組織改善Week:木下祐輔氏セミナーアーカイブ「離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために ーデータヘルス共同研究の試みー」【2】

当記事は、2022年11月7日~11日に開催したセミナーイベント「組織改善Weekオンライン」3日目、11月9日の木下祐輔氏オンラインセミナー「離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために ーデータヘルス共同研究の試みー」を書き起こしたアーカイブレポートです。

当アーカイブは、該当セミナーを全2回に分けてご案内する第2回となります。

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第1回 « 木下祐輔氏「離職防止と社員の健康改善につながる取組の解明のために ーデータヘルス共同研究の試みー」アーカイブレポート

 

 

『労働安全衛生研究』という雑誌でつい最近出版されたものなのですが、職場でのいじめもしくは嫌がらせ、ハラスメントの経験です。

精神障害等の労災認定の中で、最近では職場のハラスメントに関する相談件数が増えているようです。特に、2022年4月からは中小企業でもパワハラに関してはしっかりと対策をすることが法律で義務付けられております。そういった中で我々の研究では、職場でのいじめもしくは嫌がらせについて着目をいたしました。

どのように分析をしたかと申し上げますと、まずハラスメントという言葉には非常に強いイメージがあります。誰から受けたか、もしくは、そのときの自分の状況はどうだったか、個々人によって感じ方が違います。ともすれば、自分は適切な指導だと思っていたのに、場合によってはパワハラと捉えられてしまうこともあります。皆様も、そういったご苦労を色々お聞きなのではないかなと思います。
 
我々の調査では、このような形で質問をいたしました。
それは、「過去1年間で月数回の頻度で左記、つまり仕事上必要な情報をもらえない、意見や提言を聞いてもらえない、怒鳴られたり暴言を吐かれたとか陰口や噂を広められた、もしくは、容姿や私生活への発言等々の経験をしましたか?」という聞き方です。
 
つまり、パワハラもしくはセクハラという言葉を使うのではなく、「こういった経験をされましたか?」という経験ベースでお尋ねしたということです。こういった方法は、欧米の調査でも利用されている方法でございます。
 
この結果、最も多かったのは、業務上のハラスメントということで、仕事上必要な情報をもらえない、意見や提言は聞いてもらえない、もしくは、不当な評価などが上位に挙がってまいりました。こういった要因を一つでも経験をした人の割合を見ると、だいたい43%です。つまり、少し多いかもしれませんが、5割弱の方が例に挙げた何らかの経験をされているということです。
 
この数字ですが、厚生労働省が2020年に職場のハラスメントに関する実態調査を行っていまして、過去3年間にパワハラ、セクハラを一度以上経験した労働者の割合がそれぞれ31.4%、10.2%と合計で41%程度でした。我々の調査でもほぼ同様の割合でしたので、このように考えれば、だいたい二人に一人が職場のハラスメントを経験しているという状況にあるということです。
  

 

では、こういったハラスメントが実際に従業者のストレスもしくは離職意向に関係するのかどうかということですが、答えはイエスです。
 

 

スライドではメンタルヘルスへの多大な影響と書きましたが、ハラスメント経験をされた方の抑うつ指標、すなわちMHI-5の指標を用いて分析を行いました。MHI-5のスコアを高めるかどうか見たところ、正規雇用者、非正規雇用者、女性、男性にかかわらずハラスメント経験は抑うつ指標を高めるという結果が出てまいりました。
 
特に、非正規雇用者の方では正規雇用者よりもだいたい1.5倍くらい多くなっており、女性雇用者、男性雇用者でも1.2倍くらいです。ハラスメント経験はストレスの悪化をもたらすという結果になりました。

では、そういったストレスの感じ方が離職意向につながるかということですが、こちらも大きく影響していました。ハラスメント経験が離職意向に与える影響について、「転職活動をすでにしている」「いずれは転職をしたい」「辞めたい」といった離職意向に与える影響は、特に正規雇用者の方で影響が大きく、かつ統計的に有意な結果となっておりました

つまり、ハラスメント経験については、労働時間やその他の要因を考慮しても、正規雇用者の離職意向を高めるという結果が出てまいりました。

こういった状況は、企業にとっては非常に大きな損失になります。人口減少時代、採用活動もそんなに気軽にできるものではありません。採用活動にかかる時間と費用、そして、実際に働き始めてからもOJTによる職業訓練があります。これまで手塩にかけて育ててきた従業者がこういった経験で辞めてしまうと、当然、やはり企業にとっても大変な損失となりますし、従業者個人にとっても人的資源の蓄積が中断されることによる悪影響をもたらすということです。

恐らく、ハラスメントの経験が従業者のストレスもしくは離職の意向に影響を与えるかを分析した研究は他にほとんどないと思っておりますので、ハラスメントに関する研究は非常に貴重なものであると考えております。
 

