働き方改革が施行され、大企業を中心に労働時間の見直しや、有給休暇の取得徹底など、様々な企業で労働環境が見直されるようになってきました。
環境が整備されていく中で、労働者にとって働きやすい職場になっていくと考えられていますが、働き方改革は労働者のストレスにはどのような影響を与えているのでしょうか。
働きやすくなった=ストレスが減ったということが一概に言えるのか、今回は労働者のストレスの原因と、働き方改革が与える影響について解説していきます。
最近の労働者は「人間関係」よりも「待遇」がストレス
労働者が抱えるストレスには、様々な原因があり、それらは社会が変化をしていくとともに主だった原因も変化をしているようです。
チューリッヒ生命が「ビジネスパーソンが抱えるストレスに関する調査」で全国1,000人を対象に行った3カ年のデータによると、労働者のストレス原因の傾向の一端を垣間見ることができます。
ストレスを感じる人は今年も微増、
約8割が「ストレスを感じている」結果に
勤め先でストレスを感じている人は全体で76.1%、男女別に見ると男性73.4%、女性は78.8%と8割近い人に「ストレスを感じている」という実感があるようです。
全体の割合に目を向けると男女ともに 「非常にストレスを感じている」人 は3割、「ややストレスを感じている」人が5割を依然としてキープしており、2017年・2018年に引き続き、若干ではあるもののストレスを感じている人が増えているのも継続して見られる特徴です。
性別・年代別ですと、昨年から引き続き男性では40代、女性では20~30代にストレスを感じている人が集中。8割以上の“現役世代”は仕事や業務上で何らかのストレスを抱えていると考えてよいでしょう。
一方「ストレスを感じている」20代男性は昨年より減少していました。同じ20代でも女性の方がストレスを抱えやすい環境にあるようです。
ストレスの原因も変化
「仕事内容と待遇」が「人間関係」を超えトップに
2017年の調査では、ストレスを感じていると答えた方の「勤め先でストレスの原因になっていると感じる」原因は、1位「上司との人間関係(39.7%)」、2位「仕事の量が多い」・「給与や福利厚生などの待遇面」(各28.8%)となりました。
職場での人間関係に悩み、ストレスを抱えている方が多いようです。
また、この結果を昨年と比較すると、昨年2位だった「仕事の量が多い」、「給与や福利厚生などの待遇面」は今年4位と5位となり、その他の項目が上位にあがってきています。
この結果は、昨今の“働き方改革”施行の中、多くの企業が従業員の仕事量を減らすために採用や、給料や福利厚生の見直しなど、従業員にとって働きやすい環境を整えようと働きかけた結果なのかもしれません。
ですが、さらに性年代別で見ると男性は「仕事の量が多い」・「仕事の内容」の項目で年代の差があり、日本の年功序列制度による立場の違いなど、社内の立ち位置によるストレスがまだ根強く残っているのではないかと推測されます。
残業時間短縮?それとも激務化?
