株式会社情報基盤開発は、2022年中に「AltPaperストレスチェックキット」をご利用いただいたお客様からデータをご提供いただき※1、「高ストレス者」※2の割合・「総合健康リスク」※3・「各種ストレス尺度」について業種別に平均値を算出した「ストレスチェック業界平均値レポート2023」を公開いたしました。
※2023年公開の本データは、2022年内にストレスチェックを実施され2022年12月末日までに当社で集計を完了した1,684事業者(男性269,647名、女性216,093名)を含む約48万5千人のデータを対象としております。 ※2022年単年の「AltPaperストレスチェックキット」導入事業者数は約4,110法人、受検者数は約110万人 |
前回の業界平均値レポート考察①では「ストレスチェック業界平均値レポート2023」の調査結果概要をお伝えしました。本記事では、考察の第二弾として、「高ストレス者割合」が増加傾向にある中で対策につながる “次の一手”を考えます。
15%以上が7業界!? 高ストレス者割合の悪化が目立つ結果に?
今回、「高ストレス者割合」が15%を上回る結果となったのは7業界(全15業界中/ただし「T.分類不能の産業」を除く)で、うち前年と比べて2.0ポイント以上増加している業界は6業界と、高ストレス者割合の悪化が目立つ結果となりました。厚生労働省が示している基準はおおむね10%ですので、注意が必要であるといえます。
高ストレス者割合が増えた、かつ15%以上(基準値は10%以下)の業界は以下のとおりです。
E. 製造業
H. 運輸業, 郵便業
I. 卸売業, 小売業
M. 宿泊業, 飲食サービス業
N. 生活関連サービス業, 娯楽業
P84-85. 保健衛生、社会保険・社会福祉・介護事業
Q. 複合サービス事業,R. サービス業(他に分類されないもの), S. 公務(他に分類されるものを除く)
※赤い囲み部分 … 高ストレス者(A判定)割合:15%以上を赤色、10%以上を黄色に色分け
また、以下は「高ストレス者割合」の数値(%)を前年と比較した図です。
上記の結果を見ると、もともと身体的な負担の高い業務が中心の製造業や運輸業・郵便業、福祉・介護関係の業界などに限らず、事務作業や軽作業が主な職場においてもストレスが高い状況が見て取れます。
心身の疲労感や不調などに関する質問・項目の数値を重視して算出するこの「高ストレス者割合」が、業界問わず全体として増加している傾向がみられるのが、今回の業界平均値のひとつの特徴です。
このことから、物理的な心身の負担だけではなく、職場や生活環境のなかでストレスと感じる状況や、働くこと・労働から得られるやりがいについての認識が多様化していることも背景にあるのではないかと考えます。
ストレスも価値観も多様化?企業は従業員のニーズ把握を
例えば、これまでのような個人のストレスの感じやすさやストレス耐性だけでなく、
・どういった働き方や環境を求めているのか
・仕事を通して何を得たいか
・生活スタイルの変化や状況に応じた対応が可能か否か
など、個々のニーズや仕事・会社に求めるものも多様化してきており、何がストレスの要因となるのかは一概には言えなくなってきているのではないでしょうか。
特にコロナ禍を経て、テレワーク導入などによる通勤や勤務形態の変化、新しいIT技術や機器の導入・活用、コミュニケーションの形・機会の変容など、生活スタイルそのものが大きく変化したことで、これまでの当たり前が当たり前ではなくなり、価値観も多様になったように思います。
そうした中で、従業員がいきいきと働ける職場環境の整備を考える上で、企業は個々の従業員のニーズの把握や一人ひとりの価値観に目を向けることが、今後より一層求められるのではないでしょうか。
今回の「ストレスチェック業界平均値レポート2023」は、そういった点を感じさせる結果でした。
従業員のメンタルヘルス対策は、全方位型の「ウェルビーイング」視点で対応
多少のストレスを感じてもそれをプラスに変えることのできる状態を保つには、モチベーションややりがいなど個人の「主観的な側面」も大きく作用します。今回の業界平均値の結果と併せて注目したいのが、近年、健康経営や従業員のメンタルヘルス対策などいたるところで目にするようになった「ウェルビーイング(Well-being)」の視点です。
WHO(世界保健機関)による「健康」の定義で、ウェルビーイングとは「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること」とされています。
働く方にとってのウェルビーイングとは何かというと、社会と健全なつながりを持ち、心身ともに良好な状態で働くこと、職場や仕事に対する満足度・幸福度・モチベーションが高い状態を指します。
「ストレスの発生要因を減らす」職場づくりから、より前向き指向の「誰もがいきいきと働ける」職場づくりへ
事業者に義務付けられたストレスチェックの実施は、メンタルヘルス不調となることを未然に防ぐ「一次予防」の強化を目的としています。従業員のストレスマネジメントの一環として、「過重労働になっていないか」「人間関係に問題が生じていないか」等の健康障害が起きやすいマイナス要素の把握と改善に努める、言わば 「ストレスの発生要因を減らす」取り組みです。
これに対し、仕事のやりがいやライフワークバランスなどの価値観が多様化する近年において、職場のチームビルディングや従業員一人ひとりのウェルビーイングと向き合う「心理的安全性」や「ジョブクラフティング」といった “ポジティブメンタルヘルス” と呼ばれる取り組みへの注目が高まっています。
