組織改善Week:木下祐輔氏セミナーアーカイブ「離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために ーデータヘルス共同研究の試みー」【1】

当記事は、2022年11月7日~11日に開催したセミナーイベント「組織改善Weekオンライン」3日目、11月9日の木下祐輔氏オンラインセミナー「離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために ーデータヘルス共同研究の試みー」を書き起こしたアーカイブレポートです。

当アーカイブは、該当セミナーを全2回に分けてご案内する第1回となります。

質疑応答を含むオンラインセミナー全編の収録映像を先行してご覧になられたい方は、当記事末のフォームより見逃し配信のご視聴をお申込みください。

【2023年6月30日(金)18時】までの期間限定 で無料でご視聴いただけます。
※アーカイブ視聴期限を延長しました

 

当社・株式会社情報基盤開発は、神戸大学データヘルス共同研究プロジェクトと提携し、通常のストレスチェックでは把握しづらい社員の離職・転職意向なども探ることができる「健康経営・従業員エンゲージメントに関する調査」 の共同研究プロジェクトを実施しております。
 
「組織改善Weekオンラインセミナー」の中では、データヘルス共同研究の試みについて、大阪商業大学専任講師の木下先生をお招きし、『離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために』をテーマにお話しいただきました。
 
「従業員のストレスに影響を与える要因と、ストレスを緩和する要因とは?」
「ハラスメントが実際に従業員のストレスや離職意向に関係するのだろうか?」
など、こちらのプロジェクトのもととなった調査結果を交えて、講演の内容をお届けいたします。
 

木下氏

『組織改善Weekオンラインセミナー』ご聴講の皆様、はじめまして。大阪商業大学経済学部の木下と申します。
本日、私からは『離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために―データヘルス共同研究の試み―』というタイトルで報告をさせていただきたいと思います。
 
今回の私の報告は、株式会社情報基盤開発様と実施している共同研究のご参画のお願いが主旨となります。
その前に、我々神戸大学のデータヘルス共同研究プロジェクトの概要、並びに本プロジェクトが、これまでどのような研究成果を報告してきたか、今回の組織改善Weekの趣旨に沿うであろう研究を二つ紹介して、お願いとさせていただきたいと思います。
 

 

 

1.データヘルス共同研究の概要と成果

・研究プロジェクトの概要

 

それでは、はじめに我々の共同研究の概要です。

神戸大学データヘルス共同研究プロジェクトでは、2017年からプロジェクトを始めております。全国健康保険協会(協会けんぽ)の兵庫支部様と神戸大学の間で連携協定を結びまして、健康増進および医療費の適正化等を目的として調査、研究の実施を行ってまいりました。
研究メンバーは、経済学研究科の藤岡先生を研究代表とし、神戸大学の教員、ならびに出身者が中心となっており、私もその一人です。また、関西圏の他大学の社会保障または社会政策、労働経済、医療経済を専門とするメンバー計12人で構成されております。

本プロジェクトの特徴として、発足当初から公的な支援を受けて研究をしていることがあげられます。2017年度には、神戸大学の中で学際的なプロジェクトとして社会システムイノベーションセンターから助成金を受けました。また、2019年度以降は文部科学省・日本学術振興会の科学研究費助成事業の基盤研究Bに採択され、研究に取り組んでまいりました。
 

 

先に申し上げた通り、我々のプロジェクトは2017年以降、協会けんぽ兵庫支部様と連携して実施をしてまいりました。
主な研究課題としましては、例えば、特定健診や特定保健指導等の疾病予防策は有効なのか、また生活習慣病の予防健診の受診者をどのように増やせばいいかなどについてです。これらについて、レセプトデータまたは健診・保健指導に関する個票データ等を頂戴して、我々の中で議論・検討した独自のアンケート調査をそれに加えることによって複合診療データを作成し、健康関連施策の評価、検証を行ってきました。
 
最近では、特にこの研究課題の二つ目に取り組んでおります。
つまり、職場環境または企業の健康管理施策が勤労者の心身の健康に及ぼす効果を中心に検討を進めているということです。例えば、病気が発症して、それによる損失もしくは医療費等々の分析はもちろん重要ですが、そこからさかのぼってそもそも病気をしないような組織のあり方はどのようなものであるのか、もしくは、そういった予防の方に重点を置く1次予防もしくは0次予防ということを、企業の組織論的な要素も考慮して検討しようということで、現在は主に職場環境と健康管理施策について研究を行っております。
 

 

・職場環境改善に関する研究の紹介

私たちがこれまで行ってきた研究の中から、今回は、主に2点、成果をご報告させていただければと思います。
まずは、今回のセミナーの主旨である職場環境、組織改善についてです。
 

 

最初に、皆様は既にご承知かと思いますけれども、労働時間の長さとメンタルヘルスの不調には強い関係があるということが指摘されております。

例えば、なぜ残業(所定外労働時間)が必要となるのかについては、この調査の結果を見てわかる通り、業務量の多さもしくは顧客からの不規則な要望に対応するため、仕事の繁忙期・閑散期の差が大きい、人手不足といった要因が影響しています。つまり、働き方だけでなく、残業が発生する背景のところまでしっかりと見ないといけないということです。我々も議論を重ねる中で、そういった問題意識を共有しております。
 

