています。
ストレスチェックは企業のメンタルヘルス対策の強化を目的としていますので、「ストレスチェックを実施しただけ」では意味がありません。実施結果を踏まえて、メンタルヘルス不調を抱える従業員へ医師による面接指導を受けるよう働きかけ、集団分析データをもとに事業場全体として職場環境改善に取り組むことが重要です。
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職場改善のための提言や取り組み事例などが 厚生労働省のホームページに掲載されていますので、いくつかご紹介いたします。
改善すべき“職場環境”とは?
手を付けやすい改善は、結果が「見える」ところから
米国・国立労働安全衛生研究所(NIOSH)※(1) は、職場環境等の改善を通じたストレス対策のポイントとして、以下のようなことを挙げています。
- 過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
- 労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
- 仕事の役割や責任が明確であること
- 仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であること
- 職場でよい人間関係が保たれていること
- 仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされること
- 職場での意志決定への参加の機会があること
特に仕事に求められるスキルや専門性に見合う裁量度は「仕事によるストレス」の緩和・減少に影響するようです。
職場レイアウトの改善、チームワークや小グループ活動の活性化、作業のローテーション化が従業員のストレス緩和に効果的だとする国際労働機関(ILO)※(2) の報告もあり、職場環境改善によってインシデントや業務上必要な報告・コミュニケーションの心理的ハードルを下げる効果が期待されるとしています。
また、職場環境等の改善というと、 組織、人間関係などを想像する方が多いと思われますが、労働時間や作業方法・照明や空調、レイアウトといった「物理的な職場環境」も改善の対象です。特に作業環境の改善・再検討は「やりにくいな」「面倒だな」 と知らず知らずのうちにためているストレスやヒヤリハットの事案防止に有効です。
※(1)国立労働安全衛生研究所…
National Institute for Occupational Safety and Health: NOISH。
米国・保健社会福祉省(United States Department of Health and Human Services: HHS ※保健福祉省、厚生労働省と訳されることも)管轄下の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)内の1組織。1970年に米国・労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act: OSHA)の法制化を受けて創設され、以来、米国内の労働安全衛生分野における研究、情報、教育、および訓練の提供を通じて、働く男女のための安全で衛生的な労働環境の確保を支援することを目的とした研究および勧告を行っている。
※(2) 国際労働機関…
International Labour Organization: ILO。
1919年に国際連盟内で創設された後、1946年に国際連合(現・国連)初の専門機関となった歴史を持つ、労働基準の制定を通じて世界中の労働者の労働条件ならびに生活水準の改善を目的とする専門機関。スイスのジュネーブに本部を構える。すべての女性と男性にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現することを目指した労働基準を定め、政策プログラムを策定している。同期間が定める「国際労働基準」は、加盟各国の担当当局が労働政策を実施する際の指針としている。
職場の改善点を“集団分析”からチェック
職場や部署単位でストレスチェックの結果を集計・分析することにより、ストレス負荷の高い部署やその原因を探るのが「集団分析」です。 集団分析は「努力義務」とされていますが、できるだけ実施することが望まれています。
集団分析の結果を見るときには、部署の業務内容や労働時間などストレスチェック以外の他の情報と合わせて評価をすることが重要となります。仕事量や精神的な負担が高い業務が偏っていたり、社会的な支援や 周囲からのサポートが得にくい場合には、 関係する 部署・企業全体での環境改善が必要です。
改善策を考えるにあたり、働く人のメンタルヘルスポータルサイト「こころの耳」では、職場改善に使えるツールやヒント集、改善策の有効性を図るメンタルヘルスアクション・チェックリストを公開しています。
その中からいくつかを見てみましょう。
- 少人数単位の裁量範囲を増やしたり、一人当たりの作業量を減らしたりする
- 必要な情報が全員に正しく伝わるような場を設ける
- ノー残業デーの運用などにより、長時間労働の恒常化をなくす
- 繁忙期の仕事の負荷が過剰にならないよう、人員配置を見直す
- 個人の生活条件に合わせたフレックスタイム制を導入する
- 仕事をしやすいように、仕事場のレイアウトを変える
- 空調・照明・防音などに工夫して、快適に作業が行えるようにする
- 受動喫煙防止のため、分煙を行う
- 快適で衛生的なトイレ・更衣室を確保する
- 社内でコミュニケーションが取りやすいよう、情報共有体制を整える
- 懇親会や研修を通じてチームワーク作りを進める
- 従業員が仕事に対する適切な評価を受け取ることが出来るようにする
- 悩みを相談するための窓口を設けたり、セルフケアのための研修を実施する
- 従業員に昇進やキャリアアップの機会を公平に与える
いかがでしょう、明日から使えるアイデアはありましたか?
なお、厚生労働省では、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」や同省サイト、所管する独立行政法人 労働者健康安全機構のサイト上などで、職場環境の整備・改善を希望する中小企業や事業者に向けたさまざまな資料を提供しています。
- 厚生労働省:
こころの耳「職場環境改善ツール」
職場環境を整備・改善したい - 中央労働災害防止協会(中災防):各国情報・国際関係「国別の労働安全衛生制度について―アメリカ合衆国―」
- 国際連合広報センター:国際労働機関
初出:2015年12月11日 / 編集:2021年06月28日 |