AltPaperストレスチェック業界平均値「業種別レポート」から詳細解説
「AltPaperストレスチェックキット」をご利用いただいたお客様からデータ※1をご提供いただき、高ストレス者※2の割合・総合健康リスク※3・各種ストレス尺度について業種別に平均値を算出しました。
そのデータから業界に沿った詳細な分析・職場改善のご提案を【AltPaperストレスチェック業界別レポート】として発表いたします。
第三弾は、「医療業」「保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業」について。その背景と要因を分析し、従事されている方ご自身で行えるセルフケアなどをご案内いたします。
<2019年実施データ総覧>
ご協力いただいた企業はストレスチェックレポート全体で962事業所に登り、昨年度より255社の増加となりました。
「医療業」では全94社:男性4,559名・女性12,770名、「社会福祉・介護事業」では全164社:男性5,578名・女性13,926名のご参加をいただきました。
この二業種は女性の雇用率が非常に高く、特徴的なデータの傾向が見られました。
女性の高ストレス者・健康総合リスクが比較的高く、男女間の差があるのが特長です。また健康リスクに対して高ストレス者割合が高く、個別の従業員ケアが求められる環境があると思われます。
また、この二業種は女性のデータに、技能の活用度・働きがいに対して自覚的な仕事の適性度が低い「M字型」のグラフが現れていました。教育や生活関連業種において見ることの多いM字型グラフですが、医療・福祉業種のグラフではより顕著に現れています。ですが、「自覚的な仕事の適性」の値自体は男性と同程度、他業種と比較しても好成績であり、男性側にはM字が現れていないので「女性のデータが好成績である」と捉える方が自然と思われます。
この結果より、各業界の傾向とその背景、業界にお勤めの方にお勧めなケアを分析いたしました。
【業種別ストレス調査結果詳細】医療業、社会保険・社会福祉・介護事業
[ 分析方法 ]
職業性ストレス簡易調査票における各尺度の平均が全国データからどれほど乖離しているかを計るために、全国平均値を0とし、1から-1の間に全国データの7割が入るように、正規化数値※4を算出しました。
「上司の支援」が働きがいを高める?女性の働きやすさは長所
両業種で見られた「M字型」のグラフですが、前段で述べた通り女性の「技能活用度」「働きがい」がかなり高いためと考えられます。業界の業務内容が、国家資格を要する専門性の高いものであり、人の生命・健康を支える「有意義さ」も関係するでしょう。その他の項目においても女性のデータは良好な数値にありますので、「女性の活躍・技能の活用度や働きがい」は業界の長所と言えるでしょう。
ですが、男性の「上司の支援値」は昨年度でも平均またはそれよりも低い位置にありました。この支援の差は先ほど話題にあげた「働きがいのM字グラフ」が男性に見えない点にも関連するところがあるかと推測されます。
他に注意したいのは、「仕事量」です。「裁量度」は悪くはないものの、質的・身体的に負担感を感じていることが大きく現れてます。人の生命や生活を預かるという関係上、突然の呼び出しや夜勤、クレームといった精神的なプレッシャーのかかる業務が多いことが要因に想定されるでしょう。
また、プライベートな空間や身体に直接関わる関係上、手技や関係性の構築といった「個人の感覚・スキルが重視される業務内容」が少なからず存在することも想像に難くありません。
一人一人の責任が大きい業務・属人的なスキルを求められる環境だと、「その人でなければ難しい=休めない/休まない 」 ことが前提となってしまう環境になりがちです。
スキルを持ったスタッフを増やす教育体制や、今いるスタッフを疲弊させない施策とともに、ラインケアの一層の充実が改善に有効でしょう。
●医療業
「職種」に合わせたケア・ヒアリングを
従業員数では女性が圧倒的に多いけれど、男女間の差が少ないデータとなりました。心理的・身体的な仕事の負担度について女性の方が重く感じているデータが出ていますが、「働きがい」・「上司の支援」といった項目は女性の方が良好な数値を示しています。「高負担であるけれど職場からフォローがある環境」に近いのではないでしょうか。
仕事環境・同僚からの支援に関わるストレス状況は男女ともに基準値付近にまとまっていますので、物理的な環境や情報共有を行う体制が整っていることが伺えます。