 

以上のことを考えると、休職もしくは離職というのは、問題の氷山の一角であると考えざるを得ません。
 

 

以上のことを考えると、休職もしくは離職というのは、問題の氷山の一角であると考えざるを得ません。
 
つまり、離職者、休職者というのは、海面に浮かんだ、顕在化した職場の問題であるということ。
しかし、その背後には、より大きな海面には見えてこないような職場環境の問題があることが示唆されます。

 
先ほどの人間関係の話もそうですね。それらを含めた職場環境の問題があり、それが心身の健康の悪化につながり、離職、休職に結びついています。こういった形で考えないといけないのではと感じるところです。

 

 

さて、こういった趣旨を踏まえますと、現在、経済産業省様が中心となって行われている健康経営にも非常に密接に関わることとなります。
 
メンタルヘルスもしくはセクハラ、パワハラによる離職等々によって人的資本が毀損されていくということは、健康経営を通じて様々な効果を達成していこうという活動の一番基本的な部分が、ある意味では失われていることになります。その結果、健康経営施策を実施してはみたものの、なかなか思うような結果につながらないということにもなりかねません。そういった背景には、職場環境の問題があるということです。
 
このように考えると、どのように問題を発見し、対策をしていくのかが重要となってまいります。そういった趣旨で今回、我々と情報基盤開発様との共同研究についてご説明をさせていただきたいと思います。
 

 

2.共同研究へのご参画のお願い

 

「健康経営、従業員エンゲージメントに関する調査」が今回の共同研究の名称です。

情報基盤開発様と私どもで分担いたしまして、情報基盤開発様が従来実施しておられるストレスチェックの57設問に加えて、我々の方で検討した調査項目の中から25問を厳選いたしました。

その中には、先ほど申し上げたハラスメントに関する設問も含めております。
この25問に追加的にご回答を頂くことによって、職場の環境もしくは働き方、個人特性等がストレス反応やメンタルヘルスに与える影響を確認します。それを通じて健康経営、潜在的な離職リスクなどへの示唆が得られる可能性がございます。こういった趣旨で今回、共同研究を実施させていただきます。
 

 

 

次に、具体的にどのような考え方、もしくは、質問項目で実施するかに関する話をさせていただきます。
 
まず、考え方の背景は、「NIOSH(National Institute for Occupational Safety and Health:米国立労働安全衛生研究所)」が提唱している職業性ストレスモデルに基づく内容が基本になっております。
職場のストレス要因、個人的な要因、仕事以外の要因です。これらの要因またはストレスを緩和する周囲のサポート等々が複合的に合わさって従業者のストレスの増減につながり、心身の健康という形で表れてきます。このような職業性ストレスモデルを背景に質問項目を検討しております。
 
追加の質問項目としましては、働き方、職場環境に関するものとして、「勤続年数」「経験年数や就業形態」「労働時間」「通勤時間」「ハラスメント経験」などの内容です。または、離職、転職の意向に関する設問、そして、心身の健康状態についてです。加えて、睡眠、余暇活動ということで、最近では睡眠負債という言葉も知られるようになり、しっかりと良質な睡眠を取れているかどうかもメンタルヘルスや仕事のパフォーマンスに影響を与えるといった研究が出ております。そのような睡眠時間もしくは仕事以外の活動についても把握できる質問を設けております。
 
つまり、通常のストレスチェックでは、仕事をする中で問題になっている・感じている内容について聞くことはできますが、追加質問では、仕事以外の部分も踏まえて、総合的に従業者の方のストレス状況もしくは離職、転職の意向を尋ねようという趣旨になっております。
 
その他にも、企業単位で回答いただく項目としましては、メンタルヘルスケアに関する取り組みがございます。
それぞれの企業様でもメンタルヘルス対策として窓口を作ったり、職場環境を改善するためのアンケートを実施されたり、もしくは心の健康づくり計画を策定されたりと、様々なメンタルヘルスケアの取り組みが行われていることと存じます。

併せて、それぞれの取り組みの実施状況を企業様にもお尋ねすることによって、実際に実施されているメンタルヘルス対策が従業者のストレスの改善に効果をもたらしているのかどうか、などの評価も可能になるのではないかと考えております。
 

 

 

具体的な質問例をご紹介いたします。

まず、離職意向の質問については、「あなた自身の転職や離職についてどう思っていますか?」ということで、「転職をするつもりはない」や「いずれ転職をしたいと思っている」、もしくは「したいと考えているが、転職活動はしていない」、「現在転職したいと考えており、転職活動をすでにしている」の中から選択します。
現在の状況や、意向はどの程度強いかを尋ねております。
 