 

次に、所定外労働時間のグラフを業種ごとに見ると、最も「業務量が多い」と回答された業種は、やはり情報通信業または複合サービス業等々で多くなっています。「不規則な要望に対応する必要がある」という理由は、先ほどと同じように情報通信業もしくは建設業で回答が多くなっており、経済全体がサービス化が進む中で、働き方や仕事内容が要因となって長時間労働につながっている可能性があります。
 
労働経済学では人的資本を重視いたしますが、こういった状況を踏まえ、従業者のメンタルヘルスも広い意味での人的資本、健康資本として考慮する必要があります。こういった認識を持つに至りました。
 
そもそも、職場環境とは何かというところで考えてみますと、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進に関する指針」が2006年に出され、2015年に改訂されております。
 
こちらを見ると、職場環境や作業環境、作業方法または労働者の心身の疲労の回復を図るための施設、設備等々のみならず、先ほど見ていただいた労働時間もしくは仕事の量や質、それから職場の人間関係があげられています。

昨日の江崎様の発表でも人間関係が非常に重要だというお話がございました。職場環境という表現の中には、コミュニケーションが盛んに行われているかどうか、職場の組織および人事労務管理体制、文化、風土といった非常に幅広いものが含まれておりまして、仕事によるストレスの原因となる様々な要因が含まれています。ですので、その職場がどのような問題を抱えているのかをしっかりと個々に状況を観察して、適切な対策を考えないといけません。そういった状況に皆様、日々腐心されているのかと存じます。
 
これは、我々の研究成果の中で査読付きの雑誌に掲載されたものを掲載しています。『社会保障研究』という雑誌で、従業者のストレスにどのような要因が職場環境の中でも影響を与えるかということを分析いたしました。 
 

 

その結果、職場のストレス要因として、労働時間の増加、責任の増加、成果の要求の厳格化、仕事で求められる能力や知識の増加、または仕事の分担役割が不明確になるといった要素が従業者のストレスを悪化させる要因になっているという結果が出てまいりました。
 
注目を頂きたいのは、労働時間の増加といった量的な数字以外にも、責任の増加や成果の要求があることです。また、能力、知識などといった質的なものも同様化それ以上に重要になっていることが、研究結果から得られるメッセージとして挙げられるのではないかと思います。
つまり、業務負担を軽減させることも重要ですが、それをどのようにケアしていくか。セルフケア、ラインケアといったケアの重要性を示唆する結果がございました。
 
一方で、ストレス反応を緩和する要因についても見えてまいりました。
 
一言で言うと、仲間と協力し合う雰囲気があるかどうかです。そういった要素が従業者のストレスの改善に寄与しているといった結果でございました。また、評価や処遇の納得感の向上ということで、つまり自身が納得してこの仕事に取り組むことです。また、有意味感と言うのでしょうか。「この仕事を行うことで、どのように社会に貢献しているのか。意味があるのか。もしくは、組織の中でどういった貢献ができているのか」といった納得感も非常に重要だという点も、我々の分析から統計的に有意な結果として見えてきたということです
 
確かに、これだけサービス化が進んだことで、様々な現場で問題が発生しているとは思いますが、それ以上にケアの重要性、または納得感や職場のサポートの有無なども職場環境を考える上では無視できません。加えて、この納得感、職場サポートの有無等については、従業者のストレスを軽減させる効果もあるということは、一つの発見だと考えております。つまり、職場環境改善の効果というのは、非常に有効だということになると思います。
 

 

・離職防止に関する研究の紹介

次に、従業者の転職もしくは離職の防止についてはどうでしょうか。関連して、もう一つ研究を紹介させていただきたいと思います。
 
次にご覧いただくのは、メンタルヘルス不調による休職や退職の状況です。

 

 

左のパネルをご覧いただくと、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続1ヵ月以上休業した労働者がいる事業所の割合は、平均で約8%です。
また、退職した労働者がいた割合は3.2%です。合わせると、1割強の事業所でメンタルヘルス不調による休業、退職が発生しているという状況です。
 
また、右のパネルで【常用労働者の割合】は、同じように連続1ヵ月以上休業した労働者、退職した労働者の方の割合を表しています。注目していただきたいのがこのオレンジ色の線です。退職した労働者の割合は、企業規模がたとえ大きくても小さくても0.1%くらい発生しています。特に中小企業では、メンタルヘルス不調がそのまま退職につながる可能性もございます。中小企業では、人的もしくは金銭的な制約からなかなかメンタルヘルスの対策、満足のいく取り組みを行うことができていないといった状況があることも考えると、メンタルヘルス不調がそのまま退職につながってしまう可能性も十分あるということです。
 
そういったことを背景に、もう一つ我々の研究でご紹介したいのが次の内容です。
 

 

木下祐輔氏「離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために ーデータヘルス共同研究の試みー」アーカイブレポート » 第2回

 

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オンラインセミナー 「離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために ーデータヘルス共同研究の試みー」 の当アーカイブレポートは、全2回に分けてご案内致します。上記は全2回中の第1回です。

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〔参考文献・関連リンク〕

 

初出:2023年03月17日 / 編集:2023年06月30日

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