目を引くのは、男性のデータにおいて「職場の人間関係」・「同僚の支援」・「家族の支援」が他業種よりも比較的よい結果となっていることです。業務内容的に共感の必要性・コミュニケーションの重要性やスキル、知識といったものに対する理解や周知が進んでいるのではないかと予想されます。
今後この傾向を強めていけると、よりよい環境になるかと推測します。
他に特徴的な点では、雇用人数の差が大きく、仕事の負担感に男女間の開きがあるため「他業種のように、業務・職種によって男女の雇用差が見られる」可能性が考えられます。その場合、男女といった身体的な特徴で二分するのではなく、医師・看護師・技師といった職務別の軸を導入してデータを分析することで有効なデータが得られるでしょう。
特に身体的な負担について女性の数値が男性のデータを下回っているため、「身体を使う作業」を提供するスタッフに女性が多いと思われます。看護師やヘルパーといった直接ケアを行うような業務に従事する場合、より「身体・精神の休息」をきちんととれる環境がストレス状態に関与するので積極的な改善が求められます。
医療業種では他業種でも低下傾向にあった「家族からの支援」の差が大きく、女性の方がより低い傾向にありました。看護婦・ヘルパーといった職種においては、不規則な勤務形態の他に、家庭の経済状態や子供の養育・介護といった「ダブルケア問題」など職場外に影響力の強い要因があることが予想されます。
一人一人の事情に合わせたケアや対応を行うことが、これからの福利厚生に求められてくると考えます。
●保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業
支援の行きわたる「相談しやすい」環境を
医療業種と比較して「肉体的負担に関しては男女ともに高い」「男女ともに仕事量は同角度のカーブを描いている」ことから、「同一の業務内容について、従事者の感じ方が違う」のではないかと予想されます。
男女共に身体的な負担が大きい業務へ従事している環境では、身体的な要因の関係からこのようなデータ形がみられるのではないでしょうか。このような場合、他業種と同様に健康や怪我・不調に対して素早い対応ができる「医療へつなぐ・無理せず休める」体制の構築が重要になります。
また、女性の「技能活用度」・「働きがい」・「上司の支援」が高い点は医療と共通ですが、男性の「裁量度」が女性に比べて低下の傾向が強いことには注意が必要です。「技能の活用度」「上司の支援」についても男性は女性を下回り、男性が「支援が届きにくい環境」におかれているのではないかと予想されます。
産業保健に関するアンケートや統計で男性は女性と比べて「相談する」という行動を選択しづらい傾向が報告されているため、より細やかなラインケアの実施、報告相談連絡のしやすい環境を整える事から改善を進めて行くことが有効ではないでしょうか。
また、男性の「裁量度」に関しては別の側面も予想されます。女性の多い職場に男性が参入する際、サービスを提供する側のみならず受ける側・ユーザーの意見や要求といった要因による影響ということも考えられるでしょう。このような「ユーザーからの影響」は、教育や医療といった業種で起こりうると見込まれます。身体的な負担の大きい業務が中心となる介護業界では、これら他業種のデータや成功事例と合わせて男性も働きやすい職場を目指し比較・検討・改善を着実に行っていきましょう。
【 セルフケア・改善案 】医療業、社会保険・社会福祉・介護事業従事者
以上の結果から、業界従事者の皆さんに行っていただきたいセルフケアを提案いたします。
医療業、社会福祉・介護業務に従事される皆様には、まず「仕事の質的な負担」を減少させることで「職場での失敗=ストレス増加」というループに陥らない事が重要になります。
人の命や体を預かるという業務内容上、「ミスを恐れる」ストレスは自分が想像している以上に重く心に溜まってきます。また看護師が離職を決意した理由は様々あれど「離職のきっかけ」をアンケートした際には『インシデントレポートを書いた・ミスが続いたから』という回答が必ずあるほど、 「ミスをしてしまった」ということ自体がかなり強い精神的なショックとなります。
一日の限られた時間であれば十分に機能する集中力も、勤務時間中ずっと継続しなければならないかったり、決められた時間以外でも必要とされたりするとより強く精神的な負担がかかることでしょう。
業務ストレスから自分を守るセルフケアの一環としても、「安心」を確保することは重要になります。
職場の制度として確認やチェックを行うシステムが既に存在すると思われますが、それにプラスして声を出して、指をさして確認する・後で見られるよう、メモを取るといったステップを加え「後から見返すことができる、他の人が確認できる」環境を作りましょう。安心して自分の感情を吐き出せる・その時起こった事を後から振り返ることができる「日記」を習慣にすることは感情の整理にも有効で特におすすめです。