従業員のウェルビーイングが高い状態を保つことで、個人の人生だけでなく仕事にも良い影響をもたらすこともわかっていて、結果的に企業の業績・経営等に与える影響も大きいとされています。実際に「離職率が低下した」「作業中の事故やミスが少なくなった」「生産性が高まった」という事例が国内外で報告されるようになりました。
自社の従業員にとって何が「ストレスの要因となっているのか」、逆に、何があれば「職場や仕事に対する満足度やモチベーションの高い状態」を得ることができるのかを可能な限り可視化することができれば、具体的な対策を立て、従業員のウェルビーイングを高めることができるのではないでしょうか。
4割が未活用?! ストレスチェックの有効活用で、高ストレス者割合の改善も
もちろん、毎年行うストレスチェックについても、実施後の集団分析データをもとに職場環境改善を行うことで、従業員のメンタルヘルス不調のリスクを減らす効果があることも明らかになっています。言い換えると、ただ単に義務だからとストレスチェックを実施し、従業員に結果を返却するだけでは効果は見込めません。
きちんと職場環境の課題解決に向けてストレスチェックを実施し、集団分析データを活用していくことが肝心です。
厚生労働省発表の 平成30年労働安全衛生調査 において、ストレスチェックの集団分析を実施し、活用を進めている企業は全体の約59%という調査結果が出ています。41%は集団分析を行っていない、あるいは集団分析データを活用できていないということになります。
厚生労働省:平成30年労働安全衛生調査(実態調査)より情報基盤開発が作図
このことから、「ストレスの発生要因を減らす」職場づくりを行う企業は現状では6割弱で、まだ十分な伸びしろがあるように思われます。ストレスチェック実施後の集団分析データ活用に取り組む企業が今後より一層増えることで、高ストレス者割合だけでなく総合健康リスクの更なる改善が見込めるのではないでしょうか。
まずは今一度、貴社の集団分析データと向き合っていただき、 各事業場や従業員に合わせた、実施しやすい改善策を立てることや、 新たな取り組みをご検討いただけたらと考えます。
本考察の視点が、貴社の職場環境改善につながるヒントとなれば幸いです。
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「ストレスに悩まない職場をつくる」というミッションを掲げる当社としましても、より多くの法人企業・団体の人事労務ご担当者と従業員の皆さまの健康づくりをサポートできることを願っています。
今後も当ストレスチェックマガジンやオンラインセミナー等を通じ、具体的な職場環境改善事例や取り組みのヒントとなる情報を発信してまいります。
【調査方法】
この度算出いたしました「業界平均値」データは、当社サービス「AltPaperストレスチェックキット」を2022年中にご実施いただいた事業者を対象に、集団分析結果のご提供の承諾を個別に伺い、同意いただいた事業者のデータのみを用いて分析を行ないました。
比較の基準としている「全国(厚労省データ)」は、
“厚生労働省科学研究費補助金労働安全衛生総合研究事業
「職業性ストレス簡易調査票及び労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストの職種に応じた活用法に関する研究」平成19年度総括・分担報告書
表4 職業性ストレス簡易調査票下位尺度の職種別平均値及び標準集団との比較” が出典です。
集計につきましては、事業者様のデータについて男性参加者データ・女性参加者データに分け、高ストレス者の出現割合、健康リスク、各尺度の平均値を業種ごとに算出しました。なお パンフレット「ストレスチェック業界平均値レポート2023」掲載のデータ、及び、本記事につきましては、「男性」データを用いて、比較・分析を行っております。
※1 データの取り扱いについて:
・各事業者様にご提供いただいたデータにつきましては、業種・規模・地域をお伺いして分類することとし、個々の事業者様・受検者様を識別できないようにして取り扱っております。
・各受検者様の回答につきましては、性別・職種と57項目・80項目の回答データのみ使用することとし、個人を識別できないようにして取り扱っております。
※2 「高ストレス者」とは:
厚生労働省(令和元年7月)が公表したマニュアルに基づいており、以下(1)及び(2)に該当する者を指します。(1)及び(2)に該当する者の割合については、概ね全体の10%程度を基準とします。
(1)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が12点以下
(2)「心身のストレス反応(29項目6尺度)」の合計が17点以下で「仕事のストレス要因(17項目9尺度)」
及び「周囲のサポート(9項目3尺度)」の合計が26点以下
※3「健康リスク」とは:
基準値として設定された全国平均値100からどの程度乖離しているかで算出されます。また、健康リスクの数値を表す「仕事のストレス判定図」とは、 男女別に求められた量-コントロール判定図と職場の支援判定図から構成されます。この二つの調和平均が「総合健康リスク」となります。
量-コントロール判定図 はストレスチェックから得られた「心理的な仕事の負担(量)」「仕事の裁量度」の2尺度の数値から、職場の支援判定図 は「上司からの支援度」「同僚からの支援度」の2尺度から求められます。
〔参考文献・関連リンク〕
- 厚生労働省:平成 30 年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
- 吉村健佑・川上憲人・堤明純他、「日本における職場でのメンタルヘルスの第一次予防対策に関する費用便益分析」『産業衛生学雑誌』、2013; 55 (1): 11–24
初出:2023年08月21日 |