安全衛生管理:企業の災害対策に欠かせない「防災」と「BCP」とは?

企業の災害対策に欠かせない 「防災」と「BCP(事業継続計画)」 とは?

2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」によって犠牲となられた方々へ、心よりお悔み申し上げます。
被災者ならびにそのご家族と関係者の皆さまに対してお見舞い申し上げると共に、皆さまの安全と被災地域の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

 

世界中のマグニチュード6以上の地震の2割以上、活火山の7.1%が小さな国土に集中している災害大国・日本。台風や大雨・大雪といった気象災害、それに伴う土砂崩れや洪水、沿岸部では津波……多様な災害から身を守らなければならないのは人だけではありません。

災害が一度発生してしまうとその影響力は大きく、経済全体に大きなダメージが発生します。「災害時や緊急時の判断がその後の経営や営業を左右する」というのは、大きな災害を何度も経験した日本企業ならではの教訓です。

有事の対応こそ、備えが活きるもの。

SNSで出社情報や企業の対応が広く知られてしまう今、災害時の対応は 「安心して働ける・投資できる」企業としての評価に深く関わるトピックになっています。

今回は災害時対応に欠かせない二つの施策、「防災」と「BCP(事業継続計画)」についてまとめました。
 

 

災害時の出席は企業責任?
災害対策には「二つの視点」が大事

災害が起こった時、企業が守らなければならないものはなんでしょうか。

会社の宝でもある従業員の「人命・身体」はもちろん、震災中・震災後を見据えた「事業の継続」も並行して考えなければならない課題です。
この二つを守るため、災害対策は「防災」と「BCP(BCM)」の二つの視点からガイドライン・マニュアルを作成することが望ましいとされます。
 

企業の「防災」は従業員と施設を守るための対策を

一日の大半を過ごす職場、必然的に働いている時に災害に遭遇する可能性も高まります。

何度も地震に会ってきた日本企業では、「災害」と聞けばまず「防災対策」を確認するのではないでしょうか。

「防災」とは、一般的に自然災害、人的災害の被害を予防すること・被害への応急対策・被害後の復旧(被災前の状態に戻す意味)の3つを含む【社会や心身、命を災害から守るための対策】を指します。

企業の対策としての”防災”は、三つの意味の中で特に「会社の一番の資産である従業員の生命・社屋・情報を守る」ことを念頭に置いた予防・応急対策が求められます。

普段からの防災用品のメンテナンスや設備や社屋の耐震・耐災害化といったハード的な準備から、災害時の対応や避難訓練など各従業員に身を守る対応策を周知するなどソフト面での用意、情報の保管場所を分散し技術や顧客情報を保護する……

「防災」に欠かせない対策は幅広く、定期的な訓練や伝達、メンテナンスが必要です。

安全用品や対策を設けるだけに留まらず、年に2回以上はメンテナンスや訓練を行うようスケジュールを定めてみましょう。
 

BCP(事業継続計画)は様々なリスクへの“事前準備

無事に災害を乗り切ったとしても、技術が失われてしまった・材料の納入や通勤ができない・営業ができない…となると従業員の生活だけでなく事業の継続も危ういものです。

そのような事態を防ぐために、平時に「BCP(事業継続計画)」を策定しておきましょう。

「BCP(事業継続計画)」とは、 自然災害や事故・障害などで事業の継続が危ぶまれる事態に備え、緊急時に事業を継続・復旧するための計画/対策を指します。

業務の重要度の洗い出し、復旧優先順位や具体的な復旧手段と作業の目安時間などを定め、復旧中の代替手段や顧客に提出できるサービスレベルの協議通達といったあらかじめ行わなければならない「準備」を進めましょう。

「BCP」と防災対策の大きな違いはなんでしょうか。

防災対策は会社の資産や人命を被害から守ることを主としますが、BCPは「事業の継続」を守ることを主眼に置いています。

従業員や資産がなければ組織は存続できず、組織や職場がなければ被災した後の従業員の生活が守れなくなります。BCPと防災は二つ揃って初めて「企業の災害対策」として万全の体制といえるでしょう。

BCPは、いつ訪れるか分からない災害への備えとして行うものです。継続的に、恒常的に行っていくことが重要で、「この期間だけ」「このケースだけ」といった対応では意味がありません。

運営や経営と一体化した「会社のDNA」として定着することを目標に、計画の周知と実行を促進すべきです。
 

日頃からの備えが大事!
しておきたい「対策」と「共有」

災害の一番恐れるべき点は、「いつ起こるかわからない」予測の難しさにあります。

2018年6月の大阪北部地震では、朝の通勤ラッシュ時に地震が発生しましたが通勤を行っていた人の6割がそのまま出勤したとアンケートに答えています。

多くは数時間と長い時間を、慣れない道をたどりながら出社したことでしょう、出勤の判断を仰ごうにも「通信が混みあってつながりにくくなった」「判断を行う上長が出勤できていなかった」という声もありました。

災害自体の被害が大きくなくても、時と場合によっては二次的・人的な要因による情報、通信、交通の混乱や事故は発生します。

普段から以下3点は周知と確認を徹底しておきましょう。

  • 優先順位業務の確認、出勤・勤怠判断基準の周知
    ⇒社員に出退の判断を任せる場合は、「公共機関の停止」など明確な基準が必要です。
  • 電子・紙の両媒体による緊急連絡先の共有、保管
    ⇒ 機器の点検や安全確認などを連絡対応と並行して行わなければならない事態に備え、「連絡役」を設けましょう。
  • 避難経路や持ち出し袋の確保、食料飲料の確保
    ⇒いざという時職場の全員が場所やルートを思い出せるよう、避難訓練以外でも日頃からルートの掲示や目視確認を行う機会を。
     

昨今では都市や社会のシステムが複雑化するに伴い、災害被害の様相も複雑化しています。

「出勤はできたけど、帰宅困難になってしまった」
「インフラ(電気や通信) が停止して、安否のわからない社員がいる」
「会社が孤立してしまった、判断を下す上長が被災し身動きが取れない」
「避難所が満杯で、受入れられないと言われた」
……といった様々なシチュエーションを想定した対策が求められるでしょう。

営利活動を通して経済活動の発展を目指す目的の傍ら、企業には従業員の生活や就業痛の安全を守る「社会的存在」としての責任もあります。

従業員の人命、そして培われた一人一人の経験と知識を守るのは【いざという時の対応を知っているかどうか】です。

とっさの行動がとれるよう、日常の中で災害への備えや知識に触れ学ぶ機会を大事にしましょう。
 

 

〔参考文献・関連リンク〕

 

初出:2020年09月15日

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