突発的なお仕事に対してもいつも通りの能力が発揮できるよう「ルーチンワーク」など決まった自分の盛り上げ方を作るとよりスムーズに業務に臨むことができます。通勤時に決まった運動や動作を繰り返すことで、体から「仕事モード」に切り替えるスイッチを意図的に作ることができます。帰宅する前に決まった動作を行うことで体からリラックスモードに切り替わるスイッチを作れば、効率よく休息する手助けをしてくれます。
「あれ?」に気が付く体調管理・ 安心できる「相談先」の確保を
身体的な面では、「睡眠」が心と体の健康を維持するための鍵になるでしょう。十分な睡眠は生活習慣病の予防や神経の興奮をリセットする機能を助け、ストレスへ対する抵抗力や業務の効率性を高めます。質の良い睡眠をとるためにも、寝酒や睡眠間際のカフェイン摂取は控える・ベッドや就寝前の環境を整える・なるべく日差しを浴びるといった生活習慣を取り入れることをおすすめします。またストレスによるメンタルヘルスの不調は、睡眠に現れることが多くあるため、「いつもと違うな」と感じた時は注意が必要です。
「眠れない」「眠りが浅い」「何度も起きてしまう」といった事が続く場合、専門機関へ相談してみましょう。
ミスをしてしまった時こそ、普段の「報告連絡相談ができる環境・関係性」が問われます。日頃の人間関係以外にも「誰に質問をしたらいいか」を把握をしておくことで、アクシデントがあった際の対応の他に、「ちょっとわからない」「不安なので確認したい」といった日常のちょっとしたストレスが軽くなります。
また、職場で相談窓口や担当者を確認しておくことは「ここに相談していいんだ」という心の余裕につながります。業務内容によっては家族にも話すことのできない悩みを抱えてしまう事もあるでしょう。そんな時、同様の経験のある、または環境を深く理解してくれる「同業の相談相手」は一番心強い味方になります。
「ストレスチェック業種別レポート」の第四弾以降は、当「ストレスチェックマガジン」上で引き続き掲載予定です。
より詳細なデータ分析・職場改善の手法、事例などを引き続きご案内いたします。
<注釈>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※1.データの取り扱いについて
・各事業者様にご提供いただいたデータにつきましては、業種・規模・地域をお伺いして分類することとし、個々の事業者様・受検者様を識別できないようにして取り扱っております。
・各受検者様の回答につきましては、性別・職種と57項目・80項目の回答データのみ使用することとし、個人を識別できないようにして取り扱っております。
※2.「高ストレス者」とは
厚生労働省が公表したマニュアル(2015)に基づいており、以下(i)及び(ii)に該当する者を指します。(i)及び(ii)に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度とします。
(i)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
(ii)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」及び「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※3.「健康リスク」とは
基準値として設定された全国平均値100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」は、量-コントロール判定図と職場の支援判定図の二つをさらに男女別に分けたもので構成されます。この二つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
◆仕事のストレス判定図
1.量-コントロール判定図…仕事の量的負担とそれに対するコントロールの度合い(裁量権)による健康リスク
2.職場の支援判定図…上司の支援と同僚の支援の状況・バランスによる健康リスク
※4.「正規化数値」とは
{ (各尺度の値) – (全国平均) }/(全国データの標準偏差)×100を正規化数値と仮定しています。
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〔参考文献・関連リンク〕
- 日本看護協会:2018年病院看護実態調
- 厚生労働省:雇用動向調査
- 厚生労働省:新規学卒者の離職状況
初出:2020年7月8日 |