次に、抑うつ指標に関する質問です。
「あなたは過去1カ月間にどれくらいの頻度で次のことがありましたか?」という項で、こちらの1から6については抑うつ指標の作成に関する質問でございまして、先ほどのMHI-5を作成するために使わせていただく内容になっております。
 
また、7番目の「心身の健康上の理由で仕事の出来が低下した」という設問は「プレゼンティーイズム(presenteeism)」に関するものです。最近はプレゼンティーイズムという言葉を耳にすることも多くなったのですが、出社しても本来のパフォーマンスを発揮できない、その結果、残業時間が長くなってしまうなどの問題について簡易的にお尋ねする設問です。
 
例えば、今は秋で花粉症がひどい時期でございます。私もそうですけれども、皆様も、頭がボーっとして通常ではあまりしないようなミスをしてしまうというご経験がおありではないでしょうか?
プレゼンティーイズムについては、その人の約3ヵ月分の給料の損失額が相当するといった調査もございます。このような形でプレゼンティーイズムを把握することは、企業の業績もしくは生産性等を考えるには、必要な項目ではないかということで入れさせていただいております。
 
また、8番目は同じような理由で仕事を休んだ経験があるかです。これは、「アブセンティーイズム(absenteeism)」といわれます。こういった内容も把握する設問になっております。
 

 

このスライドは健康経営への関心と次の展開に関するものです。

健康経営の効果については、業務パフォーマンスということでアブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、もしくはワークエンゲージメントは、今は健康経営度調査で収集をしていないけれども、これから効果の検証や改善状況把握のために、これらの関連する指標を使って確認していこうという方針も示されているようです。なので、我々の調査は、それを先取りするような調査になっていると考えております。
 

以上が、我々の調査の趣旨ならびに質問例です。
 

 

それでは最後に、我々の調査にご参画を頂くことによる参加企業者様のメリット、ならびに、個人情報の取り扱いについて申し上げたいと思います。
 


 
まず初めに、参加企業様へのメリットについてです。
 
調査結果については参加いただいた各企業様へフィードバックをさせていただきます。ご参加いただいた企業ごとに集計結果をお返しいたしますので、本調査にご参加いただいた全企業の平均値と比べて、自社のスコアがどう異なっているのか、例えば、離職・転職意向などと相関の高い項目があるのかどうか、を分析していただけるのではないかと思っております。
 
つまり、離職のリスクを見える化することにより、問題の共有や方針の立て方、どのような改善策を実施しているのかといった、「対策の材料」としてお使いいただけるのではないかと思います。
 
昨日の堤先生のご報告でも、エビデンスプラクティス・ギャップという形で、「(ストレスチェックの集団分析を実施して)確かに問題は分かりましたけれども、実際にどういった取り組みをしているのかわからない企業様が多い」ということで、色々な取り組みをご紹介していらっしゃいました。
 
例えば、先にも申し上げたハラスメントについては、それぞれの感じ方の違いが関係してくる部分がありますので、本人はハラスメントとは思っていないけれども、受けた側では「それは言い過ぎではないか」と感じるというギャップはどうしても生じます。
 
そういった中で、具体的な経験ベースで把握することにより、例えば、実際にどのようなことに気をつけて、ハラスメントの対策講座を開いたらいいのかなどの材料として使っていただけるのではないのかと考えております。
 
次にデータの取り扱いについてですが、個人情報については、たとえ参加企業様であっても個人を特定できるような、従業員の方個々のデータについては申し訳ありませんが、お伝えすることはできません。働き方に関する個人情報も含んでおりますので、ご理解をいただければと思います。調査実施者のみが閲覧させていただくといったポリシーで進めさせていただきます。
 
調査全体から得られた分析結果をどのように傾向・対策をしていくのかといった点については、各参加企業様がご検討いただく際に、自社の状況と平均値を比べるという形でご活用いただきたいと思います。
 
また、内容については、学会もしくは論文等でご報告をさせていただきたいと考えております。
その際には調査全体のデータに基づく、集計値や平均値で出させていただきますので、個々の企業もしくは事業所が特定できるような形での開示は決していたしませんので、ご安心を頂きたいと存じます。
 
最後にこういった調査に参加・実施することは、従業員に対して、企業のメンタルヘルスケアに対する姿勢を示すものでもあると思っております。社員のメンタルヘルスケアに企業としてしっかりと取り組み、積極的な取り組みを行うという姿勢の明示として本調査への協力をご活用いただきたいと考えております。是非、1社でも多く積極的なご参加をいただければ幸いでございます。
 
早足になりましたけれども、私の報告は以上です。

1社でも多くのご参画をお待ちしております。よろしくお願い申し上げます。
 
 

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〔参考文献・関連リンク〕

 

初出:2023年04月24日 / 編集:2023年06月30日

 

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