気になる働き方改革の効果
これまでの「人間関係」のストレス以上に、仕事の内容や給与や福利厚生などの待遇面でストレスを感じる人が多くなった……ということは、働き方改革の影響力はとてもプラスに働くのではないか、と予想されますね。
実際、従業員はどんな対応・どんな影響を受けているのでしょう。
働き方改革で施行される「労務時間管理」
働き方改革で施行されることとしては、以下が挙げられます。
- 残業時間の罰則付き上限規制
- 有給休暇取得5日間の義務化
- 勤務間インターバル制度
- 割増賃金率の中小企業適用
- 3か月のフレックスタイム
- 同一労働・同一賃金
- 高度プロフェッショナル制度
これらは、働き方改革によって施行されていく内容となりますが、多くの方に影響を及ぼすのが、有給休暇5日間の義務化や、残業時間、同一賃金などではないでしょうか。
企業の視点からすると、求められる「労務時間管理」の確かさに加えて、設けなければならない規定・職場風土の改正といった 「中長期の計画やコストのかかる」管理業務について考えなければならなくなったともいえます。
働く環境が整備されていく中で、仕事の内容も見直され、多くの企業で生産性向上のための努力や、配置転換などを行い、企業が生き残っていくための「自己改革」が行われていくことでしょう。
労働者としては「時間は短く」「業務は変わらず」
今年の4月から順次施行が開始され、 ニュースで取り上げらえれることも多い「働き方改革」ですが、「現在勤めている会社で働き方改革に取り組んでいるか」とアンケートをとると、6割が「取り組んでいない」という結果に。実際に取り組んでいる・効果を実感している企業はわずか4割以下のようです。
また働き方改革に関する「企業の取り組み」として挙げられたものの多くは「残業規制」「労働時間削減」「フレックスなどの多様な働き方」ですが、「働き方改革実施後にストレスが増えた」と回答した方の 30%超が「勤務・業務管理が厳しくなったこと」、「収入が減ったこと」、「スケジュールが調整しづらいこと」を挙げていました。
本年度は大型連休もありましたがそれに関しても「仕事が休めない」といった答えがあるほど、「労務時間の管理」と「業務配分の見直し」は両立されていない印象を受けます。
特に従来「主要な働き手」として活躍されていた 50代男性は「業務管理の厳しさ」に対し他の世代より高くストレスを感じているというデータが出ています。
これまでの日本に無かった働き方・労働の捉え方、ITなどの新技術による新しいツールの登場によって仕事の進め方を変える必要などもあり、「未だなじめない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
これからのストレス対策に大事なのは「勤務・業務管理」の余裕
ストレスを感じている労働者は仕事の内容や福利厚生に不満を抱えている方が多いため、「同一労働・同一賃金」や「有給休暇の取得」など労働環境・待遇面などに影響を与える施策は労働者のストレスを解消する要因の一つになると予想されます。
仕事の内容についても、労働環境や社会の変化に伴い「労働者が働きやすい職場」を中心とした業務へ方向転換する企業も現れてると予想されます。
これまでの「社会の常識」と呼ばれていたものが徐々に崩れ、さらなる発展のために“人材の健康”が注目される時代へと動いていく流れができつつあるのではないでしょうか。
その中で「企業が変わるためにできること」はあるのでしょうか。
勤務・業務管理に余裕を持つことこそ、“改革”
労働者のストレスについて 企業側が対策をするためには、「勤務管理や業務管理に余裕を持つ」ことが第一歩となります。
残業の削減・労務時間の管理・有給休暇の必須取得など、働き方改革の対策は多岐に渡りますがその中心となる目的は「長時間労働による健康被害の防止」です。
ストレスを感じている方の声にもある通り、働き方改革へ対応したとしても「業務時間は削減されたが、業務は減らない」ままでは その目的に沿ったものではないでしょう。多様な働き方を認めたとて、「余った分は自分たちでどうにかしなければ」「家でもできるから……」と休む時間に食い込むような働き方が肯定されたわけではありません。
中小企業においては管理職の方々が様々な業務を兼務し、プレイングマネージャーとして自らも現場にいながらマネジメントしているという企業も多いでしょう。中には従業員の人手不足を埋めるために休日出勤や昼も夜もなく対応に追われている……というのも珍しいことではありません。
そのような方にこれまで以上の配慮や取り組みを求めやるべきことを増やす、というのもまた「改革」の趣旨とは異なるものでしょう。
まず企業として行うべきは管理職の仕事も含めた「業務の見直し」と働く人・働きたい人それぞれの背景や求める働き方の声に耳を傾けることではないでしょうか。
職場の改善というとこれまでのように人間関係や物理的な環境を「整える・よりよくする」ということが注目されがちですが、これからの企業には「仕事自体を見直す」、そしてより基本的な「法順守」の精神が求められています。
初出:2019年12月16日 |